47 :No.11 「金」 1/2 ◇wSaCDPDEl2:07/11/11 00:38:06 ID:QDxDc4Ig
朝、目を覚ますと草になっていた。
誰かに教えられたわけではない。
しかし何故か自分が草になったのだと理解できたのだ。
足下を見るとバッタがおれを蝕んでいた。
おれは注意しようかと思ったが、思い直してやめた。
そうだ。おれはコイツに食われてもおかしくない程の悪事を行ってきたのだ。
おれは昨日まで人を瞞すのが仕事だった。女を売るのが仕事であった。
それに対しておれが引け目を取っていたか。いや、思っていなかった。
金を得る事がおれのそういう気持ちを蒸発させてしまったのだ。
しかし、今では十分に後悔している。だから今の自分の身の上に文句は言わない。
仰ぐと空の青の中に雨雲が混ざっていた。
あれはおれだ。純粋な人間の中で横柄に振る舞っているおれだ。
純粋な気持ちをどこかに忘れ去ってしまったおれだ。
純粋な心というのはしっかり繋いでおかないとどこかに流されてしまう。
流されると二度と戻らない。そういうものなのだ。
48 :No.11 「金」 2/2 ◇wSaCDPDEl2:07/11/11 00:38:56 ID:QDxDc4Ig
おれは今まで欺いてきた女を思い浮かべた。
皆嬉しそうにおれについてきた。
自分が芸能界に入れるのだと確信を抱き。
自分が何をされるかも分からずに。
そんな女どもを見ておれはよく嘲笑した。
ばかだなあ、と。
だけれども嘲笑されるのはおれの方だった。
金を得る事だけに夢中になっていたおれの方が馬鹿だったのだ。
女を陥れた後とき、仲間はいつもおれと同じように笑った。
しかし、彼らの心には日ごとにグレー色の絵の具が中身をこぼしていた。
日に日に彼らの心は黒に近づいていた。今でもそれは続いている。
おれは思う。
金は人を駄目にする、と。
金を求める事は身を滅ぼすことと同値だ。
すぐそばの路をランドセルを背負った少年が歩いて、通り過ぎた。(終)