【 たいへん喜ばしいこと 】
◆lnn0k7u.nQ




106 :No.23 たいへん喜ばしいこと 1/2 ◇lnn0k7u.nQ:07/10/29 00:29:06 ID:w/TBCAUI
 先日、たいへん喜ばしいことがありましたので、皆様にご清聴いただきたく存じ上げます。
他人の幸福話など聞きたくないという方はどうぞこの場をお離れください。不幸話ならとも
かく、幸福話というものはなにぶんご自分の立場と重ね比べて苛々するものでございます。
また、どうせくだらない与太話だろうと思われる方も、ご自由に席をお立ちください。興味
が無い事にはどのような話もつまらなく聞こえること、わたくしも重々承知しております。
ただし、どうか皆様一つだけ、わたくしに一分ばかりの猶予を頂けないでしょうか。今から
始まりますお話の、ほんの始まりの一片だけでよいのです。どうか、静かに耳を傾けてはい
ただけませんでしょうか。それはあらすじというには短すぎ、題名とするには長すぎる一節
でございます。きっと幸福話がお嫌いな方も、今のところ興味を抱かれていない方も、この
一節をお聞きになれば、聞き浸るとはいわずとも、次の一節を待ち望まれるのではないかと
存じ上げます。それでは始めさせていただきます。
 先日、わたくしは魔法が使えるようになりました。何故かと問われれば、わたくしにもそ
れを詳細に説明することはできません。しかし、ただ一つだけ言えるのは、この世を覆う何
か絶対的な存在――神とか創造主だとか――そういうものの仕業で使えるようになったので
はないかと存じ上げます。つまり、わたくしは魔法を自らの鍛錬や悟りによって会得したわ
けではなく、きわめて受動的に、何者かによってその能力を携えられたと考えるのが良さそ
うであります。それが何者によるところなのかは最後に明言させていただきます。最後に説
き明かすのが最も理に適っているとわたくしが判断したためです。決して皆様を焦らそうだ
とか、最後まで場に留まらせようだとか、そういった邪推の及ぶところではないことをお分
かりいただければ幸いでございます。
 さて、わたくしが魔法を使えるようになったと申しましても、それはたった一つの専門的
な魔法でしかありません。それはあまりにも一意的すぎて、わたくしにはどのように使えば
いいのか未だに分からずじまいなのです。今日この場をお借りしてお話しさせていただいて
いるのも、皆様に何かお知恵を拝借できないかという望みから叶った機会でございます。こ
こまで言うとやはり早くその魔法を見せたまえという声が聞こえてくるような気がいたしま
す。そうですね、そろそろお話しした方がよろしいかもしれません。実は、わたくしは今現
在すでにその魔法を使用している真っ只中なのであります。驚かれましたでしょうか。それ
とも初めからお気づきでしたでしょうか。そうであります、初めから使っているのです。嘘
ではございません。と申しますどころか、このわたくしの姿自体が魔法で出来上がっている
のです。

107 :No.23 たいへん喜ばしいこと 2/2 ◇lnn0k7u.nQ:07/10/29 00:29:33 ID:w/TBCAUI
 勘のよろしい方はその真意に早くもお気づきのようですね。少しずつですが、呆れ返った
顔でこの場を後にしていく方が見受けられるような気がいたします。たいへん回りくどいや
り方でお話を進めてきたこと、深くお詫び申し上げます。まだわたくしが何を言っているの
かおわかりにならないという方は、もう少しの辛抱でありますから、次の解決編にお付き合
いください。
 詳しく説明いたしますとですね、わたくしの魔法というのは別次元の世界に接続する魔法
なのです。わたくし自身が別の世界へ行くのです。お分かりになりますでしょうか。それで
もお分かりにならない方のために、わたくしに魔法を授けたものの名前を今明らかにいたし
ます。わたくしに魔法を授けたもの、それは◆lnn0k7u.nQでございます。わたくしの魔法と
申しますのは彼のいる世界において、文章という形で存在することができるという魔法でご
ざいます。いったい何故わたくしが彼に選ばれたのかは存じ上げませんが、これも何かの縁
ということで、こういった謎解きがてらにわたくしの自己紹介とさせていただいた次第でご
ざいます。
 この世界の方々と交流できるというのは、たとえ文章だけであろうと、たいへん喜ばしい
ことであります。わたくしどもの世界では核戦争が頻発する直前で、明日全人類が生きるか
滅びるかの瀬戸際にある状況であります。ゆくゆくはわたくしのこの魔法を鍛え上げて、文
章のみではなく、本体ごとそちらの世界へ行くことができるようになればと本願しておりま
す。その際はどうかわたくしのことをお手柔らかに保護していただければ幸いであります。
 それでは、皆様のますますのご発展を祈って



 ここで本文は途切れてしまった。どうやら向こう側の世界で核戦争が勃発したようだ。

                 了



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