【 深意なき戦い 】
◆faMW5pWHzU




126 :時間外No.02 深意なき戦い 1/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:51:58 ID:w/TBCAUI
 時は昭和XX年1月13日――――――――
 東日本の覇権を争う、山岡組と富村組。
 遂に、その二つの組の死闘に決着がつかんとしていた。
 場所は繁華街の片隅、うらぶれた通りにある雑居ビル。
 広域指定暴力団山岡組事務所である。
「手前等ァ、よくここまで俺らについてきてくれたなあ」
 ずらりと並んだ屈強な男達の前に佇むは、山岡組五代目組長、豊田源平。
 幾度となく死線を潜って生き抜いてきた男が、最期の覚悟を決めていた。、
「組長……今からでも遅かァありやせん。海外に高飛びでもしちまえば、奴らァもう追ってきやしねェっすよ……」
「ばァたれが。そんで手前等はどうなる。俺らを若ェもん盾にして逃げ延びた、死に損ないにしてくれンなや」
「ううっ、組長ォ……」
 厳つい顔に似合わぬ涙を浮かべる若頭に、源平はにやりと笑ってみせる。
「なァに。奴らァ俺らが憎くてしょうがねえらしい、あのお山の大将を神輿に乗せてくるに違えねえ。こいつァ千載
一遇の好機ってやつだ。ノコノコやってきたところを、素ッ首ブン斬っちまえばこっちの勝ちだ。だろう?」
「………………へへっ……そッすね……」
 強気にうそぶく源平の言葉に、組員達は少しだけ口の端に笑みを浮かべることができた。
 と、そこに分け入る慌しく階段を駆け上る音。
 突貫するかのような勢いで開けられた扉から、若い舎弟が転がり叫んだ。
「や、ヤバいっす! いつの間にだか、すっかりこのビル、囲まれて……!」
「……来たか……」
 源平は呟くと、今や一様に自分と同じ表情を浮かべている組員達へ向け、一喝した。
「手前らァ! 豊田源平の生き様ァ、よおっく見とけやあ!!」
「押押押押押押ーーッ忍ゥ!!」
 
「おぉう。よく出てきたの、豊田のォ……てっきり小便ちびって震えておるかと思ってたがのう」
 外に出た源平と以下数名の組員達の前に待っていたのは恰幅のいい、だが目付きの異様に鋭い老人。
 富村組四代目組長、上野茂吉。
 彼の従える富村組、その構成員達が百人からの大群でビルの入り口を囲っていた。
「はッ。手前こそこんなとこにいるよりゃあ、家で母ちゃんにオシメ着けてもらってる方が似合ってるぜェ……」
「フフ、この状況で言うじゃあねえか豊田の……」

127 :時間外No.02 深意なき戦い 2/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:52:16 ID:w/TBCAUI
 源平の不遜な物言いに、しかし上野は落ち着き払い、笑みすら浮かべて言った。
「きさんに一つ提案があるんじゃがのう。ここは一つ、儂ときさんのサシでケリぃ着けるってのはどうじゃ?」
「……あァん?」
 源平は訝しんだ。何故この、富村組に圧倒的有利な状況下でそんな提案をする必要があるのか?
 当然なんらかの目論見、あるいは罠があると考えてしかるべき。
 だが。
「……いいぜ、その提案受けようじゃあねえか上野の親分さんよ……」
 上野の腹にどんな企みがあろうと、源平には始めから何一つ躊躇する理由などなかった。
 もはや失うものは何もない。ただ一矢報いる事だけを考えるのみ。
「ククク……よう言ったのう豊田ァ! きさんの頭に風穴開けてやるけぇ、覚悟しいや!」
「言っとけダボがァ! んなら俺らァ、手前の見苦しい腹の肉抉ったらあ!」
「! や、やべえぞ! おいお前ら、もっと下がれーっ!」
 源平と上野、二人の尋常でない気迫を察した山岡組若頭が、その場に居並ぶ全員に警告を発したその瞬間。
「はっ!」
「ぬりゃあ!」
 二人が気合と共に両掌から繰り出した衝撃波、その余波のみで両組の組員達は揃って後方へ吹っ飛んだ。
「うわぁあっ!?」
「ぎゃあっ!」
「ひいいっ!?」
 野太い悲鳴が幾つか響き、一瞬の後、立っている者は衝撃波を発した二人のみとなった。
 気づけば組員達の輪は彼等のボスを中心に、綺麗なサークルを作っていた。中心との距離、およそ十数メートル。
「……なるほど……。きさん、だいぶウデぇ上げたようじゃのう……」
「ふふ、そいつァそっちも同じだろう。いつかたァ比べもんになんねぇ魔力だ……」
 源平と上野は示し合わせたように不敵な笑みを浮かべ、――――上空へ同時に飛び上がる。
「まずはこっちから行くぜ……喰らいやがれえっ、炎熱魔導砲!」
「効かぬわあ! ブラッディフレイムゥ!」
 二人の放った熱衝撃波の衝突に、地が揺れ響き、空が唸る。
「こいつァどうでえ! 烈覇雷神波!」
「しゃらくさいんじゃボケぇ! エターナルフォースブリザードォ!」
 源平の掌から迸った幾本もの稲妻が、上野の投げつけた極寒の冷気に相殺され蒸発する。

