【 タカマルキモチ 】
◆ZchCtDOZtU




85 :No.24 タカマルキモチ 1/4  ◇ZchCtDOZtU:07/10/14 23:44:09 ID:be9X9miL
 昼休みの教室。私の正面に座ってる舞は既にお弁当を平らげ、パックのジュースも飲み干していた。
それでも物足りなさそうにストローに口をつけ空になったジュースのパックをベコベコ言わせている。
「へー、ほんほはー、ほんぱあんあけどー」
「あんた、ストロー口に咥えてちゃ判んないでしょ? ほんほ何?」
ストローから口を離し出てきた言葉は、神様のご神託にも等しく聞こえる。
「だからー、今度週末に東高の男子とコンパあるんだけど、綾行く?」
「行く!」
 やったー! 男日照りからの開放だー!
「で、メンツは?」
「それがさぁ、二対二なのよ、だからコッチは私と綾の二人でオッケー?」
「うん。オッケーオッケー」
「でさぁ、向こうの男子が一人はまともなんだけど、もう一人がさぁ」
「うんうん」
「……なんかちょっと変わってる奴っぽいんだよねー。私も話でしか聴いた事ないんだけど」
「大丈夫! まかせて! 変わってるって言ったて大して変人ってわけじゃないんでしょ」
 舞がセッティングしたコンパには今までハズレが無い。あぁ、今から週末が楽しみだなぁ。

86 :No.24 タカマルキモチ 2/4 ◇ZchCtDOZtU:07/10/14 23:45:12 ID:be9X9miL
「だからぁ、ブランカって強いよねー」
「はぁ?」
「だから、ブランカ。知らない? ストUのブランカ」
 正面に座る、少々メタボリック気味おっさん風の東高三年、田島洋平は雄弁に語ってきた。
「あれ? ゲームの話大丈夫?」
「えっ、えぇ。うん大丈夫だよ、私もゲーム好きだし……」
「あ、本当? なら良かった。でさぁ、俺のブランカがさぁ……」
 と言いつつ、店員の持ってきたカルーアミルクを美味しそうにズズズと啜って見せる。勘弁してよ。
 季節は九月。文化祭も迫りつつある、この時期。まぁ文化祭は関係ないけど、私と舞は東高の男子と
高校生だけでは入ってはいけないお店で、コンパをしていた。久しぶりのコンパだったのでお洒落もし
て気合も入れてきたのは良いけど、なんじゃこりゃー。

 メタボリック少年は嬉しそうに自分の携帯を見せる。そこには変な緑色のアニメが映っていた。
「これがブランカ? なんで緑色なの? 血行悪そうだね」
「違うの。強いんだって。バカ強! 今野のザンギェフなんかグルグル回ってる間に空中前転の餌食なんだから!」
 隣に座る、まともそうな今野健太郎さんは舞と楽しそうにお喋りしているのを中座してコッチに向き直る。
「いや、俺ザンギェフ使わねーし。サガットかベガだし」
「何それ。ダッシュ? ターボ? スーパー? 無印のストUだろ。漢なら」
 そう言ってメタボ少年はカルーアミルクをピチャピチャ音を立てて舐めるようにチビチビ啜る。
 やってられるか!
 ゴキュゴキュ喉を鳴らして普段は飲めない筈のお酒を飲み干す。コークハイ一気飲み。
 ドン!! っとテーブルに音を立ててグラスを置くと、即座に店員を呼ぶ。
「生ビールください!」
「ひゃー、綾ちゃん。酒強いねー」
『ひゃー』じゃねーつーの。コンチクショー。

