【 Who is ペット? 】
◆IPIieSiFsA




66 :No.18 Who is ペット? 1/5 ◇IPIieSiFsA:07/10/21 23:02:38 ID:FPtq2/hz
「ただいまぁ〜」
 玄関のドアを開ける音に続いて聞こえてきた可愛らしい声に、居間で夕方のニュースを見ていた俺は特に何もしなかった。
 もっとも、妹が帰ってきたくらいでどうこうする方がどうかしている。
「あっ、お兄ちゃん。ただいま〜」
 こうして居間まで俺を探しに来て、ちゃんと挨拶をするような出来た妹なのだ。素晴らしい。
「おう。おかえり、和奈」
 俺は寝転がった姿勢のまま、リモコンを持った右手をフラフラと振って答える。
「ねえ、お父さんとお母さんって、今日は帰ってこないんだよね?」
「ん? ああ、今日はって言うか、明日も帰ってこないな。帰って来るのは明後日って言ってたから。それがどうかしたか?」
「うん。あのね、友達を泊めてもいいかな?」
 この台詞を聞いてはじめて、俺は和奈の方へと振り向いた。
「友達?」
「うん。……ダメかな?」
 どこか恥らうように頬を染めて尋ねてくる和奈。そんな顔をして頼まれたら、断ることなんて出来るはずがない。
「いいんじゃないか、別に」
「ホント!?」
 俺の言葉にパァッと顔を輝かせる。そうそう。そういう素直な感情表現は大事だぞ。
「じゃあ、呼ぶね。実は、お兄ちゃんなら絶対許してくれると思って、もう連れて来てるんだ」
 えへへと笑う和奈。さすがは我が妹だ、俺の事をよく理解している。それが素直に嬉しい。
「高美ちゃ〜ん。お泊りしてもいいって〜」
 嬉しそうな顔をして廊下に声をかける。なるほど、そこで待っていたのか。そして現れた少女に、俺は正直、言葉を失った。
「はじめまして、お兄様。和奈さんのクラスメートの柊木沢高美と申します」
 丁寧な挨拶で深々と頭を下げる彼女――高美は、文句のつけようがないほどに美少女だった。
 少しだけあがり気味のまなじり。黒目がちの瞳は迷い無くこちらを見つめ、スジが通ってツンとした鼻は小さい。薄い唇は微かに紅く、これも小さめだ。
向き合っている所為で長さの程はわからないが、光を受けて輝く黒髪は触れてみたくなる衝動を駆り立てる。
『芸能人で例えるなら誰?』というありきたりな質問が、裸足で逃げてしまいそうだった。
 さらに付け加えるなら、身長は百六十センチは間違いなく超えているだろうし、身体のラインも細すぎず、太すぎずという絶妙なバランスで成立している。
ちなみに、学校帰りなのか着替えなかっただけなのか、制服を着ている。白いブラウスに臙脂のリボンタイ。チェックのスカートからは黒いストッキングがのぞいている。
 うん。完璧だね。ああ、声も綺麗な声をしている。聴きやすい声。そんな声でお兄様とか、初めての体験をしてしまった。
 というわけで、俺はどれくらい言葉と我を失っていたのかわからないが、高美も特に怪訝な顔なんかはしてなかったので、それほど長くなかったのだろう。

67 :No.18 Who is ペット? 2/5 ◇IPIieSiFsA:07/10/21 23:03:08 ID:FPtq2/hz
「はじめまして。いつも妹がお世話になっています。兄の真一です」
 礼儀正しく、こちらも深々と頭を下げた。大学生ともなれば、これくらいの返礼はできるのだ。相手は中学生だが。
 ふむ。和奈のクラスメートということたが、本当だろうか? これだけのパフォーマンスを持っていながら、妹と同級生というのはおかしい。
 視線を和奈に移す。
