【 大切なもの 】
◆h1izAZqUXM




23 :No.05 大切なもの 1/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:34:08 ID:5cHh5Zw8
あ、はじめまして。私、メアリーって言います。魔女です。
悩みは、この美貌に群がる男達の対処です。もてすぎるのも、困りますよね。
…………はい、嘘です。
本当は、十四歳でちんちくりんの、魔女見習いです。
この赤毛と、そばかすのせいで、男なんてちっとも寄ってきませんよ。どうせ。
まぁ、それでなくても、この家は森の中にぽつんと一軒だけ立っていますから、男だけじゃなくて、人がくること自体が珍しいんですけど……。
おや? 誰か部屋に入ってきましたね。
誰か、なんて言いましたけど、本当はわかってるんです。
この家は、私と、黒いローブを身にまとって、先のとんがった帽子をかぶる、私の先生しかいないんですから。
先生の見た目は、二十台前後の美女なんですが、騙されちゃだめ。
あれは魔法で自分の姿を変えていて、本当はそろそろ五十路なのよ。女を見た目で判断しちゃだめなんだから。
「メアリー、修行の時間ですよ。何をやってるんですか!」
「自己紹……じゃなかった。修行の支度です!」
「なら、早くローブを着て隣の部屋にいらっしゃい」
何度も言いうけど、私、まだ見習いなの。
本当なら、修行なんてしたくないんだけど、これも最初に言った理想を現実にさせるため。
いやいやながらも、先生の言うことは聞くしかないの。あ〜あ、早く立派な魔女になりたいな。
「早くしなさい! メアリー!!」
「はい! ただいま」
さぁ、早く着替えて先生の下へ行かなくちゃ。
先生は怒ると、とんでもなくこわいんだから。
隣の部屋に行くと先生は、
「さぁ、今日の授業は野菜に息を吹き込むことです」
なんて言うんだもん。やる気が消えてっちゃうわ。
「さぁ、杖をだして。呪文を唱えて」
ふぅ、ため息つきながらも、私は机の上に置かれたカボチャに、習った呪文を唱えていく。
何でも、カボチャは他の野菜に比べて、魔法にかかりやすいんだって。不思議よね。
え、魔法つかえるのかって? 馬鹿にしないでよ、以外と簡単なんだから。
言われたとおりに呪文を唱えるでしょ、そうすると空気が震えてくるのがわかるの。
で、最後に

24 :No.05 大切なもの 2/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:34:23 ID:5cHh5Zw8
「えい!!」
の掛け声をかければ、ほら、今までただの野菜だったカボチャが動き出した。上出来でしょ。
「うん、まあまあね」
ほら、上出来って先生もほめてくれてるでしょう?
……うん、大丈夫。本当は聞こえてるから。
いつもこうなのよ、私は上出来だと思っていても、先生はまあまあって答えるのよ。
何でなのかな? 先生とは何か違うのかな。
まぁ、そんなことはどうでもいいの、それ以上に不満に思ってることがあるのよ。
何か、今日は気分が良くて、勇気がわいてくるから先生に直接聞いてみるわ。
「先生、ちょっといいですか?」
「何です?」
「私が魔法を習い始めてもう半年も経つのに、なんで、いつもしょぼい魔法しか教えてくれないんですか?」
ついに言ってしまった。
一瞬先生と私の間の時間が止まったと思ったけど、もう遅いわね。
だって、先生が教えてくれた魔法は、あんまり実用的じゃないんですもの。
姿を変える魔法でしょ。
ものの形や大きさを変える魔法でしょ。
それから、おいしい野菜スープの作り方。
……三つ目は違うわね。
でも、それぐらいの魔法しか教えてもらってないのよ。
ね? これじゃあ愚痴の一つは言いたくなるでしょ?
「あのねぇ、メアリー、本当のことを言うわよ」
「はい」
「私も本当なら、そろそろ、火をおこしたり、霧を出したり、色々な魔法を教えたいのよ」
「でわ、なんで教えてくださらないんですか?」
「それはね、メアリー。貴方には魔女として、大切なものが欠けているからなのよ」
私には、瞬間的に頭をよぎったものがあった。
「プロボーションですか?」
「違うわよ! そんなのだから、貴方の魔法は一日限りしかもたないのよ」
あれ、てっきりそのことだと思ったのに。でも、それ以外思いつかないのよ。