87 :No.24 タカマルキモチ 3/4 ◇ZchCtDOZtU:07/10/14 23:46:34 ID:be9X9miL
「ねぇねぇ、綾ちゃん」
 メタボは未だに一杯目のカルーアを舐めながら私を覗き込むようにガン見してくる。
「えー、なにー」
 すでに私は、二杯目の生ビールが空きつつある。
「綾ちゃん、普段はどんなゲームするの?」
「えーっと、そうだなぁー。あっスイマセーン。ビールおかわりー」
 考えながら、隣をチラッと見ると舞は今野さんとなにやらドラマの話で盛り上がっているようだ。
 フワフワでグルグルの頭で遥か昔にやった事のあるゲームを答える。
「あー、あれ。ほら、なんだっけ? 赤とか黄色の奴を回すやつ……」
 メタボも目を白黒させて考えてる中、店員が本日三杯目の生ビールを持ってくると同時に私は思い出した。
「ぷよぷよだ!」
「ブヨブヨ?」
「ぷよぷよ!」
 メタボは「あー、そっかー」などと変に一人納得しているようだった。しかし、ブヨブヨはテメーだろうが。このメタボデブ。
「ぷよぷよフィーバーかなぁ? アミティ? カー君?」
「はぁ誰だよそれ」
「ハハハ、『ぷよぷよ通』で止まってるなー、コノー」
 「コノー」とか言いつつ、メタボは私に人差し指で触れて来る。「コノー」じゃねーよ。ぶっ殺すぞ、デブ。ビールを煽りつつ心の中で毒づく。
「あー、綾ちゃん、ぷよぷよ強い? 僕ねー、ぷよぷよだけは苦手で階段積みもギリギリなんだよねー。ウヒヒヒ」
 ウヒヒじゃねーよ。さり気なく自慢してんじゃネーゾ。連鎖ってなんだコラ?
「基本、ばよえーんです」
 さらに毒づいていると、隣から今野さんが話しに割ってきた。舞はトイレにでも立ったようで、席が空いていた。
「ウヒー。ばよえーんって七連鎖じゃん? 今野プロ並じゃん?」 
「綾ちゃん、大丈夫? さっきからビールガンガン飲んでるけど……」
「ダイジョーブですよー。コレくらい」
 言い終わると同時にグラスを煽るが既にガラスの中身は空だった。ガンガン警報を鳴らす頭を振ってグラスを持った右手を掲げる。
「すいましぇーん。ビールくだらーい」
「ハイ! アリガトーゴザイマース!」
 店員の叫びが脳みそをグラグラ揺らすと私は、胸の奥から湧き出るタカマルキモチを抑えきれずにトイレに駆け込んだ。

88 :No.24 タカマルキモチ 4/4 ◇ZchCtDOZtU:07/10/14 23:47:31 ID:be9X9miL
「オエ゛ー」
 びちゃびちゃ。
「綾ー。あんた飲みすぎー」
「ゴメェーン。エ゛ー」
 びちゃびちゃ。
「あんたねー。今野さん帰っちゃったのよー。どーしてくれんのよー」
「ゴムェーン。ウ゛ェーァ」
 べちゃべちゃ。
「何時までトイレ篭ってるつもりー?」
 かれこれ一時間にもなるだろうか、私はビールの飲みすぎでタカマルキモチを抑えきれなかった。
 洋風便器を抱きしめ、体内のアルコールを出す事に専念するも、頭はガンガン、足元フラフラ、胸は苦しい、
いっそ死んでしまいたい。
「お客さーん。大丈夫ですかー? 困りますよー」
「あ、スイマセーン。今出ますからー。ほら、綾、開けて!」
 これ以上は舞にも迷惑を掛けられない。汚れた便器を流し、頭が割れそうな頭痛を堪えてトイレの鍵を開けてドア
を開けようとしたときだった。
「洋平君。綾のこと待ってるよー。心配なんだってー」
「……ようへいって誰?」
「誰じゃないよー。綾の前に座ってたちょっとぽっちゃり系の彼だよー」
「……ゴメン無理。私あそこまで物好きじゃないし……」
 私は再び鍵を閉めて閉じこもる。
「コラァーーーー!!」
 舞の叫びがトイレ中に木霊し、ぐわぁんぐわぁん鳴っている私の頭をさらにトンカチで殴りつけるような衝撃が走る。
 再び襲ってきたタカマルキモチを抑えきれず私は再度、便器にしがみ付いた。



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