【 魔女はパンツをはかない 】
◆FhAgRoqHQY




44 :No.13 魔女はパンツをはかない 1/2 ◇FhAgRoqHQY:07/11/04 20:18:41 ID:CXhL+OYA

「やぎ座のアン・ラッキーカラーは黄緑。身に着けていると、恋愛運が崩壊します。ってさ」
 美術部顧問の高居がそう言った時、冬木ハルカが真っ先に思い浮かべたのは、今朝穿いて来た若草色の下着の事だった。
 そして、片想いの同級生の事だった。
 美術室。外はもう夕暮れで、部屋にはハルカと教師の高居しか残っていなかった。
 ハルカはイーゼルの脇からチラチラと高居を観察した。すらりとした身長に、柔らかい女性的な曲線。
 ひきかえてハルカは中学の同級生の中でも一段と背が低く、ボブカットの顔にはまだ幼さが残っている。
 ハルカは筆を止めてうつむいた。ハルカは自分が子供っぽい事を知っていたが、もちろん納得と満足の間には遠い隔たりがあった。
「気になる? ……恋愛運」
「そん、そんなことないです!」
 ハルカはそっぽを向く。
「ねえ冬木さん。冬木さんは絵を描くとき、色を作るわよね?」
「……はい」
 ハルカが目を向けると、高居は意外なほど柔らかい笑みを口元に浮かべていた。
「出来た色が気に入らなくても、別の色を混ぜてしまったら、全く同じ色とは二度と会えないの。だから、今在るものを大切にしてね」
 優しくハルカを見つめる高居。ハルカは迷った後、自信なさそうに尋ねた。
「えと……絵の、ことですよね?」
「そ。絵のお話」
 高居は雑誌を手に教卓から立ち上がった。
「さって。そろそろ帰ろうかしら。冬木さんのお目当ての人の部活動も、そろそろ終わる頃でしょ?」
 目を丸くするハルカに、高木がにやっと笑いかける。真っ赤になってうつむくハルカの耳元で、そっと高居は囁いた。
「ふぇ……?」
 聞き直そうとしたハルカに、高居は片手を上げて美術室を出て行った。
 閉門のチャイムが鳴り始める。帰ろうとするハルカは、鞄の隣に置かれた体操着の袋に目を留めた。高居が言った占いの結果を思い出す。
 ――身に着けていると、恋愛運が崩壊します。
 ハルカは少し迷った後で、体操着の袋を手に取った。

45 :No.13 魔女はパンツをはかない 2/2 ◇FhAgRoqHQY:07/11/04 20:21:13 ID:CXhL+OYA

 階段を降りようとしたハルカは、踊り場から逆に上ってくる人物の顔を見て息を止めた。
 伊瀬速雄。収まりの悪い髪と、いつもそっぽを向いているような雰囲気の、ハルカの片想いの相手だった。
 同じクラスなのに、話した事もない。ハルカは胸中に小さい嵐を閉じ込めて階段を降り、伊瀬とすれ違った。
 その時まるで、流れ込む場所を見つけた水のように、高居の言葉が蘇った。
 ――でもどんなに勿体無くても、色はキャンバスに乗せなきゃね。
 ハルカは鞄を手が白くなるくらい握り締めて、足を止めた。
 目に力を込めて振り向く。まさかすぐそこに伊勢が立ち止まって、自分を見ているとは思わなかった。ばっちり目が合ってしまう。
「ふぇわ……っ」
 のけぞろうとした足は簡単にかくんと落ちた。伊勢の伸ばした腕が、ハルカの腰を抱え込んで見事にハルカに引きずられる。
 ハルカの脳が一メートルの垂直移動から解放されたとき、ハルカの身体はうつぶせで伊瀬の上にあった。
「冬木……スカート」
 ハルカのスカートはめくれあがって、体操着の短パンが丸見えになっていた。飛び起きて、スカートを戻してその上からさらに両手で押さえる。
 下着のままじゃなくてよかったと、ハルカは占いに感謝した。そしてふと気付く。
「ご、ごめんなさいっ。えと、その……伊瀬クン、わたしの名前、知ってたんだ?」
 伊勢は目を反らして立ち上がろうとして、顔を歪めて右足を浮かせた。ハルカが思い切って肩を貸すと、伊勢は表情を迷わせた後で小さく息をついて目元を緩めた。
「冬木こそ」
 ハルカは耳まで赤くしながら、にへっと笑った。

「あれ、これ先月号?」
 中学教師にして美術部顧問の高居桃子は、手に持った雑誌と、職員室の卓上の雑誌とを見比べた。
 今月号らしき雑誌をめくり、星座占いのページを見る。
 ――やぎ座のラッキーカラーは若草色。意中の相手はアナタに釘付け間違いなし。
 手に持った先月号で頭を掻くと、高居はそれをゴミ箱に放り込んだ。
「まいっか」

              了



BACK−赤とイエロー◆K0pP32gnP6  |  INDEXへ  |  NEXT−我らからふる姉妹〜驚撃の山本〜◆CoNgr1T30M