 あごのラインで揃えられたショートボブ。丸く黒目の大きい瞳。日本人の標準よりも小さめの鼻。まだまだ子供っぽい口元。百五十センチに満たない低身長に、いまだスポーツブラで十分の幼児体型。
 うん。可愛いな。さすが俺の妹。
 いやいや。可愛いのは可愛いが、さすがにコレとアレが同級生というのは間違っている。
「本当に和美と同じクラスなの? 市立第六中学校、三年B組。担任は金八?」
「出席番号は十六番です。担任は金八ではありませんが」
 俺の巧妙な罠に引っかからなかったところをみると、やはり同じクラスのようだ。
「うん。まあ、夜中に大声で騒いだりしないようにな。あと、晩御飯はお願いします」
 注意は二人に。改めて許可の意味を込めて。願いは和奈に。和奈の料理には俺への愛情がたっぷりと込められているはずだ。
「よかったね、高美ちゃん。それじゃあハイ、これ」
 嬉しそうに顔をほころばせる和奈は、手にした通学用のカバンの中から皮製のベルトを取り出して高美に差し出した。
 喜ぶのはいいですが和奈さん、晩御飯の件は了承されたのでしょうか? というか、なんだその明らかに犬の首輪然としたものは。
 しかし俺の心の声など聞こえるはずもなく、和奈は高美に犬の首輪っぽいものを手渡した。
 高美はそれを無言で受け取ったが、どこか憮然とした表情。そして、じっとそれを見つめていたかと思うと、ふぅっとため息をついて、自らの首に巻いた。
 美少女のため息というのがまた素晴らしい。てか、何してるんですか、高美さん。そして、なんでそんなに嬉しそうなんですか和奈さん。
「はい。つけたわよ」
 投げやりな感じの高美に、和奈は『うん』と返事をすると、俺の方へと向き直って口を開く。
「紹介するね、お兄ちゃん。あたしのペットの高美ちゃん。賢くて運動神経も良くて、お金持ちなんだよ」
 まるで自分の事のように、嬉しそうに話す和奈。うんうん。お兄ちゃんは和奈のそういうところが好きだよ。
 でもね、ペットってどういうことですか?
「あのね。この前のテストでね。順位が下だった方が、ペットになるって約束してたの」
 勉強でそんな羨ましげな約束事をしちゃいけません。俺にもそんな女友達がいたらなー……。
「それで、お前の方が彼女より点が上だったんだな」
 再び『うん』とうなづく和奈。ちらりと高美の方に視線をやると、わずかに眉根を寄せて、そっぽを向いている。ああ、こういう表情もイイね。
「さあ、高美ちゃん。お兄ちゃんに挨拶して!」
 満面の笑みで促す和奈。その笑顔に押されて、ということではないだろうが、高美がしぶしぶとこちらに顔を向けた。
「和奈さんの……ペットの高美です。今日は一日お世話になります」

68 :No.18 Who is ペット? 3/5 ◇IPIieSiFsA:07/10/21 23:03:35 ID:FPtq2/hz
「にゃーは?」
 さすがに言い辛そうにしている高美に、和奈の容赦ない指摘が飛ぶ。和奈さん。あなたってけっこう厳しいんですね。そしてアレは犬じゃなくてネコの首輪だったんですね。
 困惑に近い表情を浮かべた高美だが、約束事には固いタイプなのか、一つ深呼吸をして言い直した。
「今日は一日お世話になります……にゃー」
「ぐはっ!!」
 なんだこの衝撃は。美少女が恥らいながら語尾に『にゃー』をつけて。その上、言い終わった直後に羞恥に顔を染めて俯くなんて。
 タダでこんな経験していいのか? もしかして俺、明日には死ぬんじゃないの? というか、思わず『ぐはっ』とか言っちゃってるし。
「それじゃあ、きちんと挨拶も出来たことだし、あたし晩御飯の支度するね」
 相変わらずの笑顔で、さっさと台所に行ってしまう和奈。もう少し何か言ってもいいんじゃないか?