128 :時間外No.02 深意なき戦い 3/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:52:30 ID:w/TBCAUI
「す、すげえ…………」
「俺達とは、次元が違いすぎる……」
 もはや組員達に為す術は何一つなく、彼等は既に舞台に見入る観衆と化していた。
「聖天蒼弾・改!」
「堕天使の輪舞曲(ロンドオブデスエンジェル)!」
「真・冥華閃紅斬!」
「戦女神の鎮魂歌(ヴァルキリーズレクイエム)!」
 華美な魔法の応酬は、息つく暇なく延々続いた。はや十数分、空に浮いたままの二人を組員達は見守り続ける。
「あ、兄貴ィ……組長、勝てますよねえ?」
 進展のない戦いに業を煮やしたのか、山岡組舎弟の一人が、若頭に不安そうな顔で尋ねた。
「バカヤロォ! 手前みてえなチンピラが組長の心配しようなんざ百年早え! いいから黙って観てやがれ!」
 そう叫んだ若頭の顔には、一筋の汗が滴っていた。
(馬鹿野郎……! 俺にだって解んねえよ! けど……)
 彼は知っていた。一見互角に見える二人だが、その実源平には一つ、致命的に不利な要素が存在する事を。
(畜生っ! 組長、勝って下さい!)
 彼に出来ることは、ただ胸中で祈ることばかりだった。
 
「……フ、フ……どうじゃ、豊田の。きさん、もう……息ィする、のも、辛かろうがァ……ん?」
「ハハ、ハァ、手前、上野ォ……そっちこそ、贅肉が、随分とォ、重そうじゃあ、ねえか……」
 減らず口を叩きつつも、既に二人の体力と魔力は限界に来ていた。
 しかしここに来て未だ両者はその口に、笑みを絶やそうとはしていなかった。
 最後に勝負を決めるのは精神力。気合の殺がれた者から先に負ける事を、任侠道を歩んできた二人は知っていた。
 そして上野が、雌雄を決するための一言を、発した。
「おう豊田の……このままチマチマやっとっても埒が明かんわ。一丁、互いの最強魔法をぶっつけ合ってみンか?」
「……応、乗った。こんなチンタラやるなァ、俺らの性に合わねえみてえだかンなァ……」

129 :時間外No.02 深意なき戦い 4/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:52:44 ID:w/TBCAUI
「やべえ……! 組長っ、罠だ! 乗ッちゃあだめッす!」
 はるか上空にいる源平達の唇を読んだ若頭は、思わず顔を蒼白にして叫んだ。
「え、な、何がやべえんですかい?」
 舎弟が慌てて尋ねると、若頭はそのはるか上をいく慌てようで怒鳴り返した。
「組長の得意とする属性は炎! 対する上野は風!当然それぞれの最強魔法ってのも、その属性だろう! そして属
性には相性ってえもんがある!炎の魔法で風の魔法に対抗しようなンざ、自殺行為なんだよ!」
 言い終えた若頭は自分が舎弟の胸倉を掴んでいることに気づき、我に帰った。手を離し、頭を振って冷静になる。
(二人の実力は拮抗している……故にどんな僅かな差でも、それがそのまま勝敗を分けるだろう。だが、俺に出来る
事なんざ何もねえ。ただ組長の勝利を祈るだけだ……!)
 若頭は静かに、空の源平達へと視線を戻した。
 
「はあああああああああああっ!」
「ぬおおおおおおおおおおおっ!」
 源平と上野の、今にも世界を滅ぼさんとするかのような裂帛の気合。
 それに耐え切れず、山岡組事務所ビルの倒壊する様子が源平の視界の端に入った。
 だが、源平はそんな事を気にも留めはしない。今気にしなければならないことは、ただ一つ。
 目の前の敵を打ち倒す。 その事だけを考える。 自分の全てを叩きつける、その時の事だけを。
「くらいやあああああぁぁあっ! インフィニティイィィィトルネェェェェェエエエエエドオオオォッッ!!」
 上野が叫ぶと同時、視界を覆う巨大な竜巻が源平の眼前に出現し、猛烈な勢いで源平へと迫る。
「上野ォ……してやったつもりでいるんだろうが、勝負ってえのはやってみなきゃあわかんねえもんなんだぜ……」
 源平は呟くと、竜巻に向けて徐に両拳を突き出した。
「おおおおおおおおおおおおっ! 神突ぉぉぉぉぉぉつっ! 紅龍撃ぇええええええええええええきっっ!!」
 源平の身体は猛烈な勢いの巨大な炎の槍となり、竜巻の横腹を突き破る。
 そしてそのまま――――上野茂吉の身体をも。
「ぐっ……! こんな、ば、馬鹿な……!」
「覚えておくといいぜえ……風ェ呑ンじまう炎もあるってえことをよ……!」

130 :時間外No.02 深意なき戦い 5/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:53:01 ID:w/TBCAUI
 上野は一瞬にして、その身体の一片までも燃え尽きた。源平が振り返ると、竜巻は既に消えていた。
「やったあ、組長ぉおーっ!」
「お、俺は信じてましたぜえっ! ううっ畜生、やったあーっ!」
「うわぁ! く、組長が殺られちまったぁっ……!」
「に、逃げろおっ!」
 地上からは悲喜こもごもの声が聞こえてくる。
 だが、源平の耳にそれは届いていない。
(上野ォ……おめェさん本当は何にも企みなんかしちゃあいねえ、俺らと純粋に、サシで喧嘩がしたかったってだけ
の事だったんじゃあねえのか……?)
 上野は何故、源平に一騎討ちなど挑もうと思ったのか。
 彼の瞳には、一体何が映っていたのだろうか。
 全ての答えは、任侠道の、風の中に――――――

(完)

131 :時間外No.02 深意なき戦い 6/6 ◇faMW5pWHzU:07/10/29 00:53:15 ID:w/TBCAUI
「面白かったね。今週の『マジカル任侠道』」
「うん。組長かっこよかったね」
「かっこよかったよね。でも魔法の名前はかっこわるかったね」
「そうだね。かっこわるかったね」
「うん」
「うん」

(とっぴんぱらりのぷぅ)



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