【 魔法少女マジカル・ズガーン 】
◆IPIieSiFsA




44 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 1/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:05:17 ID:xbD7FhZ/
 人の形をした炎が、大きな音を出して口から火の玉を吐き出した。
 避けられないと感じたあたしは、両腕をクロスさせて防御の構えをとる。炎に対して何の効果もないのはわかっているけど、何もしないよりはマシだ。
「アカネちゃん!!」
 しークンが叫んでいる。大丈夫だよ、しークン。あたし、こんなのじゃ負けないから!
 火の玉があたしに命中する!
 ……あれ? 熱くない? あたしの身体は炎に包まれたけど、全然熱くないし、どこも燃えたりしていない。そして、炎はあたしの身体に吸い込まれるように消えた。
「……なんだったんだろう?」
「アカネちゃん! ボーっとしてる場合じゃないよ! 早くアイツをやっつけるんだ!!」
「あっ、うん! 相手が炎なら! ハルサメ・アキサメ・ツユ・シグレ! キリサメ・サミダレ・モガミガワ! マジカル・ズガーン!!」
 呪文と一緒に魔法のステッキを相手に向かって突き出す。ステッキの先端から勢いよく溢れ出した魔法の水は、龍の形になって炎の化身に命中した。
 炎の化身は水龍の直撃を受けて、声を上げることなく水蒸気になって消えた。
「やったね、アカネちゃん! これで五大元素を苦しめていた化身を全部倒したよ!! アイツは見ての通り炎の化身だったんだ。地球温暖化の元凶は、実はアイツだったんだよ」
「そうだったんだ。これで夏も、もう少し過ごしやすくなるね」
「ああ。排出削減、排出削減って騒がなくても大丈夫だよ。それより、早く世界珠を取りに行こう」
 しークンが通路を走っていく。けど、魔法生物であるしークンは足の短い小動物。あたしが抱えて走った方がはるかに速い。だから、後ろから抱えあげて、あたしも走る。
「あっ、ありがとう。アカネちゃん」
 少し照れたように、顔を赤くするしークン。そんな顔されると、こっちまで照れちゃうよ。
「こ、この通路の先に、世界珠が置いてあるの?」
 照れ隠しに話しかけるけれど、言葉がつっかえちゃった。
「うん。奪われた世界珠はここに隠されてたんだ」
「それをしークンが取り戻せば、世界は平和になるんだよね?」
「うん。世界珠がボクの手に入れば、世界から混乱も不安も取り除けるようになるよ」
「そうなったら、あたしの魔法少女としてのお仕事も終わるんだね?」
「うん。キミの役目はもうすぐ終わるよ」
 そう。しークンが世界珠を取り戻したら、地震に洪水、温暖化、地球に起こってる災害は起こらなくなる。戦争だってなくなるってしークンは言ってる。そのために、あたしはここまで来たんだ。
 けど、もうしークンとは一緒にいられないのかな……。しークンと出会って、もう一ヶ月前。そういえばあの日は雨だったな……。

 朝から降っていた雨は、放課後になっても止まないで、あたしは傘を差して下校していた。そして家までもうすぐという十字路で、それを見つけた。
 水溜りの中に落ちているボロ雑巾。しークンの第一印象はそれだった。
 あたしの姿を見つけたしークンは、助けを求めてきた。