「あっ! 私も手伝うわ」
 恥ずかしさから立ち直った高美が和奈の後を追う。しかし。
「にゃー」
「お、お手伝いする、にゃー……」
 和奈のチェックは相当厳しいようだ。
 二人が台所に行ってしまったので、俺は再びニュースに集中する。できるわけねぇ!
 だって背後からは、女の子二人の楽しそうな声と、恥ずかしげな『にゃー』が聞こえてくるんですよ? 俺も加わりてぇ!!
 なので俺は男の本能に従って、ニュースをBGMに女子中学生飼い主とペットによるクッキングを十二分に堪能した。
 そろそろ萌え死にそうになった頃、晩御飯は完成した。
 高美が大皿の料理をテーブルに配し、和奈が戸棚から皿を出して並べる。ん?
 和奈が並べたのは二人分。アレか、俺はハブか? 歳の離れた兄は寂しくみかん箱で食えと?
「和奈さん。お皿が一人分足りにゃいんじゃないの?」
 料理をしている間に完全に慣れてしまったようで、言葉の中にスムーズに『にゃ』が入り込んでいる。恥じらいが見られないのは残念だが。
「テーブルの上のはお兄ちゃんとあたしの分だよ。高美ちゃんはペットなんだからお皿は床ね」
 なるほどね。たしかに犬とかネコは床に置いた皿でご飯を食べてる。うん。さらりと笑顔で言う和奈が段々怖くなってきた。
「にゃっ!?」
 そこも『にゃ』はつけるんだ。驚愕に目を見開く高美。無理もない。
 ペット云々というか、これは屈辱だ。友達同士でやっていいことではない。
「それは仕方ないな。じゃあ、飲み物用の皿とご飯用とおかず用。三つ用意してあげなさい」
 男には倫理観よりも優先されるものがあるのだ。
「にゃにゃっ!?」

69 :No.18 Who is ペット? 4/5 ◇IPIieSiFsA:07/10/21 23:04:13 ID:FPtq2/hz
 うわ、可愛い。
 さらに衝撃を受けた高美をよそに、和奈は床に皿を並べる。
 配置関係からいうと、俺と和奈がテーブルを挟んで向かい合う。俺の右手側、和奈の左手側がテーブルの端で、そちら側の床が高美。床って。
『いただきます(にゃ)』三人の声が重なる。
 俺は大皿に盛られた麻婆豆腐を自分の小皿によそう。和奈はすでに食べていて、顔をほころばせている。
 俺も続いて口に運ぶ。うん。美味い。しかし、いつもの味とは少し違う。高美が手伝ったからか。俺は彼女に視線を移す。
 高美はぺたんと座り込み、水の入った皿を両手で持ち、水を口に運んでいる。
 やはりそんな状態では飲みにくいようで、口元から水が零れている。あごのラインから首筋、首輪の下を潜って、鎖骨から胸元へ流れる。
 料理をしたせいかリボンタイは外し、ブラウスのボタンも二つほど外していて、胸元が見えていた。というか白だった。
 エロいな。
 注視していたら、皿を下ろして口元を拭う高美と目が合った。この仕種もどこかエロい。
「にゃんですかにゃ?」
 ジロッと睨んでくる。だが、言葉の内容と一致していない。本当に命令に忠実だな、しかし。
 問い掛けに首を振って答えると、彼女はおかずの皿に取り掛かった。だが、麻婆豆腐を同じようにするのは無理だと考えたのか、床に置いたまま顔を近づけた。
 四つん這いの姿勢になっているのだが、頭を下げると、お尻がツンと上をむく。これだけでも充分なのに、ちょろりと出した舌でペロペロと舐めている。
 ヤバイ。エロカワイイ。時折ふーふーしている姿に、俺はもう萌え死んだ。
「お兄ちゃん。よそ見しないでご飯食べないとダメだよ」
 怒られた。
 食事なのかそういうお店なのか、わからない時間はあっと言う間に過ぎた。美味しかったはずの麻婆豆腐の記憶はどこかへいった。
 俺が食後の運動にと、和奈に頼まれた風呂掃除から戻ると、二人はテレビゲームをして遊んでいた。
