【 トクベツ 】
◆cWOLZ9M7TI




108 :No.24 トクベツ 1/3 ◇cWOLZ9M7TI:07/10/29 00:30:07 ID:w/TBCAUI
私は、生まれた時から特別な存在だった。
特定の人物にとって、などといった意味ではない。
言葉通り、多くの人間よりも私は上にたっている。
周りの人間など私から見ればずっと下だ。
私には力がある。
他の人間にはそれがないのだ。
その事実こそが、私の立ち位置を遥か高みへと押し上げている。
周りに並んでる者などはいない。
たまに下を覗くと、無能な群集が渦を巻いているのが見え、少し気分が悪くなる。
なぜ、私が他の人に対してここまで優位に立っているか。
それは、私が魔法を使える人間だからである。

私が魔法を使える事に気づいたのは、9つの時だった。
子供の頃から妄想にふける事が多かった私は、ある日なんとなく目の前の鉛筆を浮かせようとした。
そして、それは浮いてしまった。
始めは目を疑ったが、すぐに自分は魔法が使える事、自分は特別な人間なんだと気づいた。
それから、私の世界は大きく変わってしまった。
周りの人間がすべて低俗に見え、ありとあらゆるものに対する興味が薄れてしまった。
それで世界がつまらなくなったとは思わない。
なぜなら、それと引き換えに私はすばらしい力を持っているのだから。
私だけがこの世界で特別なのだ。
その事実が、今の私を構成している。
私が魔法を使える事を知っているのは、いまのところ親だけだ。
小さい頃、親に人前では絶対に使ってはいけない、と、いろんな理由を添えて言われた。
別に従う必要もないのだが、話すといろいろ面倒になると思ったから、私は隠し続けている。
幸い、私は自分の力を周りに誇示したがるような人間ではなかったから、いままでバレたことはない。
今もこうして空も飛ばずに、学校からの家路を歩いている。

109 :No.24 トクベツ 2/3 ◇cWOLZ9M7TI:07/10/29 00:30:34 ID:w/TBCAUI
家の無駄に重い扉を開く。
家の中は静まり返っていた。
誰もいないのか。
リビングのドアを開けると、破裂音とともにいろんな色をしたリボンが視界に入った。
「15歳の誕生日おめでとう!」
破裂音の後に聞こえてきた声は、親や親戚、そして比較的親しい友人達だ。
だが、それよりも、衝撃的だったのは。
宙に浮かぶケーキやお菓子。
そこはまるで、まるで、魔法の世界のようで――
「母さん、これは。」
「おめでとう!ここまでよく我慢したわね。明日からもずっと、私達、ここで暮らせるのよ!」
意味がわからない。
「私達はね、元々の生まれは魔法の国なんだよ。私達が人間界で暮らすには、周りの人に魔法を使える事を知られてはならないんだ。」
父が言う。
「子供が生まれた場合、人間界で暮らす資格があるかどうか、テストのようなものがあるの。」
「それが、15歳まで周囲の人間に魔法を使えることを隠し続けられるか、って事だったんだよ。」
「もしそれを破った場合、私達は強制的に帰らされるばかりか、逮捕されてしまうわ。」
「だからって、これからも人に魔法を見せたりしちゃいけないんだがな。」
何を言っているんだ。
それじゃあ、それじゃあ私は。
「どうした、まだ驚いてるのか。まぁ無理もない。」
「さぁ、とりあえずご馳走を食べましょう。今日はあなたの大好きな――」
なんてことだ。私は、私は特別なんかじゃなかった。
この目の前にいる二人の親どころか、ここにいる全員、私と対等という事じゃないか!
私は高みになんかいなかった。ただ自分より低い者だけをみて喜んでいただけで、回りには同じ人間がたくさんいたのだ。
では私のこの一生はなんだ、私はずっと、何を考えてきたのだ。私が、私自身が崩れていく。
私は特別なんかじゃない。私は、そんな、そんな、では私は。私は。
なんて―――愚かな―――

110 :No.24 トクベツ 3/3 ◇cWOLZ9M7TI:07/10/29 00:30:48 ID:w/TBCAUI
病院の中は静まりかえっていた。
白衣のようなローブをきた男が、メガネをかけた男と少しシワのある女の目の前に座る。
「息子の――様子は。」
消え入りそうな声で女が言う。
「まだかかりそうですね。」
男が冷めた言葉でそういうと、女は泣き出しそうな顔して、下を向いた。
「結構よくある症例なんですよ。治るかどうかは本人次第、といったところですかね。」
白衣の男は淡々と言う。
メガネをかけた男、夫のほうが口を開いた。
「息子に、あえませんか。」
「今はまだあわせられません。精神の波がまだ大きく乱れてますので。」
それから、白衣の男と夫婦は二言ほど何かを話し、夫婦は重たい足で部屋を後にした。
白衣の男は深くため息をつくと、椅子の背もたれに深く体を預けた。
しばらくそうした後、白衣の男は部屋をでて、突き当たりを曲がってすぐの部屋の扉を開いた。
そこは、白い部屋にベッドが一つ。そして音を立てない機械。
ベッドの上には、少女が1人。
白衣が声をかける。
「調子はどうかな。」
少女は白衣を見向きもせず、ただ虚空を眺めながら、
「私は――私は――」
と消え入りそうな声で、何度も、何度も呟き続けていた。






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