【 酔狂者 】
◆cWOLZ9M7TI




84 :No.23 酔狂者 1/1 ◇cWOLZ9M7TI:07/10/14 23:42:15 ID:be9X9miL
彼は変わっていた。
この大学の中でもっとも変わってる者は誰かと聞かれれば、私は間違いなく彼を指すだろう。
彼は自然を観察するのがとても好き、らしい。
ある日、彼は道端にしゃがみ込んで何かをじっと見ていた。
視線の先を覗いてみると、コンクリートの道の隅を蟻が一列に並んで動いていた。
この前は学内に生えている木をずっと眺めていた。
その前は、講どこから捕まえてきたのか、カゴに入った虫をじっと眺めていた。
講義中だというのに。

そんなものを見ていて何が楽しいのだろうか。
だが彼は、恐らく楽しいのだ。
楽しくなければあんな行動をするわけがない。
少なくとも、私が短い人生ので得た常識という辞書にはそのように記されている。

――彼と話した事など一度もないから、彼の気持ちなんて分かるわけがないのだが。

全く酔狂な人間だと思う。


ある日、私はファミレスで友人とくだらない会話を交わしていた。
話す事も尽き、特有の気まずい空気が場に流れた。
少しだけいたたまれなくなった私は、思いついたことをそのまま友人に聞いた。
「この大学でもっとも変わってる奴は誰だと思う?」
私の中は、既に友人の答えは決まっていた。
友人は真顔で答えた。
「お前に決まってるだろう。」
予想外の一言に面食らったが、私はすぐに聞き返した。
「なぜ俺なんだ?」
「どう考えても変だろう。毎日毎日1人の人間をじっと観察してるなんて。」
友人の答えに私は、まぁそれもそうか、と思い、別の話を振った。               ―了―



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