【 古屋敷 】
◆J3NxDWiXG.




89 :No.25 古屋敷 1/3 ◇J3NxDWiXG. :07/10/14 23:50:03 ID:be9X9miL
高木は10年ぶりにその屋敷に足を踏み入れた。
山奥に聳え立つ広大な様式の屋敷だ。
そこにたどり着くにはいくつもの曲がりくねった小道をひたす走り続けなければならない
近くにペンションやリゾート施設があるわけでもない。迷った道を尋ねる相手もいない。
それでも高木は一つも道を間違うことなくそこに辿り付いた。
なぜならそこは彼が生まれてから18年間過ごした場所だからだ。
しかし一度ここを離れてからはここに来たことはなかった。
ぎぃ・・・
巨大なドアの軋む音が館内に鳴り響く
「坊ちゃま、よくお帰りになられました。」
80歳ぐらいのメイド服をまとった老婆が丁寧に頭を下げた。
高木は少しきまり悪そうに軽く頭を下げた。
「ああ坊ちゃま、本当に大きくなられて・・旦那様がお待ちですよ。」
キヨは嬉しそうに彼を奥へと案内した。
しかしそれに対して彼の表情は堅いままだった。
これからあいつに会うのだ・・・。

90 :No.25 古屋敷 2/3 ◇J3NxDWiXG.:07/10/14 23:51:04 ID:be9X9miL
広間を抜けてその奥のリビングに奴は居た。
「ふん・・・」
それが奴の第一声だった
「10年も帰って来ないとはな。」
高木は黙ったまま"奴"を見た。
「まあいい。本題に取り掛かろう。
この屋敷はお前に相続される。それは言ったな?」
高木は少しだけ首を傾けたが"奴"はそれを肯定と受けとったようだ。
「旦那様、お言葉ですが・・・」
キヨがふいに会話に加わってきた。
「坊ちゃまはもう家庭がある身です。このお屋敷を相続するということはここに住み移らなければ
 なりません。今すぐでなくとももう少し年をとられてからではいけないのでしょうか?」
「ふん、それがこの家に生まれた者の義務だ。28になったらこの家の主となる。
 それが代々続くしきたりだ。例外など認められん。わしもそうしてこの家を守ってきた。
 この辺鄙な所に住むことがどれほど手間のかかることであろうともそれは義務なのだ。」
一気にまくし立てた後少し優しい口調になって付け加えた。
「それにそれだけではない。わしはお前にこの家をついで欲しいのだ・・。
 あのくだらんバカ息子ではなくわしのかわいいお前に・・・」
バン

91 :No.25 古屋敷 3/3 ◇J3NxDWiXG.:07/10/14 23:51:51 ID:be9X9miL
会話をさえぎるように突然ドアが開いた。
「それって僕のことかい父さん。」
若い青年があきれたような顔で入り口に立っていた。
「お前以外に誰が居る。留学すると言って家を出て、実のところ銀座や六本木で遊び放題。
 大学を出てからはIT社長になるなどと言っていつまでも定職に就かず・・そんな奴に
 継がせる家などないわ!」
「だからってネコが継げるわけないだろう!」
青年は高木を指差していった。
高木はなんのことだかわからないといった顔で毛づくろいをしている。
「黙れ!お前はこの家を出るときに高木まで連れ出しおって・・・
 わしがどれだけ寂しい思いをしたか・・・!」
「まあ・・高木は確かに父さんに懐いてたけど・・
 今日も途中まで車に乗せてきたんだけど僕が迷って立ち往生している時に車から出て
 どっかいっちゃってさ、まさか先に着いてたとは・・。」
高木はみゃあと鳴き懐かしい飼い主の足元に擦り寄った。
「もういいよ。高木は父さんに返すよ。今まで悪かった。」
「タカシ・・・・。」

父と息子はひしと抱き合い晴れて仲直りした。
十年間のわだかまりが解けた夜は食事中も会話がはずんだ。
次の日タカシが帰るのを高木も父も笑顔で見送った。

「で、相続はどうなさるんです?」
気付いたのは息子が再び行方知れずとなってからだった。 了



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