【 ある小説家と編集者〜酔狂編〜 】
◆CoNgr1T30M




57 :No.15 ある小説家と編集者〜酔狂編〜 1/1 ◇CoNgr1T30M:07/10/14 22:27:56 ID:be9X9miL
「失礼します、もうすぐ締切りみたいだけど書けた?」
机に向かっている男の哀愁漂う背中。どうやらまだ完成してないらしい。
「まあ頑張って。あ、このせんべい食べていい?」
どうぞ……と小さい声。部屋にはせんべいをかじる音しか聞こえず、筆の音はない。
しばらく携帯で他の品評会作品を眺めていると、彼ががたんと音を立て立ち上がる。
「あっ、できた?」
ちょっと音に驚きつつ尋ねる。
「……外の空気を吸ってくる」
そう言って彼は部屋から飛び出した。
机の上には真っ白な原稿用紙。これは結構絶望的、しかもまだ構想もできてないようだ。後に風邪とか試験だとか色々あってできないと彼は語る。
がらんと立て付けの悪い窓を横に動かす。冷たい夜風、すっかり秋だ。スーツの内ポケットから煙草を取り出し咥える。
「あ、火がない」
携帯を取り出し彼に電話。近くで振動がする。
あいつ……携帯置きっ放しか。ライター買って来てもらおうと思ったのに。
彼は週末になると文書を書いている。私にとってはとても酔狂に見える。最も、彼の原稿用紙をPCに写す作業をする私はもっと酔狂だが。
「全く、早くパソコン覚えろよ」
今では彼の作品を楽しみにする読者の一人だ。



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