【 帰り道のある一コマ 】
◆ZchCtDOZtU




98 :No.25 帰り道のある一コマ 1/2 ◇ZchCtDOZtU:07/11/05 00:15:52 ID:fM34AAUL
 真っ赤な夕日に向かって僕らは並んで家路についていた。僕はテニスラケットとジャージの入ったリュックに通学鞄。
左手がかろうじて空いている状態。美希はテニスラケットとジャージの入った鞄と通学鞄で両手も塞がっている状態だっ
た。並んで帰るのは部活の終わる時間が一緒で家が隣どうなのだから当然と言えば当然で、偶然と言えば偶然。中学
生になってからお互いを変に意識したりして、一緒に帰ることなんてなくなっていた。僕がチラリと隣を見ると美希は俯き
ながら両手を塞ぐ荷物に少々うんざりぎみで、でも夕日に真っ赤に照らされる顔が最高に可愛いと思った。
「何、見てんのよ?」
「……別に。重いなら持ってやろうか?」
 僕はリュックの分、片手が空いていたので、本当に重たそうに歩く美希を見かねて聞いてみた。もちろんそこには男と
しての見栄とか、下心とか、そんな思いが90パーセント以上。好きな子と一緒に帰るチャンスがあれば男なんて皆こん
なもんだろ。
「……結構です」
「遠慮? いいよ貸せよ」
「いいって言ってんの!」
 と言いながら、美希は小走りで僕の前に出てる。僕は丁度、美希の影に半分くらい埋まりながら歩くような格好になる。
「……あんた、瞳から告白されたんだって?」
 暫く俯いて僕の前を歩いていた美希が振り返ったと思うと、突然に言ってきた。
「え……、うん」
「で、どうすんの? 受けんの? はぁー、瞳の奴も何でこんな奴が良いんだか……」
 瞳というのは僕らのクラスと言うか学年のマドンナ的存在で、簡単に説明すると、成績は学年で十番以内。ロングストレート
の髪に二重のパッチリ目。廊下を歩けば男子の二人に一人が振り返ると言った感じの娘だ。
「あー、んー、断った」
「あー、そう……。えー、なんで?」
「あー、だって、他に好きな奴いるし」
「はぁ? 何それ。馬鹿じゃない?」
「なんで馬鹿なんだよ。良いだろ誰好きになたって」

99 :No.25 帰り道のある一コマ 2/2 ◇ZchCtDOZtU:07/11/05 00:16:17 ID:fM34AAUL
「あー、はいはい。自由ですよねー、フリーダムですよねー」
 美希は後ろ歩きで、フラフラしながら僕の顔を覗き込むようにしながらニヤニヤしてる。
「ちなみに誰?」
「……教えない」
「えー、いいじゃん教えてよ」
「うるさい。教えません」
「なによ、減るもんじゃないし、教えてくれたって良いじゃない」
 観念したのか前を向きなおして美希が歩き始めたときに僕は言った。
「目の前歩いてんだけど気付いてくんないだよねぇ」
「誰が?」
 美希は相変わらず前を向きながら、後ろを一度も振り返らずに聞いた。
「だから、好きな奴。小学校の頃から好きで、今も目の前歩いてんだけど気付いてくんないんだけど、どうーしたらいいと思う?」
 夕日は誰も居ない通学路の僕と美希を真っ赤に照らしていた。僕の顔が赤いのも夕日のせいだし、美希の耳たぶが見る見る
うちに真っ赤に変わったのもきっと夕日のせいだ。 
「ねぇ……」
 僕の顔が夕日に照らされて真っ赤になってから十メートルも進んだ頃、ようやく美希が振り返って僕を見た。
「ねぇ、いつまで後ろ歩いてんの? 隣にきたら?」
「ハイハイ……。なぁ、告白の返事聞いてないんだけど?」
 僕は隣に並んだ美希の顔を覗き込むけど、表情は見えなかった。
「……あんなの告白のウチに入んないよ」
「そっかぁ? 告白のつもりなんですけど……」
「……鞄、重いんだけど。一個持って」 
 と言いながら僕を見つめる美希の顔は夕日をに照らされて真っ赤で変な顔になっていた。それは気恥ずかしさとテレが入った複雑な表情で、
でもまんざらでも無さそうな複雑な顔だった。だから僕は、美希の顔が真っ赤になったのは夕日のせいだけじゃない、と確信した。



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