54 :No.16 彼女の進む道 1/5 ◇IPIieSiFsA:07/11/04 20:28:19 ID:CXhL+OYA
彼女は一人、荒野に佇む。
吹きすさぶ風に腰まで届く黒髪は乱れ、漆黒のマントがはためき、彼女の姿が露になる。
膝まで隠すニーハイのロングブーツ。肘まで覆うロンググローブ。ボンテージ系のトップとボトムは、申し訳程度に局部を包んでいるだけで、そのため大きな胸は今にも零れんばかりである。
彼女が身に纏う総ては黒一色で統一されていて、頭には、宝石の埋め込まれた派手な装飾のティアラが黒く輝く。
腰には束ねられた黒い革の鞭。そして極めつけは大きな盾。亀の甲羅の様な外見のそれは、今は地面に突き立てられ、彼女が左手で支えている。
総てを包括したその姿はまさに、異様の一言に尽きる。
コードネーム:ラミア。彼女の名前。世界征服を企む秘密組織『ゼウス』の女戦士。彼女の立場。彼女は俗に言う、悪の尖兵の一人である。
普段は多くの戦闘員を従えている彼女だが、厚い雲に覆われた空の下、今は一人で待っている。
そう、彼女は待っている。――宿敵を。
「……来たか」
ラミアが小さく呟く。その視線の先には三つの人影。その容姿がハッキリと視認出来ると、ラミアは叫んだ。
「よく来たな! シレンジャー!!」
ラミアと対峙するシレンジャー――硬質素材のフルフェイスマスクを被り、身体にフィットしたタイトスーツに身を包んだ三人の戦士。
赤いスーツがスザクで、鳥を模したマスクを被った戦士。青のスーツはセイリュウ。マスクは龍をイメージさせる。白いスーツは女性でビャッコ。虎の如きマスクを被っている。
「だが、黄龍姫――ファンロンはどうした!?」
ラミアが鋭い視線とともに投げつけた疑問に、スザクが答える。
「貴様らの狙いはファンロンの命だ! それがわかっていて、わざわざ姿を見せたりすると思うか!」
「なるほど。ファンロン、神獣の長たる黄龍の姫でありながら、このラミアを恐れるか……」
鼻で笑う。
「それもよかろう! ならば貴様らの屍を餌に、ファンロンを誘き出してやるわ!!」
豪語するラミア。その姿からは増長やでまかせは見えず、断固たる覚悟がうかがえる。
「……あの覚悟、本物だぞ。気をつけろ」
スザクが他の二人に注意を促す。二人もラミアから発せられる気迫を感じ取って頷く。
「さあ! お喋りはここまでだ! 我らの間に言葉は不要! 互いの力で語るのみ! 行くぞ!!」
それが、戦闘開始の合図となった。ラミアは右手に持った鞭を大上段に振り上げ、叩きつける。シレンジャーはそれを左右と後方に跳んで避けた。
セイリュウがラミアの左手側から近づき、手にした青龍刀で斬りつける。
「オリャァァァッ!!」
「効かん! ふんっ!!」
しかしラミアは盾で一撃を防ぐと、そのまま力任せに振り払った。
55 :No.16 彼女の進む道 2/5 ◇IPIieSiFsA:07/11/04 20:28:44 ID:CXhL+OYA
後ろに大きく跳ね飛ばされるセイリュウ。盾を振ったために開いた正面からスザクが突っ込む。上段からヒートソードを振り下ろさんとするスザクに対し、ラミアは鞭を振るう。
「喰らえっ!」
「スネェェェェィク・ウィィィィップ!」
スザクのヒートソードを鞭で絡め、右手方向――攻撃のタイミングを図っていたビャッコへと振り回す。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
スザクがビャッコに激突。二人とも重なり合って倒れる。
ラミアは地面に倒れている三人を一瞥。
「どうした! 貴様らの力はこんなモノか! シレンジャー!!」
シレンジャーの三人が立ち上がる。
「調子に乗るなよラミア! まだこれからだ!!」
スザクが吠えたのをきっかけに、ビャッコが超速ダッシュ。一瞬でラミアの懐にもぐりこむと、顎を狙ってかち上げる様に蹴りを放つ!
「がぐぅっ!?」
直撃し、ラミアの身体が宙に浮く。その浮いた身体の下にセイリュウが潜り込み、深く沈みこんだ体勢から、自らの身体を上昇させるのと同時に、拳による連撃を放っていく!