25 :No.05 大切なもの 3/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:34:39 ID:5cHh5Zw8
「じゃあ、私に足りないものって何なんですか?」
思い切って、先生に聞いてみた。今日の私は、なんだかいつもの私じゃないみたい。
「それは、自分で探すしかないわ。後、これから私は出かけるから、お留守番よろしくたのんだわよ。」
そんな言葉だけを残して、先生は行っちゃうんだもの。先生の意地悪。
でも、私に足りない物? 何かしら。その前に、晩御飯を確認しとかなきゃ。
東の国では、武士はくわねど……じゃなかった、腹が減っては戦は出来ぬって言うらしいしね。
台所に行って、おなべのふたを開けて、私はげっそりよ。だってまた野菜スープなんですもの。
ここ三日は同じスープよ。嫌になっちゃう。
やっぱり、先生がいないとこの家も広いわ。
……でも、暇ね。
先生がいるときは、邪魔だなんて思うこともあるけど、いざいなくなってみると、寂しいものね。
さあ、何しようかしら。先生がいる時じゃ出来ないことをしてみたいわね。
うーん。そうだわ、先生の部屋の中を見てみましょう、いつも先生は
「一人前になったら見せてあげますよ」
だもの、これじゃあ、私がおばあちゃんになっても見せてくれそうにないわ。
さあ、膳は急げよ!
周りに先生は……いるわけないわよね、出かけたんだし。さぁ、このドアを開ければ新たな世界への道が……
「やめたときたまえ、メアリー」
「きゃ!!」
「そんなに驚くことはないだろう? ここは魔女の家だぞ」
「た、確かにね。でも私、貴方のこと、はじめてみたわよ」
「私はお前さんのことを良く知ってるよ。君がはじめてこの家にきた時から見ていたからね」
「うそ、私あなたのことを見たことなかったわ」
「それは先生が、君をここに近づけなかったからだろう?」
それもそうね。ドアの癖になかなか賢いわね。
何か物知りそうだし、こいつに、先生の言ってたをこと聞いてみるのもいいかも。
「ところで、ドアさんに名前はあるの?」
「おお、忘れてました。申し送れましたが、リドア、と申します」
……りが付いただけなのね。先生にはセンスってものがないのかしら。
「ねぇ、リドア。」

26 :No.05 大切なもの 4/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:34:54 ID:5cHh5Zw8
「なんだい、メアリー」
「私ね、先生に足りないものがあるって言われたんだけど、何なのかしら? 貴方にはわかる?」
「君に足りないもの? そうだな、それは自分で探す必要があるんじゃないのかな?」
「先生にも同じ子といわれたわ。でもそれじゃあ……」
「でも、確かに、自分じゃなかなか見つけられないものさ。自分に足りないものなんてね」
「え、じゃあ教えてくれるの?」
私にも、自分の声がはつらつとしているのがわかったわ。だって、教えてくれそうな雰囲気なんだもの。
知らないものを知る気持ちって、いつもこんな気分よね。
「いや、さっきも言ったけど、直接答えを言うのは意味がない。だから、ヒントをあげよう」
「ヒント?」
「そう、ヒントだ。よく聞くんだよ」
「うん!」
「この家を出て、西にほんの少し行ったところに、小さな家がある。そこにいる女の子は今すごく困っている。だから話を聞き、力になってあげるんだ」
「え? でも先生にお留守番頼まれてるし……家をほって行けないわ」
「はは、そこは心配しなくていいだろう。なんせ、私がいるし」
でも、貴方はドアで、足がないわ。
その言葉がでかかったけど、ぎりぎり抑えたわ。だって、このチャンスを逃すと、自分に足りないものがわからなくなる気がするし。
「わかったわ、そこに行ってみる。でも、なんでリドアには女の子のことがわかるの」
「それは、私が偉大な魔女の部屋を護るドアだからさ」
「偉大な魔女って……先生のこと?」
「そうだよ、彼女は偉大な魔女さ。さぁ、早く行きなさい。先生が戻ってくるまでしか時間はないのだから」
「うん、じゃあお留守番お願いね」
それだけ言って、私は家を出た。それから、言われたとおり西に、西に進んだわ。太陽は傾いてはいるけれど、まだ大丈夫ね。
それから少し進むと、リドアが言ったような家があったわ。私と同い年ぐらいの女の子が窓から空を見上げて、何かささやいてるみたい。これも、リドアの言ったとおり。
でも、私がこのままあの子のところに行っても、ただ怪しまれるだけだわ。
どうしよう……そうだわ、魔法で姿を変えていけばいいじゃない。
そうね……ここは年老いた魔法使いの姿なんかどうかしら。
さぁ、急がなきゃ。集中して、呪文を唱えて
「えい!!」
はら、これで誰がどう見ても、おばあちゃんでしょ。