45 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 2/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:05:38 ID:xbD7FhZ/
 外見はウサギのような、犬のような小動物。縞々模様の身体。そして人の言葉を話す。明らかに普通じゃないのはわかっていたけど、あたしは何故かしークンを家に連れ帰った。
 お風呂で綺麗にしてあげて話を聞いた。
 要約すると、しークンは世界珠の管理をしている魔法生物。世界の調和を保っている世界珠が何物かに盗まれた。そのせいで、世界の情勢が乱れた。地球の温暖化や、地震、大洪水などの災害もそれが原因。
これを何とかするには、世界珠を取り戻すしかない。しかし世界珠を失ったしークンにはその為の力は無く、誰かが代わりにやらなければいけない。それができるのは、魔法の素養を持つ者だけ。そしてそれは、あたし。
 当然、はじめは信じなかった。話自体がウソ臭いし、何よりあたしが特別だというのが信じられない。たまたましークンを見つけただけなのに、いくらなんでも都合が良すぎる。そう言ったら、しークンはこう返した。
「運命だよ。もしかすると世界珠が導いてくれたのかもしれない。百聞は一見にしかず、これを使ってみればわかるよ」
 そしてパチンと前足を合わせると、しークンは器用に両前足でピンク色でカラフルで、星とか輪っかとか翼とかが付いたステッキを握っていた。魔法少女が持つ、魔法のステッキだった。
「これはキミの為のステッキ。だから、キミにしか使えないよ。さあ、それを振って呪文を唱えるんだ」
 ステッキを受け取ったあたしは、言われたとおり軽く振って呪文を唱える。
「マジカル・ズガーン!」
 振り下ろされたステッキの先から、火の玉が飛び出してクッションに命中。瞬間的にクッションは燃え上がった。慌ててジュースをかけたから、火事にならずにすんだ。危うく放火犯になるところだった。
「危なく火事になるところだったね。それに、このステッキには魔力が込められていて、例えばキミから遠く離れていても、キミが呼べばすぐに飛んで来るんだ。試してごらん」
 とりあえずあたしはステッキをベッドの上に置いて、反対の壁際まで離れた。そしてステッキを呼ぶと、すぐにステッキはあたしの右手に納まった。
「便利だろ? そして、これでわかっただろ? キミには魔法の素養があるんだ。いや、ステッキを持った今のキミは、魔法少女なんだ!」
「あたしが、魔法少女……」
「そう! キミは魔法少女マジカル・ズガーン! ボクと一緒に、世界を救うんだ!!」
 その日からあたしは、魔法少女マジカル・ズガーンとなって、世界を救うために戦い始めた。…………ズガーン。
 敵は五人、ううん、五体いた。木の化身、金属の化身、土の化身、水の化身、炎の化身。それぞれ、地球の五大元素を苦しめる化身なんだそうだ。
 しークンによると五大元素とは地球を構成する物質で、その五つを苦しめるのが、それぞれに対応した化身なんだそうだ。
 最初に倒したのは木の化身。大きな樹木の形をしていて、枝に生えている葉っぱを飛ばして攻撃してきた。けれど、すぐに葉っぱが尽きて、相手が攻撃できなくなったところを、マジカル・ブレードで切り倒した。
 木の化身は樹木の姿をしている割には、葉っぱは枯れているみたいに黄色くて、数も少なかった。だから簡単に勝てたんだけど、しークンによると、地球の緑を自分の力で枯れさせているからだそうだ。
 次に倒したのは金属の化身。とても身体は小さくて、あたしの拳くらいの大きさだった。マジカル・ファイアで簡単に溶けた。地球の鉱資源を減らすために力を使っているので身体が小さくなったらしい。
 次は土の化身だった。けど、土の化身はあたしが何かをするまでも無く、動くたびにポロポロと身体が崩れていって、マジカル・マルタでひと殴りしたら完全に砕け散った。
 なんでも、自らの身体を触媒にして地球の土を乾燥させていたらしい。難しくてよくわからなかったけど。
 そして、水の化身。コイツは、今までの化身とは違っていた。あたしの親友の夏海ちゃんを、人質に取ったのだ。

「卑怯者! 夏見ちゃんを人質に取るなんて!!」
 あたしは魔法のステッキを構えて叫ぶ。しかし、相手は人の形はしているけど、濁った水でできている化け物だ。言葉が通じるわけが無い。
「アカネちゃん! 急いでアイツを倒すんだ! 早くしないと彼女の命が危ない!!」
 しークンが必死の顔で叫ぶ。うん! 水の中、それもあんな濁ってドロドロの水の中にいてたら、すぐに死んじゃう。

