【 こっち見る犬 】
◆CoNgr1T30M




51 :NO.14 こっち見る犬 1/2 ◇CoNgr1T30M:07/10/21 18:39:14 ID:ZQYbBC5L
俺の勤めていたのはそれなりに大きい企業だった。学生時代は勉学に明け暮れ、体育祭や文化祭、卒業式の記憶さえ曖昧だ。今更必死になる同世代を横目に俺は就職した。
が、なんだ。倒産したんだよ、なんでも流行りの不祥事で。入社三年、軌道に乗ってきた俺もそのまま地面に叩き落とされ、公園のブランコで安酒を飲むこの現状。
 うとうとし、次に目を開けた時。そこにはくすんだ色を犬っころがこっちを凝視していた。
「ちょ……こっち見んな」
犬にも馬鹿にされているのか。心なしか犬の目は哀れみを帯びているように見えた。
「何だぁ? 馬鹿にしてんのか? この犬っころ」
犬に話しかけるなんて俺も全く酔狂だ。なんというか二つの意味で。
それでも犬は姿勢を変えずこっちを見ていた。ちっ、と舌打ちしてブランコから少し離れたベンチに移動する。
犬視線もブランコからベンチへと移動する。
「ちょ……こいつ」
なんとなく腹が立ち、安酒の缶を犬に向かって投げる。
犬は視線をこっちに固定させたまますっ、とバックステップで缶を避ける。
「ちょ……」
ここまで来ると不気味だ。もしかするとこの犬、実は怪談の類いで、俺はすでに死亡フラグなのかもしれない。そんな妄念にとりつかれつつあった。

52 :NO.14 こっち見る犬 2/2 ◇CoNgr1T30M:07/10/21 18:39:51 ID:ZQYbBC5L
犬は相変わらずこっちを見ていた。
俺は流石に気味が悪くなり、当てはないがとりあえず公園から離れようとした。
背中は犬の視線を異様なまでに感じ取っている。そして俺は不意に走り出す。追走の気配はない。学生時代、運動を怠ってきたのですぐに息が切れる。ざまーみろと言わんばかりに後ろを振り返るとそこには。
こっちを見るあの犬がいた。
怪談、という説がだんだんと現実味を帯びてきた。
「なぁ、ついて来ないでくれ」
今度は懇願する。けれども犬は吠えもせずただこっちを見ていた。
俺は恐怖のあまり逃走する。そう恐怖ゆえに周りが見えていなかった。右からは大型トラック。俺はそのまま吹き飛ばされ、あまりに少ない青春の走馬灯が流れる。
その走馬灯の中で犬はこっちを見ていた。
そうだ、こいつは受験のストレスを減らすために拾ってきた犬。俺に虐待されるための犬だった。
そんなことを思い出しながら俺の意識は遠のいていった。



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