【 続アダルト童話集 】
◆I8nCAqfu0M




18 :No.04 続アダルト童話集 1/5 ◇I8nCAqfu0M:07/10/27 18:32:20 ID:5cHh5Zw8
【黄金の鉄】

 私は魔法が使えます。しかし最近面白くありません。正直な話、飽きているのです。私
が念じれば異性はメロメロですし、指を鳴らせばお城どころか島までもたやすく作り出せ
ます。勿論空も飛べます。雲も空も突き抜けて、果てはあの寒々しい銀河ですら直接眺め
ることが出来るのです。
 宇宙は孤独です。一つの水素原子にすら滅多に出会いません。そんな直径150億光年
という茫漠とした空間を自由に飛び回り、気が向けば太陽すら作り出せるのです。ああ、
全体が細部の相似となって再び巨大な個体を構築してゆく美しさ。銀河を眺めながらそん
なことを感じたのも遠い昔、今や、個体の表現形は遺伝子の表現形の延長に過ぎないとい
うドーキンスの言葉ですら私は実践し、生み出し、実感しうるのです。そんな神のごとき
力に倦んできているのです。
 ゲーテは「放縦は何も生み出さない。制約こそ尊い」と言いました。その通り、過剰な
自由は私からあらゆる喜びを奪い去りました。私の中の黄金は鉄に変わり、星々は石ころ
に成り果てました。生み出した命に重みはなく、それはただ二重螺旋の末の複雑な機械に
他なりません。果たして私はこれから先、何に満たされましょうか。
 そして今日、私は友人の手紙に背中を押されて、ようやく魔法を捨て去る決意が出来ま
した。
 私の最後の祈りは届くでしょうか。魔法が解けてもしばらくは、この地球に暮らしてい
たいのです。願わくば元の自分に戻ってかつて愛した人間の夢をみながら消えてゆきたい
と思っています。

19 :No.04 続アダルト童話集 2/5 ◇I8nCAqfu0M:07/10/27 18:32:42 ID:5cHh5Zw8
【博士の異常な埋葬】

 向かいに住んでいる村松さんの職業は魔法使いです。その中でも彼は、特に悪の魔法使
いとして世の人々から恐れられています。普段は静かに暮らしているのですが、時々悪の
魔法使いらしく無意味に住民を困らせたり、圧倒的な力で勇者を追い払ったりしています。
彼は若くして悪の魔法使いとして名を上げるくらいの希代の名手ですから、それはもう多
彩な魔法が使えるのです。先程少し述べたように、老夫婦の愛犬を鼠にして困らせること
も出来れば、彼を倒そうと重装備で挑み来る勇者の一団を指の一振りで黒焦げにすること
も出来るのです。
 そんな彼ですから、勿論生活の様々な行為もたいてい魔法で済ませています。買い物に
は何やら不思議な人形を行かせています。私の職業は博士ですから、どうしても仕組みが
気になって、一度その人形を捕まえてみたことがあるのですが、結局仕掛けは解らずじま
いでした。仕方なく村松さんに直接伺おうと思ったのですが、私のような見るからに博士
といういで立ちの者が村松さんの家を訪れれば、きっと近所の人達にマッドサイエンティ
ストだと思われるのでやめていました。
 しかし、ある日偶然村松さんを町の公園で見掛けたので私はこれぞ好機とばかりに彼に
質問を浴びせ掛けました。一体どういう仕組みで動いているのか。命はあるのか。あると
したらそれはあなたが作り出しているのか、それとも誰かの魂を閉じ込めているのか。
 村松さんはゆっくりと口を開きます。
「あれは、他人の魂を封じた奴隷です」
なるほど、それならあの複雑で人間らしい仕種にも頷けます。村松さんは続けます。
「たまに、私はこうして、私を見ることの出来る魂を物色する為にベンチに座っているの
です」
 すると突然、私の体は重くなり、私はそのまま意識を失いました。


