【 #define MAGIC Program 】
◆q5KJG55s5s
63 :No.13 1/2 ◇q5KJG55s5s:07/10/28 20:44:27 ID:94r1qYP2
「パパ、"まほう"ってほんとうにあるのかな」
今日でちょうど四歳になった娘が唐突にそんなことを聞いてきたのは、昨日読んで聞かせた魔法使いの絵本が原因だろうか。
無邪気な質問に微笑しつつも、作業中のパソコンから顔を離さずに俺は答えた。
「ああ、あるよ。なにしろパパが魔法使いだからね」
キーボード上の指を動かしながら答える。つまらなく報われることの少ない仕事の中で、娘との会話は俺にとって唯一の安らぎだった。
「すごーい! パパってまほう使いなの?」
人を疑うことを知らない娘は感嘆の声をあげた。その素直さを嬉しく思うと同時に少し心配になる。
将来悪いヤツに騙されて利用されてポイ……なんてことを今から心配している俺は親ばかってやつなのだろうか。
そんな杞憂はさておき、教育のためにも今は娘の無邪気な疑問に答えるとする。
「そうだよ。パパのお仕事は何だか知ってるね?」
「機械の中身を作ってるお仕事……だよね」
「そう。正確にはプログラマーって言うんだ。プログラムって言うのは現代の魔法なんだ。それを使うパパは魔法使いなのさ」
しかし俺の答えに娘は納得がいかないようだ。
「でもまほう使いとは違うよ! まほう使いはね、なにもないところから火をだしたり、馬車をだしたりするんだよ!」
それは夢のある実に子供らしい意見だった。
魔法使いは火を出すことができる。
そのこと自体はなにも驚くことではない。現代であれば、百円ショップでライターでも買えば誰もが自由に火を出すことができる。
ではなぜ人は魔法使いに憧れるのだろうか。答えはすでに娘が言っている。魔法使いは何もない所からそれらを生むことができるのだ。
物理法則など関係なく、一切のルールを無視して、無から物を作り出すことができる。言いかえればその無限性に人は憧れを抱くのだろう。
……なればこそ、俺は現代の魔法使いと言える。
「プログラムではどんなものを作り出すことだってできるんだ。それも材料を必要としない。数十種類の記号を組み合わせるだけで、火を作ったり、馬車を作ったり、どんなことだってできるんだよ」
「でもそれって機械のなかだけだよ。ほんものの世界には出せないんならまほうじゃないよ」
魔法使いというものに幻想的なイメージを抱いているのか、なおも娘はむきになったように反論してくる。
「現実の世界に出すことはできないね。でも世界そのものを作れるのがプログラマーなんだよ」
64 :No.13 2/2 ◇q5KJG55s5s:07/10/28 20:44:42 ID:94r1qYP2
「うーん……」
俺の答えに娘はすっかり混乱してしまったようだ。娘にはまだ早い話だったかもしれない。
まだ幼い娘のかわいい想像に傷をつけてしまったようだ。
なにも言わなくなった娘を、俺は笑いながら慰めてやる。
「まぁ、今は分からなくてもいいさ。ゆっくりと成長していけばいつか分かるよ」
「うん、がんばっておべんきょうしたらわたしもいつかパパみたいなまほう使いになれるかな」
「ああ、いつかなれるさ。そう遠くないうちにね」
ふと時計を見るともう夜の十時を回っている。娘との会話に熱中していて、時間の経過に気がつかなかったようだ。
仕事の区切りもちょうどいい。今日はこれくらいでいいだろう。
「さて、今日はこれくらいにしよう。もう寝る時間だよ」
「うん、じゃあまた明日ね」
「ああ、おやすみ」
{
printf("\nおやすみなさい、パパ!");
return 0;
}
プログラムを保存しパソコンを落とす。
会社のオフィスにはもう俺以外誰も残っていないようだった。