46 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 3/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:05:56 ID:xbD7FhZ/
 死んじゃう? 夏海ちゃんが? 自分の想像に、大型の冷凍倉庫にでも放り込まれたように身体がガクガクと震えた。夏海ちゃんを殺させたりしない!!
「ジシン・ホウラク・ドシャクズレ! テツジン・テーズ・ガンセキオトシ! マジカル・ズガーン!!」
 力一杯振った魔法のステッキの先端から土の塊が流れ出て、水の化身の身体に貼りつく。そしてきっかり三分後、土は泥になってボロボロと崩れ落ち、中から気絶している夏海ちゃんが現れた。
「マジカル・ソイルが水の化身から水分を吸いとったんだ。これで夏海ちゃんも大丈夫だよ!」
 しークンと一緒に夏海ちゃんのそばに駆け寄る。うん。気絶はしてるけど、ちゃんと息もしているし、水を飲んだりはしていないようだ。
「良かった……。夏海ちゃん、が、ぶ、無事で……」
 あたしは、不安と恐怖から解放された安心感から、泣き出してしまった。
「泣かないで、アカネちゃん。キミが泣く必要はないんだよ。悪いのは化身たちなんだから」
 しークンが優しい声をかけてくれる。けど、あたしの涙は止まらない。
「……悔しいな。ボクにキミと同じ手足があったら、キミを抱きしめて、慰めてあげられるのに……」
 そういうしークンの顔はとても口惜しそうで、悲しそうで、だからあたしは、しークンをギュッと抱きしめてあげた。
「ううん。ありがとう、しークン。しークンがいてくれるだけで充分だよ。……しークン、大好き」
「夏海ちゃん……。ボクも、キミのことが好きだよ」
 しークンを抱きしめていたけど、何故だか逆に、抱きしめられている気がした。

 こうして、水の化身は倒した。そして最後に残っていた炎の化身はさっき倒した。これで世界珠を奪った奴らは全部倒した。あとは、しークンが世界珠を取り戻すだけ。
 たぶん、もうすぐ、しークンともお別れ。世界珠を取り戻したら、きっとしークンはあたしの傍からいなくなるだろう。世界珠を管理する仕事があるから。 けど――。
「……ちゃん。アカネちゃん!」
「へ?」
「どうしたんだ、アカネちゃん! 世界珠の間はもうすぐだよ! しっかりするんだ!!」
「あ、ゴメン……。ちょっと、考え事してて」
「まあ、もう邪魔する奴は多分いないと思うけど……。でも、気を抜いちゃダメだよ。何があるかわからないから!」
 あたしの腕の中から、右肩に映ったしークンが注意する。そんなに厳しく言わなくてもいいのに……。しークンは別れちゃうこと、何とも思ってないのかな? だとしたら、ちょっと、ううん。かなり寂しい。
「さあ、アカネちゃん。この扉を開けるんだ!」
 あたしたちの目の前には大きな扉がある。あたしは両手でその扉をゆっくりと押し開いた。
 音も無く開いた扉の先は明るい大きな部屋だった。中心に台座があって、そこにオレンジ色の球体が置かれていた。
「アレだ! アレが世界珠だよ!」
 しークンがあたしの肩から飛び降りて駆け出す。そして世界珠に触れようとジャンプ! したけど、台座の陰から現れた人影に叩き落された。
「しークン! 大丈夫!?」
 あたしは慌ててしークンに駆け寄る。良かった。怪我はしてないみたいだ。