27 :No.05 大切なもの 5/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:35:09 ID:5cHh5Zw8
さぁ、あのこのところへ行きましょう。まずは、つかみが大切よね。
「どうしたんだい、お嬢さん」
ばっちり、これなら、誰が聞いてもおかしくないわ。
「きゃっ! びっくりした。おばあさん、何所からきたの?」
「そんなことより、あなた、何か悩み事があるんじゃないのかえ?」
「え、どうしてそんなことがわかるの?」
「顔を見ればわかるのよ、話して御覧なさい。良かったら力になってあげるから」
「本当? あのね……」
この女の子の話によると、今日はお城の舞踏会。この子も本当は行きたいんだけど、お姉さん達が意地悪で行けないんだって。
だから仕方なく、この思いを、空に告げていたんだって。
なんてかわいそうなの。そんなの不公平よ、私が舞踏会へつれてっちゃうんだから。
「おじょうちゃん、今からお城の舞踏会へ行きましょうよ」
「え、でも……家事が」
「大丈夫よ、そんなの、えい!!」
私はそこら辺にあった箒に魔法をかけて、息を吹き込んであげたわ。
「ほら、家のことはあの箒がやっておいてくれるわ」
「驚いたわ! おばあちゃん、魔法使いなの? でも、今からじゃ、時間に間に合わないわ」
確かに、もう太陽は真っ赤になって、山に逃げ込もうとしていたわ。でも、何とかするって決めたの。
「野菜はあるかえ?」
「え、家の中にカボチャならあるけど……」
「じゃあ、それを持ってきてちょうだい」
女の子はすぐに、家の中からカボチャを転がしてきたから、私もすぐに魔法をかけて、馬車にしたわ。
馬車は、そこら辺にいたネズミを、ちょいちょいっとね。
「さあ、最後はお前さんだよ」
「え、私?」
「そう、その服を変えてあげるわ。えい!!」
渾身の力でかけた魔法は、おそらく今まで最高の出来。
綺麗な白のドレスに、銀色の髪留め、なんといっても一番なのは、ガラスの靴よね。
「わあ! おばあさん、ありがとう!」
「お礼はいいから、早くお行き。あ、忘れてたけど、魔法は十二時までしか持たないからね。それまでには帰ってくるんだよ」

28 :No.05 大切なもの 6/6 ◇h1izAZqUXM:07/10/27 18:35:24 ID:5cHh5Zw8
「はい! おばあさん、本当にありがとう」
「はいはい、楽しんでいらっしゃい」
馬車が見えなくなるまで見送って、私は魔法を解いたわ。
うそみたい!! すべての魔法が成功したのよ。
いつもなら、箒にも魔法はかけられないし、ネズミだって、あんなに立派な白馬にならないもの。どうしてかしら!?
「それはね、貴方が足りないものを見つけたからなのよ」
後ろからいきなり、聞きなれた声が聞こえたから、飛びのいちゃった。
「せ、先生。ど、どうしてここへ?」
怖さで声が裏返ってたのはわかるわ。だって、リドアに任せてお留守番してないのよ、私。
先生との約束を破る、これは本当に危ないわ、最初にもいったけど、先生は怒ると、とても怖いのよ。
「ふふ、そんなに怖がらなくてもいいわ。貴方がここに来ることはわかっていたのよ」
「え?どういうことなんですか?」
「実はね、私はあの女の子、まぁシンデレラって言うんだけど。あの子がお姉さん達にいじめられているのは知っていたの」
まだ事情がつかめなくて、ボーとしている私に、先生は続けたわ。
「だから、リドアと相談して、この計画を立てたのよ。貴方が彼女の力になってあげるかどうかを知りたかったし」
「え?」
「貴方はさっき、魔法が上手くいったことを不思議に思っていたわね」
「は、はい」
「それはね、さっきも言ったけど、貴方が大切なものを見つけたからなのよ」
「わ、私が?」
「そう。貴方に足りなかったのは『人の為に魔法を使おうとする心』だったのよ。
 無我夢中で気が付かなかった? 貴方は自然とあのこのために尽くしてあげたいと思っていたのよ」
私にも、ようやく理解できたわ。言われてみると、人のために尽くした後ってとてもいい気分だわ。すばらしい。
「じゃ、じゃあこれからはもっと魔法を教えてくれるんですか?」
先生はにっこり笑って言ったわ。
「もちろんよ、メアリー。これから少し大変になるけど、頑張りなさい」
「は、はい!!」
こうして、私は、一歩立派な魔女への階段を進むことが出来たの。リドアも言っていたけど、やっぱり先生は立派な魔女だわ。
え? あの後あの子はどうなったのかって? それは、貴方も知ってるでしょう?
でも、仕方ないから、教えてあげるわ。あの後、シンデレラはね……   【完】



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