【 『魔法学事始』 】
◆f/06tiJjM6




102 :No.22 『魔法学事始』 1/4 ◇f/06tiJjM6:07/10/29 00:27:53 ID:w/TBCAUI
「あー、どうも皆さんこんにちは。私が担当の香取洋子です。今日はこの講義を始める
にあたって、『魔法』とはなんなのかというイントロダクションにしたいと思います。」
(香取板書、『魔法』)
「さて、皆さん。魔法は存在すると思いますか。ちょっと決を取ってみたいと思います。
では、魔法は存在すると思う人。」
(ぱらぱらと手が挙がる。香取肯きながら、)
「じゃあ、魔法なんて存在しない!っていう人。」
(学生の半分ほどが手を挙げる。香取肯きながら、)
「あらあら、それじゃあそんなの分らないよーって人。手を挙げてくれますか。」
(はらぱらと手が挙がる)
「はい、降ろしてください。どうもありがとう。去年はほとんどが魔法否定派だったんですが、今年は変わりモノが多いようですね。ではそれぞれの意見を聞いてみたいと思います。ではそこの青いパーカーを着たあなた、意見とその理由について話してもらえますか。」
(青いパーカーの学生立ちあがる)
「えっと、僕は魔法が存在しないと思う理由は、もし魔法を使えるような人がいたら、テレビなんかで目にするはずだから、いないんじゃないかと思います。」
「なるほど、『魔法使い』についてその存在は稀有です。では、そこのおさげの女の子。」
(おさげの女子学生立ちあがる)
「あたしも魔法はないんじゃないかと思います。『魔法』という言葉は昔からありますが、
その存在が今までに証明されたことは無いと思います。」
「そうですね、魔法はひどく個人的な問題です。『証明する』ことは困難です。では肯定派の意見も聞いてみましょう。モヒカンの彼、あなた肯定派でしたよね、どうぞ。」
(モヒカンの学生立つ)
「んー、と無いと、この授業も無いわけで、この授業を先生がするということはあるん
じゃないかと。」
「なかなかもっともな話ですね。でも、確かに私はひねくれものですから、嘘を言うかも知れません。ほかに意見がある人はいませんか。」
(学生の1人が挙手)
「どうぞ。」
「魔法の定義はなんですか。いまのところ科学でははっきりとは証明できないものを魔法と呼ぶなら存在すると思いますし、ゲームやマンガに出てくるような超能力なら存在しないのではないかと思います。」


103 :No.22 『魔法学事始』 2/4 ◇f/06tiJjM6:07/10/29 00:28:12 ID:w/TBCAUI
「いい質問ですね。魔法とは何なのか、少しだけ触れたいと思います。昔は魔法使いは
医者であり科学者であり哲学者でした。魔法とは知識であり、儀式だったわけです。村で
誰かが怪我をすれば、お薬を調合したり、これはつまり漢方薬のようなものも含まれます、
おねしょが治らない子どもにおまじないを教えたりするのは魔法使いの役割でした。魔法
には今言ったような現実的な話だけではありません。皆さんが期待しているような超能力
も含みます。ちょっと皆さんがゲームや魔法で知っている魔法を教えてもらいましょう。
ではこの列の皆さんお願いします。」
(教壇向かって右から二列目の学生、順に)
「メラ」
「イオナズン」
「バルス」
「メテオ」
「かめはめ波」
「ヨガファイア」
「どこでもドア」
「沢山どうもありがとうございます。ライターを使わずに火をつけたり、姿を消したり、
変えたりというのがマンガやゲームでは多いようですね。ここで魔法の定義について辞書
を引いて見ましょう。」
(香取辞書を引いて板書)
「辞書には魔法について『人間の力ではなしえない不思議なことを行う術。魔術。妖術。』
とあります、魔術も妖術も人を惑わす術という意味です。広い魔法意味での魔法は世界中
にあるといえます。仙人の使う仙術やお坊さんが使う法力、さらには手品も含みます。
ええと、『魔法』の靴、『魔法』のパンチ、『魔法』瓶なんていうでしょう。これらは
比喩的表現ではありますが、魔法の一面性を表していると言えます。英語でいうならば手
品も魔法も等しく“Magic”とあらわせるような感じです。いわゆる超能力的な力に
ついては後で話しましょう。