47 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 4/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:06:16 ID:xbD7FhZ/
「ついに、ここまで来てしまったのね……」
 声が室内に響いた。それは、とても哀しげで、諦めを含んだような声で、聞き覚えのある、ううん、よく知っている声だった。
「……夏海ちゃん? 夏海ちゃんなの? なんで夏海ちゃんがここにいるの!?」
 そこにいたのは、夏海ちゃんだった。ただ、着ているのはどこかヒラヒラとした可愛らしい服。一番相応しい言葉で言うなら、彼女の格好は、魔法少女だった。右手には、ステッキが握られている。
「世界珠は渡さない。これを貴方に渡してしまったら、世界が滅んでしまう……」
 夏海ちゃんが静かに言う。何を言ってるの、夏海ちゃん? 世界珠を取り戻さないと、世界が滅んじゃうんだよ?
「たとえ茜、あなたが騙されて敵になったとしても、世界珠を渡すわけには行かない!」
 あたしが、騙されてる?
「聞いちゃダメだアカネちゃん! これはアイツの罠だよ。こうしてアカネちゃんの心を惑わすつもりなんだ!」
「……でも、夏海ちゃんだよ?」
「多分、夏海ちゃんは操られてるんだ。水の化身に人質に取られた時、彼女の身体の中に水の化身が入り込んだんだ!」
 そんな! 夏海ちゃんの中に!?
「黙りなさい!」
 夏海ちゃんが一括とともに手にした魔法のステッキを振るう。先端から水が溢れ出し、しークンに命中する!
「しークン! 何するの!? 夏海ちゃん!!」
「茜! あなたはそいつに騙されているのよ! そいつこそが世界珠を手に入れて世界を滅ぼそうとしているのよ!!」
「違う! 違う違う違うっ!! しークンは悪くないよ!! タキビ・カガリビ・カジ・カザン! ガイカク・ヒクメ・クロスファイア! マジカル・ズガーン!!」
 あたしが夢中で振ったステッキから、巨大な火の塊が、夏海ちゃんめがけて放たれた。
 なに!? なんでこんなに大きな炎なの!? これじゃあ、夏海ちゃんが死んじゃう!!
「くっ! 聖なる流れ・清き流れ・我が身を護る盾と成れ! アクア・シールド!!」
 いままで放っていたよりも倍以上の大きさの炎の塊が夏海ちゃんにぶつかる、その直前に、彼女が作った水の盾が炎との間に展開される。しかし、完全に衝撃を防ぐことはできないで、夏海ちゃんは大きく弾き飛ばされた。
「夏海ちゃん!」
 あたしは慌てて駆け寄る。どうしよう。そんなつもりじゃなかったの。あんなに大きな炎が出るなんて……!
「夏海ちゃん! 大丈夫!?」
 あたしは夏海ちゃんを抱きかかえる。夏海ちゃんはわずかに呻いて顔を上げ、目を見開いた。
「……ダメ! アイツに世界珠を渡したら! 世界が!!」
 夏海ちゃんが叫ぶ。彼女の視線の先に目をやると、今まさに、しークンが世界珠に触れようとしている瞬間だった。
「ついに! ついに手に入れたぞ、世界珠!! これで! これで世界はボクの物だ!!」
 しークンが叫ぶ。世界珠に触れている彼の右の前足が、形を変えて右手になる。変化は波のように彼の身体に伝わり、右手から右肩。胸、腰、両足、左腕、そして頭。
「ありがとう、アカネちゃん。キミのおかげで、ボクは本来の姿を取り戻すことができた」

48 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 5/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:06:34 ID:xbD7FhZ/
 こちらに向き直ったその姿は、あたしの知っている魔法生物のしークンではなく、右手に世界珠、左手に杖を持った、長身、長髪の男の人だった。
「……しークン? しークンなの?」
「ああ、そうだよ。アカネちゃん。キミのおかげで世界珠を手に入れて、本来の姿に戻り、そして世界の支配者たる力を手に入れたんだよ」
 しークンがニヤリと笑う。イヤな笑顔だ。違う。そうじゃない。今、何て言った? 世界の支配者? 誰が? しークンが? 世界珠の管理者は? 奪われたんじゃないの? 手に入れた? しークンは奪う方?
「世界珠を、返しなさい!! 清き流れ・激しき流れ・悪を穿つ青龍と成れ! アクア・ドラグーン・シュート!!」
 水でできた龍――あたしのよりも倍以上も大きい――があたしの脇を抜け、しークンに迫る。
「激龍撃……。水の精霊の最上級の技だね。けど、それくらいボクにもできるんだよ」
 手にした杖を水龍に向かってかざすと、同じような水龍が杖から溢れ出した。しークンの放った水龍は夏海ちゃんの水龍を飲み込んで、あたしの脇を通り過ぎて、夏海ちゃんに直撃した。
「夏海ちゃん!!」
 夏海ちゃんが吹っ飛ばされる。あたしは再び駆け寄る。
「本来、魔法というのはこうして杖を振りかざすだけで使えるものなんだよ。けど、キミたち人間には魔法のステッキが必要になる。もっとも、アカネちゃんのような普通の人間は、ステッキがあっても魔法なんて使えないけどね」
「……どういうこと? あたし、今まで魔法を使ってたよ?」
「キミが魔法を使ってたんじゃないんだよ。ボクがキミに与えたステッキが、魔法を使ってたんだ。だから……」
「くぅっ!」
 しークンが杖を振って飛ばした小さな水龍を、あたしは避けることができずに、手にしていた魔法のステッキを弾き飛ばされた。ステッキはカラカラと遠くの方に転がる。
「こうしてステッキを手放したら、キミはもう魔法が使えない」
 しークンが嘲う。
「さあ、そろそろ終わりにしようか。ボクにはこの後、世界を支配するという仕事が残っているんだ。いつまでもキミたちに構っている暇はない」
 しークンが頭上に杖を構える。その先に大きく輝く、黒い球体が出来上がる。黒い光に照らされたしークンの姿は、とても禍々しく見えた。
「……今までの事は、全部ウソだったんだね。地球を救うために助けて欲しいって言うのも。ねえ、しークン? あたしのことを好きだって言ってくれたのも、ウソだったのかな?」
「ウソじゃないさ、アカネちゃん。ボクの為に働いてくれるキミのことは、本当に好きだったよ」
 しークンが笑う。自然と、涙が零れる。あたしには、どうすることもできない。あたしには魔法は使えない。それに魔法のステッキを手にしていない――けど?
「……茜。コレを使って……」
 目の前に差し出されたのは夏海ちゃんのステッキ。
「でも、あたしは……」
「そう。アカネちゃんには魔法は使えないよ。普通の女の子だからね」
「大丈夫。あなたなら魔法が使える。あたしを信じて、自分を信じて……!」
「夏海ちゃん……」
 あたしは夏海ちゃんのステッキを右手で握る。どこか、懐かしい感じがした。そして……。
「……熱き炎・怒りの炎・総てを燃やす朱雀と成れ! フレイム・バード・エクスプロージョン!!」

