【 「魔女のマーサ」 】
◆4TdOtPdtl6




87 :No.19 「魔女のマーサ」 1/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/28 22:42:37 ID:94r1qYP2
 あるところ、深い森の中の小さな家に、マーサという女の子がいました。
「わたしはね、魔法使いなのよ!」
 と、マーサはいつも自慢していました。
 でも本当はまだマーサは魔法使いではありません。
 今はまだ修行中。
「いつになったら一人前の魔法使いになれるの?」
 おやつの時間に、金平糖をほおばりながらマーサはお母さんに聞きました。
 するといつもと同じようにお母さんは笑ってこう言うのです。
「まだまだよ」
 そしてそのあと決まってマーサは怒りだすのです。
「まだまだっていつなのよ!」
 マーサは毎日家で魔法の特訓をしているのです。
 この前は、お母さんもびっくりするくらい上手に空を飛んで見せたのです。
 あんまり高くてお月様にてが届きそうなくらい高く飛んだのです。
 今日なんか、近所で一番大きな桜の木を咲かせて見せたのです。
 それなのにお母さんは「まだまだよ」としか言いません。
 マーサはあんまり悔しくて、晩御飯を食べ終えるといつもより早く魔法の特訓に出かけました。
「あんまり遅くなっちゃだめよ」
 後ろから笑ってお母さんがいいます。
「お母さんは私が嫌いに違いないわ。だから一人前だって認めてくれないし、今だってこんな私を笑ってるんだわ」
 そう思うと、マーサは悲しい気持ちになりました。
 マーサはやけっぱちになって大きく杖を振ります。
「雨、降れ。雨、降れ。私の代わりに泣いておくれ。ざんざか降って悲しみを流しておくれ」
 するともくもくと雲が沸き、たちまち大雨が降り始めました。
 魔法は大成功です。
 でも、マーサは魔法が成功したのにうれしくなりません。
「今日は楽しく無い日!そうに違いないわ!」
 マーサはもう帰ることにしました。

88 :No.19 「魔女のマーサ」 2/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/28 22:42:53 ID:94r1qYP2
 真っ暗な中、雨の降るざーざーという音と、水溜りを歩くぴちゃぴちゃという音だけが響きます。
 ざーざー、ぴちゃぴちゃ、ざーざー、ぴちゃぴちゃ、えーんえーん
 おや?
 だれかいるようです。
 小さな山の神社。
 そのふもとの杉の木の下で、子供が泣いていました。
 暗くてよく分かりませんが、近所に住む同い年くらいの女の子のようです。
「どうしたの?」
 と、マーサがたずねると、
「お星様が見えないの」
 といいました。
「今日は流れ星が見える日だってお母さんが言ってたから見たかったのに」
 マーサは女の子に悪いことをしたと思いました。
 だって雨を降らせたのはマーサなのですから。
 でもあいにく、マーサは雨の止ませ方は知りません。
 マーサは困ってしまいました。
 そうして、冷たくなった手をポケットに突っ込むと、おやつに食べた金平糖がまだ入っていました。
 それを取り出して見て、マーサはいい考えを思いつきました。
 杖を取り出すと、女の子に言います。
「ほら、よく見ててよ」
 そして杖をふわりと振りました。
 すると……
「わぁっ、きれい!」
 色とりどりの金平糖はきらきら光りながら手の中をくるくる回ります。
 女の子が笑うのを見て、マーサもうれしくなります。
 すると女の子はその小さなお星様に手を合わせ、お願い事を言いました。
「おとなりのマーサちゃんと仲良くなれますように……」
「え……」
「うん?……あれ、マーサちゃん!?」

89 :No.19 「魔女のマーサ」 3/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/28 22:43:10 ID:94r1qYP2
 雨の上がるころ、二人は手をつないで家に帰りました。
 また明日、いっしょに遊ぶ約束をして。

 家に帰ると、ニコニコ顔でお母さんが出迎えてくれました。
「マーサ、初めてのお友達とは仲良くできそう?」
「ええ!?お母さん、どうして知ってるの?」
 お母さんはふふんと笑うと、
「お母さんは魔法使いだからね」
 と言いました。
 マーサは、やっぱりお母さんにはすごいなぁと思いながらベッドに入りました。
 窓から降り注ぐ本物のお星様の光の中、マーサは眠りにつきました。
 夢の中で、明日なにをして遊ぼうか、考えながら……

    おしまい



BACK−スノウ◆2LnoVeLzqY  |  INDEXへ  |  NEXT−命運◆M0e2269Ahs