20 :No.04 続アダルト童話集 3/5 ◇I8nCAqfu0M:07/10/27 18:33:02 ID:5cHh5Zw8
【マルコーと悪魔】

 落ちこぼれのマルコーという男がいました。彼は勉強をやらせても運動をやらせてもま
ったく駄目な人間でした。しかし彼はなんとか自分のアイデンティティを確立しようと一
生懸命絵を学んだので、絵だけは誰より上手でした。
 ある日彼がいつものように公園で絵を書いていると、悪魔が現れて彼にこう言いました。
「俺はお前の絵が気に入った。よし、お前に魔法を授けてやろう」
そうしてマルコーは魔法が使えるようになりました。空も飛べるようになりました。それ
からマルコーは覚えたての魔法を使って様々な悪さをしました。自分を馬鹿にしていた級
友からお金を盗んだり、女の子の心を操って侍らせたりして好き放題遊んで暮らしました。
 そんなある日、再び悪魔が現れて彼にこう言いました。
「お前に魔法を与えればもっと凄い絵を描いてくれると思ったが、描かなくなっちまった
んじゃあ面白くない」
そして彼は魔法を使えなくなってしまいました。
 女の子達は逃げて残ったのは僅かなお金ばかり。しかし画材を買うには充分でした。
 彼はもう一度筆を取り、たくさん絵を描きました。それが今度はお金持ちの眼に止まり、
彼は晴れて自分の力で好きな事を出来るようになりました。

 しかし、一見幸せになった彼の心には、魔法を使って暮らした魅力的な日々の感触が残
っていました。普通の幸せ。それは彼にとってはもはや価値あるものではありません。結
局彼の心は死ぬまで満たされることはありませんでした。

21 :No.04 続アダルト童話集 4/5 ◇I8nCAqfu0M:07/10/27 18:33:18 ID:5cHh5Zw8
【フッケバインの憂鬱】

 ある町に男と女が暮らしていました。男と女はとても仲が良く、世間からはおしどり夫
婦などと言われていました。しかし女はそう呼ばれることをあまり快く思っていませんで
した。何故なら、彼女の先祖は大昔、巨大な怪鳥に変身してしまう呪いを魔女にかけられ
ていたからです。彼女の家系は代々、三十歳を過ぎると鳥になってしまうのです。だから
彼女は素性を隠し、忌まわしい故郷を逃れてこの小さな町でささやかながら幸せに暮らし
ていました。
 しかし、やはり呪いを逃れることは出来ません。彼女は日に日に増えてゆく羽毛に自ら
の運命をさとると、男の前から静かに姿を消しました。
 男は彼女が消えてしまってとても悲しみました。そして彼女が怪鳥になってしまったこ
とを知ると、もっと悲しみました。しかしそれでも彼は、彼女を愛し続けました。彼は
「風切り羽が素敵だね」などと褒めたりしながら彼女と一緒に暮らしました。
 そんな彼を哀れに思って、友人は一人の女を紹介しました。彼は最初、女を拒み続けま
したが、ある日怪鳥になった彼女が例年と同じく冬を越すために渡っている間に、紹介さ
れた女と結婚してしまいました。
 やがて彼も町も、巨大な怪鳥のことを忘れました。

 数年後、怪鳥は小さな町を巨大な竜巻から守って傷つき死にました。
男は末永く幸せに暮らしました。

22 :No.04 続アダルト童話集 5/5 ◇I8nCAqfu0M:07/10/27 18:33:37 ID:5cHh5Zw8
【黄金の鉄】

「私は今、月に暮らしています。この手紙は窓から懐かしい地球を眺めながら書いていま
す。そしてその私には、遅々とした死の行列が近づいています。しかし私は魔法を用いて
それを退けようとは思いません。中空から赤や黄色の葉が落ちるように、私も静かに枯れ
落ちようと思っています。枝の綻びが花ならば、私の心臓には死の蕾があるのです。それ
を知ってもなお、私は蕾を摘むつもりはありません。
魔法は確かに素晴らしいものです。しかしそれは便利の影に潜んで心を食い破ります。私
はそれを充分に知りました。ですから、この手紙があなたにも正しい制約を与えることを
望みます。そしてあなたが救われることを願います。
それから、魔法省の人々にはくれぐれも私の死と住家を秘密にして下さい。身体の完全に
滅びないうちに叩き起こされては目も当てられませんから。

追伸
最近娘が魔女試験に合格したようなので、暇があれば是非遊びに行ってあげて下さい。
月より友情を込めて」



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