49 :No.10 魔法少女マジカル・ズガーン 6/6 ◇IPIieSiFsA:07/10/28 14:06:54 ID:xbD7FhZ/
 あたしが振りかざした魔法のステッキから、巨大な火の鳥が生まれた!!
「バカな!? 彼女は普通の人間のハズだ!!」
「……そう思っていたのは貴方たちだけ。茜は私と同じ、精霊に選ばれた魔法少女よ!」
 あたしが、夏海ちゃんと同じ、精霊に選ばれた魔法少女?
「……なるほど。偶然というのは恐ろしいね。あるいは、世界珠の導きかもしれない。だが、だからといってボクの優位が変わるわけじゃない! 喰らえ!」
 しークンが杖を振り下ろすと、頭上にあった黒い球体が火の鳥を迎え撃つ。
 両者は激突。あたしとしークンのちょうど中間で、互いに押し合っている。右手のステッキにビリビリと力が伝わってくる。
「おや? コレはスゴイ。ボクの魔法と互角じゃないか。そうか、夏海ちゃんの力も上乗せされてるんだね。けど、それが精一杯。ボクの方もこれ以上は力を上乗せできないけど、やられることは無いよね」
 しークンが笑う。
「……タキビ・カガリビ・カジ・カザン」
「呪文? 呪文を唱えてどうするのさ。それにそれはボクの教えた呪文だ、それでは魔法は使えないよ」
 しークンが嘲る。
「……ガイカク・ヒクメ・クロスファイア」
「だから無駄だって言ってるだろ!」
 あたしは、左手に握った魔法のステッキを――ピンク色でカラフルで、星とか輪っかとか翼の付いた、しークンのくれた魔法のステッキを、頭上に掲げた。
「なにっ!? 何でそのステッキを持っている!? それはさっき、弾き飛ばしたハズだ!!」
 驚愕の表情を浮かべるしークン。
「忘れたの? しークンが教えてくれたんだよ。魔法のステッキは、呼べばあたしの手に飛んでくるって……!」
「それは……!!」
 あたしは、ステッキを振り下ろす。慣れ親しんだ、呪文とともに。
「マジカル…………ズガーーーーーーン!!!!!!」
 ステッキの先から生まれた炎の塊は、拮抗していた二人の魔法を飲み込んで、極大の轟?となって、しークンに直撃した。
「バカな……世界珠を手に入れたボクが……こんな……こんなぁぁぁぁっ!!!」
 世界珠の間を埋め尽くさんばかりの大爆発が巻き起こり、爆炎が収まった後には、世界珠が転がっているだけだった。
「さよなら……しークン。大好きだったよ……」
 零れた涙は、地面に落ちる前に蒸発して消えた。

 世界珠は無事だった。世界は今までどおり、戦争が起きて、災害が起きて、地球は破壊されていく。ううん。あたしが精霊たちを倒した所為で、いまよりもっと、加速していく。
 だからあたしは、世界を、地球を護る為に魔法のステッキを振る。しークンがくれた、魔法のステッキを。



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