23 :No.6 天使の翼 1/2 ◇OlsmS4EvlM:07/11/04 12:06:04 ID:HQf9RrBV
そこは春のような暖かさだった。
弓の練習場で、天使達が、矢を射る練習をしていた。
ほとんどの天使が白い翼の中、一匹の天使の翼だけが灰色だった。
「君だけ灰色だね。何をやったんだい?」
白い翼の天使が、からかうように灰色の天使へ言う。天使は良い
行いをすれば、翼が白色に近づいていく。また、逆に悪い行いをす
れば、黒色へと近づくのだ。灰色の天使は、いつも苦笑を浮かべ、
「何か悪いことをしたんだろうね」と言った。
灰色の天使が矢を受けた。綺麗な装飾の矢、それは幸福の矢と呼
ばれる物だ。矢にあたったものは、願いが叶う。それ故に、神が慎
重に目標を選定し、天使はその目標に向けて矢を放たなければなら
ない。
灰色の天使が地上に降りると、冬だった。冷たい風が身体を突く。
目標を見つけた。灰色の天使が矢を射ろうとした所、白い天使がそ
の目標の人間に向けて少し後方から矢を射った。
矢は複数の天使に与えられる。早い物勝ちというのは変だが、射ら
れた物は仕方がないのだ。
24 :No.6 天使の翼 2/2 ◇OlsmS4EvlM:07/11/04 12:06:39 ID:HQf9RrBV
次の目標も、その次の目標もその白い天使によって先に射られた。
白い天使は灰色の天使が狙った目標全てに矢を射っていく。
少女が通りかかった。目標に似ているが少し違った顔をしていた。
しかし、あれは……。
白い天使の矢が飛び、刺さった。白い天使は苦虫を噛み潰したよう
な渋い顔をして、灰色の天使に近づく。
「あれ、違うよね、参ったな……。誰に射ったか報告しないとい
けないし」
灰色の天使は微笑んで、その少女に向かって矢を射った。
少女に刺さると、白い天使の矢筒に一本の矢が現れる。後に射られ
た矢が有効なのだ。
「ありがとう、助かったよ」
神から罰せられ、翼はほとんど黒色に近づいた。天使が地上を見下
ろす。
黒い翼の原因となった少女は笑っていた。病院の中、事故にあい、
もう助からないはずの両親が奇跡的に回復した。
「神様、ありがとうございます」少女は呟いた。
天使は満足そうに黒い翼を広げ、弓の練習場へと消えていった。
[fin]