 二人とも楽しそうに笑っていて、高美も和奈と同じような笑顔を浮かべている。
「あっ! お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
 誘われて断るのは失礼というもの。ましてや相手は中学生。俺は喜んでコントローラーを握る。
 速攻で負けた。多人数対戦の家族向けゲームで経験が足りないとはいえ、まさか負けるとは。
 俺はバタンと後ろに倒れ込んだ。結局、この回の勝者は高美だったようだ。
「ノド渇いたね。ジュース持って来るね」
 これは和奈の声。
「私が行くにゃ。最近のペットはジュースを持って来ることも出来るのにゃ」
 間違いなく高美。てか、『にゃ』言葉とこの状況に逆にハマってるんじゃないのか。
 そして彼女は立ち上がり、台所へと向かった。寝転がっている俺のすぐ脇を通って。うん。下も白か。黒のストッキング越しだが間違いない。

70 :No.18 Who is ペット? 5/5 ◇IPIieSiFsA:07/10/21 23:04:45 ID:FPtq2/hz
 だが、彼女のためにも口に出したりはしない。まあ、戻ってくる時のために起き上がったりもしないが。うん。やはり白だ。
 そして再び熱いバトルを展開する。
 やっぱりこういうのは、より子供の方が優れているのだろうか。どうにも勝てない。
「あっ、そろそろお風呂にお湯を張ってくるね」
 和奈が立ち上がる。まあ、自分が行くというのを止める理由もない。自主性は大事にしなければ。
 高美も、さすがに風呂場は勝手がわからないためだろう、何も言わない。というか、そもそもペットはそんなことしないし。
「ふと思ったんだけど、和奈のペットってことは俺の言うことでも聞いてくれるのかな?」
「……にゃにかによりますけどにゃ」
 和奈がいなくても語尾はやめないのか。間違いなくハマってるな。というか、ペットの素質アリだな。
「最近、運動不足のせいか腰が痛いんだよね。できれば乗っかって踏んづけてくれる?」
「それぐらいにゃら、いいですにゃ」
 その答えを受けて俺はうつ伏せに寝転がる。
「あっ、そうだ」
 振り向き、顔を上げた俺の視界に、黒と黒に覆われた白が見えた。なんという最高のアングル。
「にゃに見てるんですかっ!!」
 可愛らしい言葉とは裏腹に、彼女の足は俺の頭を踏みつける。痛い。
「アレだよね。飼い主の兄を足蹴にするのは良くないよね。ペットはちゃんと上下関係を知っておかないと」
「犬は、家族の中で順位付けをして、自分の順位も決めるそうにゃ」
「うん。それは犬の話であって、君はネコじゃないのかな?」
「どっちでもいいにゃ。エロは死ぬといいにゃ」
「うわあ。ええと、そもそも今はじめて見たわけじゃないし。さっきのを合わせると三回目? ああっ、痛い痛い。強く踏まないで」
「うるさいにゃ」
「アレ? 高美さん、なんだか気持ちよくなってません? なんだか恍惚の表情ですよ?」
「うん。とっても気持ちイイにゃ」
「それはちょっと危ないよね。ペットがこういう快感を覚えるのはよろしくないと思うよ?」
「……じゃあ、お兄さんが私のペットににゃってくれますかにゃ?」
 そういって悪戯っぽく笑う高美の顔は、今日見た中でもっとも可愛いものだった。
 答えはもちろん決まっているのだが、その前に現在進行形でスカートの中が見えていることを教えるべきかどうか。それが問題だ。
 というか、そこで不敵な笑みを浮かべている妹よ。これはあなたの策略なのですか?
 だとしたら、俺の事を理解しすぎです。いや、やっぱり嬉しいんだけどね。



BACK−僕はペットで籠の鳥◆cwf2GoCJdk  |  INDEXへ  |  NEXT−まあ、別にいいか◆h97CRfGlsw