「ぐっ! がぁっ! ごっ! あぐぅっ!」
背中を連打され、ラミアの身体はさらに上空へと舞い上がる。苦痛に顔を歪めたラミアは、目に映る空に影を見止めて、驚愕の表情を浮かべた。
空高く跳躍し、上空でラミアを待ち受けていたのはスザク。ラミアが自分と同じ高さに到達した瞬間、身体めがけて全力を込めた両腕を振り下ろした!
「がぁはぁぁっっ!!」
腹部を強打されたラミアは急降下。凄まじい轟音とともに、激しく地面に叩きつけられる!
「……ぐぅ……ぐぐぅぅぅ……」
「どうだラミア! これが俺達の必殺技『メテオクラッシュ』だ!!」
三人が集合して、スザクが叫ぶ。
ラミアはふらつきながらも立ち上がり、吠える。
「まだだ! この程度でまだ、やられはせん!!」
裂帛の気迫。口元からは血を流し、砂地に塗れたマントを顧みることのないその様相、否、形相に、シレンジャーは気圧される。
その時!
「ファンロン! ダイナミィィィィッッッッック! インパクトォォォォォォォッッッッ!!!」
上空から叫び声が聞こえた。ラミアとシレンジャーが見上げた先には、黄色い龍と、そこから飛び降りたと思われる、人影があった。
人影は急スピードで落下。右足を先に伸ばした蹴りの体勢で落ちてくる。真っ直ぐにラミア目掛けて!
「何ぃっ!?」
驚愕の声を上げ、左手の盾を右手で支えて直上に構え、衝撃に備える。直撃! キィィィィンと金属同士がぶつかったような澄んだ音があがる。盾に、甲羅の模様とは別に亀裂が入る。
56 :No.16 彼女の進む道 3/5 ◇IPIieSiFsA:07/11/04 20:29:13 ID:CXhL+OYA
「ちっ! よく防いだわね」
上空から攻撃を仕掛けた人影は地面に着地、不満そうに呟いた。
その姿はシレンジャー。色は黄色で、マスクは龍と見える飾り。但し、セイリュウのよりも豪華。シレンジャーの長にして、ラミア達がその命を狙う存在、黄龍姫――ファンロンである。
『ファンロン!』
シレンジャーが彼女の元へと駆け寄る。
「どうして来たんだ!? 奴らの狙いはキミなんだぞ!」
セイリュウの言葉には、少なからず怒気が含まれていた。それにファンロンは静かに答える。
「あたしだってシレンジャーの一員よ。みんなが戦っているのに、あたしだけ隠れているなんてできないわ!」
「ファンロン……」
「けど、さっきので仕留められないとはね」
「攻撃の前に叫んだりしたら防がれるに決まってるだろう!」
スザクが正論を言う。しかし、「それって、なんだか卑怯じゃない? ヒーローっぽくないというか……」ファンロンが正義の味方の正論で反論する。
「けど……」
「ごちゃごちゃと何を言っている! 私は三対一が四対一だろうと五対一だろうと構わんぞ!」
シレンジャーの諍いを遮ってラミアが怒鳴り、「もっとも、そんな小娘が一人二人増えたところで、なんの戦力にもならんだろうがな」嘲笑った。
「言ったわね! 露出狂のくせに!」
ファンロンが言い返す。
「だっ、誰が露出狂だ!」
「アンタよ、アンタ。そんな変態チックな格好を平然としておいて、露出狂じゃないなんて説得力が無いわ!」
ビシッと指差す。
「誰が変態だ! それを言うなら、貴様らだって原色の全身タイツなど着おって、変態ではないか!!」
「なんですってー!? 誰が好き好んでこんな格好してるっていうのよ!!」
「貴様の趣味だろう、ファンロン。恥ずかしげも無く身体のラインを曝け出しおって」
この言葉にビャッコが思わず胸を手で隠した。
「もっとも、貴様のような幼児体型ならば恥ずかしくは無いか?」
せせら笑うラミア。確かに、ファンロンは控え目すぎると言っても差し支えない身体つきをしている。
「うるさい! アンタみたいに使われることも無いのに無意味にデカイ、ウシ乳なんかこっちからお断りよ!」
この言葉に何故かセイリュウがあたふたとした。
「大は小を兼ねる。貧乳好きなど所詮、ごく一部の嗜好だ。だが、巨乳好きは五万といるぞ!」
この言葉にスザクがビクッと身体を震わせた。
57 :No.16 彼女の進む道 4/5 ◇IPIieSiFsA:07/11/04 20:29:41 ID:CXhL+OYA
「それは一般的なサイズの話よ! あんたみたいに戦いの度にポロポロ零れてる様な乳は敬遠されるわ!」
「だ、誰がポロポロ零してる!! 根も葉もない出たら目を言うな!!」
「どうだかー。もしかしたら、下の方も見えちゃってるんじゃないのー?」
この言葉にラミアは即座に確認して、ホッとした。
「あらー? 自分でも多少は気にしてるのねー?」
馬鹿にしたように笑うファンロン。
「ふん! 貴様のように、素顔を人様に晒すことのできぬ女の言葉など、何とも思わぬわ!!」
この言葉にファンロンは被っていたマスクを投げ捨てた。プラチナブロンドが風に舞い、碧眼を細くしてラミアを睨みつける。
「好きでこんな格好してるわけじゃないって言ったでしょうが! このSM女!!」
「リーダーは貴様だろうが! そもそもシレンジャーってなんだ! 普通は五人だろうが!」
「うっさい! このデカ女!」
「黙れ! チビ!」
二人の罵り合いは続き、ついには掴み合いの争い――キャットファイトへと発展した。呆然とその様子を眺めていた三人だが、慌てて二人を引き離そうとする。
スザクがラミアを。セイリュウがファンロンを。それぞれ背後に回って二人を引き離そうとした時、スザクの手がラミアの豊満な胸を鷲掴み、セイリュウの手がファンロンの控え目な胸を抑えた。
その瞬間、『胸を触るな!!!』二人は同時に叫ぶと、背後のスザクとセイリュウに肘を叩き込んだ!
