【 ハローライス・さよならご飯 】
◆f/06tiJjM6




68 :No.19 ハローライス・さよならご飯 1/3 ◇f/06tiJjM6:07/10/14 23:22:00 ID:be9X9miL
 「ルックアットディスボウル。」
鼻のでかいLATが冷や飯の入った丼をわたし達に見せた。
「アイルテルユァレシピフォデリシャスライス。」
「デリシャスライス?」
「イエス。ユヴァノッノウハウトゥイートライスデリシャシリエット。」
「ワット?明太子?お茶漬け?おにぎり?」
「ザッァグッアイディァ。アンドマイレシピイズグッアズウェル。」
 LATはジャケットの内ポケットからバナナを取りだして見せた。
「ディシズバナナ。イッツァウィクネスオヴマンキー。ウホウホウホ。」
バナナを持って胸をドラミングするLATにくすくす笑い声が漏れる。
 LATはもっと盛大な笑い声を期待していたのか気恥ずかしそうにバナナを剥き始める。なんか卑猥だ。
「ピールイージー。アンドスライスオファピース。」
どこから取り出したのかナイフを使って、空中でバナナを器用に薄切りにして丼に入れていく。
「アブナーィデスカラマネシナーィデクダサィ。」
いつの間にかナイフが消えている。あのジャケットに秘密があるのだろうか。
 今度は紙を一枚とりだして種も仕掛けもございませんよ、とまた見せる。
「シュガ。」
おおう、と教室がどよめき拍手が起きる。漏斗状の紙の筒からさらさらと白い砂糖が丼に吸いこまれていく。
 「センキュ、センキュ」とLATは満足そうに肯いて、鞄から水筒を取りだして中の液体を丼に注ぐ。
「ミルク。ドンスピルオンザフロア。」
みんな我に返ったように顔をしかめた。誰かがゲロっぽいと呟く。わたしの頭の中に白い液体に蛆虫が浮いている
映像が流れる。
 「異議あり!」
教室中のざわめきを代表して、わたしは起立していた。
LATはスプーンを口の前で止めたまま硬まっている。みんなの注目がわたしに集まった。
「・・・えーと、あー、あの、クエスチョン!」
「ミス・カトウ、ワットィズユアクエスチョン?」
「それ、本当においしいんですか?、えーとイズ、ディス、デリシャス、レアリ?」
LATは顔の前で静止させていたスプーンを口の中に入れて深夜通販のコマーシャルみたいに笑顔で答えた。
「ンーム。デリシャァス!」

69 :No.19 ハローライス・さよならご飯 2/3 ◇f/06tiJjM6:07/10/14 23:23:03 ID:be9X9miL
 授業後は教壇で試食会とあいなった。
「シリアルみたいなもんね。」
「砂糖と牛乳の味しかしねーよ。」
「もっとタイ米みたいなパサパサした米のほうがいいかもね。ココナッツミルクとか使えばアジアンになるかも。」
 美味しくはなかった。けれどもあのLATにとっては、ほかほかご飯に明太子よりも美味しく感じるのかもしれな
い。父が毎晩、旨い旨いといって飲む苦いビールのように。
 「ご飯といえばマヨネーズだよね。」
いつの間にか美味しいご飯のおかずに話題が移っていた。
「バッカ。卵掛けご飯が最強に決まってんだろ。」
「だよな。専用の醤油かけたらアメリカ人が裸足で逃げ出すぜ。」
「生卵より半熟じゃない?味の素ちょっといれるとすごいんだから。」
「キムチが一番ニダ。納豆とキムチ、コレ最強。」
「納豆とか食うやつは人間じゃない!」
 みんなご飯については一言持っているのだ。今日のお弁当のおかずがなんだったか思いだそうとした。
「わたしはカニのおじやかな。鍋よりも『その後』が美味しいのよね。」
「鍋おいしいよね。ねえ、明日ウチで鍋しない?なんでもありの闇ナベ!」
「いいねえ。やろうやろう。チョコとか入れる奴が絶対ひとりはいるんだよな。」
「おっとお?それはわたしのことかい?じゃあ期待に応えちゃおうかな。」

 というわけで翌日、闇ナベがしめやかに開催されることになったのだった。
 バッグのなかにみんな食材を隠し持ってきている。わたしはお手製の餃子と、ウケねらいでハンバーガーをチョイ
スしていた。
「ロウソクに火つけた?電気、消すよ。」
 明りが消えると思っていたよりも暗くて鍋のなかにみんなが何をいれているのかよくみえない。ぐつぐつと煮える
音とぽちゃんぽちゃんと食材が鍋に飛びこむ音だけがわたし達を繋いでいた。
 ロウソクが回って来る。わたしは弁当箱に入った餃子を鍋に落とし、ハンバーガーを箸で沈めた。みんなの反応が
楽しみでくっくっくと笑いを堪える。

70 :No.19 ハローライス・さよならご飯 3/3 ◇f/06tiJjM6:07/10/14 23:23:54 ID:be9X9miL
「うわっカトちゃん、変なもの入れたでしょ。恐ろしい娘!」
 全員が入れ終わり、蓋をしたまま明りをつけて煮えるまで待つ。この面子は相当の覚悟を持って挑まなければ痛い
目に合いそうだ。
「では!ご開帳!」
湯気と歓声が上がる。
 全く非道い奴らである。ホヤやらメロンパンやらどこから入手したのかカエルの肉なんてのもあった。
「高かったのよ」なんて買う奴がいないから高いのだ。罰として持ちこんだコのお椀にはカエルの脚が盛ってある。
味はLATのデリシャスライスよりも遥かに不味かったが、この鍋がわたし達なのだろう。伝統や慣習を越えて暴走
するわたし達のイデオロギーは合理性を無視して世界を席巻する。流行に深い理由なんて存在しない。気がつけば
みんなでカエルを食べているのである。

(完



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