104 :No.22 『魔法学事始』 3/4 ◇f/06tiJjM6:07/10/29 00:28:29 ID:w/TBCAUI
 かつては説明のつくこともつかないことも一緒だった魔法は歴史の中で科学と袂を分か
ち、現代に至っています。時代でいうなら中世、十六世紀から十七世紀全体にかけて魔法
が表舞台から消えていきます。この時期はルターの宗教革命、ペストなどの伝染病の流行、
科学思想の再興など非常に不安定な時代です。それで、キリスト教の教会は魔法の不思議
な力を認めようとしませんでした。なぜかといえば『奇跡』は神さまのもの、ひいては教
会のものだからです。だからお坊さん以外の人に奇跡を起こされては困りますね。
 そこで教会は魔法の撲滅を目指して『魔女狩り』を始めます。あ、ちょっと電気消して
もらえます。そう、そこのスイッチ。」
(香取、スライドショー開始)
 「魔女狩りのについてそのマニュアルになった『魔女の鉄槌』です。一四八六年にドイ
ツのケルンで印刷され、教皇イノケンティウス八世のお墨付きを得てヨーロッパ中に広が
りました。
 印刷技術の向上も『魔女の鉄槌』を広めることを後押しました。魔女かどうかの取り調
べに拷問を用いるかどうかは地域によりましたが、親指を潰したり、水に沈めたり、叩き
つけたりといった激しい拷問が行われたこともありました。
 ゲルハルト・ショールマンの『ドイツにおける魔女裁判』には一五八七年から一五九七
年にかけてトリーカではふたつの村で生き残った女性は2人しかいなかったとあります。
はい、電気つけて頂けますか。」
(点灯)
 「先ほど魔女、といいましたが迫害を受けたのは女性だけではありません。男性もその
中に多く含まれました。ですが、魔女、女性であることにはやはり理由があると私は思い
ます。私の専攻は歴史学、民俗学ですが超能力現象の報告は女性が圧倒的に多いのです。
 また、さらにキリスト教圏である確率が高いことも特長です。正義と悪と二極化した文
化の特性がメンタリティーに何らかの影響を与えているのかもしれません。
 ああそうそう、私は魔法は、やっぱり心の作用だと信じています。魔法は信じることで
起こせる一つの奇跡です。これらの事例についてはまた別の機会にお話しましょう。それ
では時間もきたようですので今日の講義はここまでにしたいと思います。」

(『魔法学への招待』講義録二〇〇七年十月二十八日)

105 :No.22 『魔法学事始』 4/4 ◇f/06tiJjM6:07/10/29 00:28:43 ID:w/TBCAUI
 「おはようございます。ミス・カトリーヌ。今日のミサのことなんですが、来月のサバ
トの予行演習という事でいいですか。」
 「黒田君、人のいる場所ではその呼びかたはやめなさい。普通に『香取』、『ゼミ』、
『学会』でお願い。」
 「すいません。そうだ。頼まれてたアニメ、DVDに焼いときましたよ。『リリかる魔じ
ょか』のOVA板。」
 「ありがとう。もう売ってないのよね、これ。わたし大ファンなのよ。」
 「僕も大好きなんですよ。このアニメ。結構古いのに色彩が鮮やかなんですよね。」
 「なにより魔法で人を幸せにするっていうが素敵だわ。私もこんな魔法使いになりもの
ね。」
 「先生はもう十分魔法使いじゃないですか。みんな知っていますよ。先生が競馬で儲け
てること。馬の言葉が分かれば、ねえ。」
 「動物行動学も嗜みのうちよ。精進なさい。」
 「ほんと、かなわないなあ。カトリーヌには。」
 
(完



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