マスクが凹む程の衝撃を受けて崩れ落ちる二人。
障害が無くなって、再び取っ組み合おうとするラミアとファンロンに、「二人ともいい加減にしなさい!!」ビャッコが怒鳴った。
「貴方たちは悪の戦士と正義のヒーローでしょ! それが髪を引っ張ったり、顔を引っかいたりの低レベルなケンカをするんじゃありません!!」
もっともだが、どこか論点がずれているような怒り方をするビャッコ。
「それに二人とも女の子なんだから、そんなはしたない真似はしちゃいけません!!」
殴ったり蹴ったりという、自分の行動はきっと忘れている。
『……はい』
消沈して俯き、小さな声で返事をする二人。どちらも髪は乱れに乱れ、ラミアの肌には無数の引っかき傷、ファンロンもスーツが破れたり血が滲んでいる。
「ほら、二人とも! 仲直りの握手をしなさい!!」
促され、しぶしぶと握手をするラミアとファンロン。
「うん! それで良いのよ」
満足気に笑うビャッコ。
58 :No.16 彼女の進む道 5/5 ◇IPIieSiFsA:07/11/04 20:30:24 ID:CXhL+OYA
「ふっ……ふふふっ……ははははははっ」
ラミアが声を上げて笑い出す。
「ど、どうしたのよ?」
訝しがるファンロン。
「……貴様と馬鹿みたいな諍いをしていると、命のやり取りをしていた事の方が、馬鹿らしく思えてな」
「ラミア……」
「行け! もう私は貴様らの命を狙わん」
「けど、それじゃあ貴方はどうするの? 私たちと戦わないなんて、許されるの?」
ビャッコの疑問は至極当然だ。
「……許されんだろうな。そもそも今回は、失敗続きだった私に与えられた最後のチャンスだった」
「それが、あの気迫の理由……」
「だが、またもや失敗した私に、もはや道は残されていない」
寂しく笑い、背を向けるラミア。その言葉と表情に、ビャッコも胸を切なくする。
「……道が残ってないなら、新たに創ればいいじゃない」
「何?」
ファンロンの言葉に振り向くラミア。
「アンタも言ってた様に、あたしたちって神獣戦隊を名乗ってる割には、四人しかいないのよね」
「ファンロン?」
「それも、足りないのは玄武の戦士。玄武ってね、蛇の絡みついた亀なんだって。色は黒。そういや、どこかにそんな感じの人がいたような気がするわね」
明後日の方向を向いて、誰に言うでもなく、ただひとりに向かって言うファンロン。少しだけ見える横顔は、わずかに赤く染まっている。
「……ファンロン」
呆然と呟くラミア。
「その気持ちだけは受け取っておく。だが、私にはこれまで共に戦った仲間を裏切ることはできない。さらば……いや、また会おう」
その言葉だけを残して、ラミアは姿を消した。
彼女が神獣戦隊シレンジャーのゲンブとして共に戦うには、まだもう少しだけ時間が必要である。
その時に交わされる会話を、少しだけ紹介しておこう。
「なんで私だけ貴様らと同じスーツが支給されないのだ!?」
「そのままの格好でゲンブの資格バッチリな人に、わざわざ着せる必要ないでしょ」
そして二人は、キャットファイトの続きをする。今度は、仲間として……。