【 ジョシコウセイ 】
◆0UGFWGOo2c




43 :No.12 ジョシコウセイ 1/5 ◇0UGFWGOo2c:07/10/14 21:58:45 ID:be9X9miL
知らない顔が、教室に入ってきた。真新しいスーツを着込んだ、若い男。
「今日から二週間、このクラスで教育実習をすることになった、萩本修です。よろしくお願いします」
男は、爽やかな笑顔を浮かべて、白板の前で自己紹介をした。少しだけ、教室がざわめく。
かっこいいね・びみょう・若い・髪型へん……
口々に四十人から小声で感想を言われて、感情を持たれて、彼は何を思うのだろうか。
この男がずっと顔に浮かべてる、にこにこと嫌味のない笑みを見て、不覚にも、素敵。だなんて思ってしまった自分が、飢えた女のようで嫌だった。

女子高なんて楽しいものじゃない。四十人もの、同い年の女。女。女。
そんな彼女らが漂わせる若い女の匂い。香水の匂い、化粧品の匂い、生理の匂い、シャンプーの匂い……。それら全てもの匂いが混ざり、酸素と窒素に溶け込んで、教室中に充満していた。私たち、女なの。とでも表明するかのように。
その匂いは、この学校に入学して一年半がたった今でも、変わらず漂っている。教室だけじゃなく、どこにもかしこにも。
「ねーえ、ミヤはどう思う? 今日きた実習生!」
有希はあたしに質問をすると同時に、あたしの机の上に鏡を立てながらビューラーをしている。金属がまぶたから離れると同時に、くるん、と上がったまつげを、女だらけのこの場で、彼女は誰に見せると言うのだろう。
有希は、今年同じクラスになり、なんとなく一緒に行動している。移動教室や、トイレに一緒に連れ添って行くだけで、生まれる友情。安い。
「どうって言われても、ね。まあ爽やかなんじゃない? 若いし」
ビューラーを机に置き、がしゃがしゃと化粧ポーチを弄る有希の指を見つめて、あたしは言った。
「若いよねーえ。この学校老いた男の先生しかいないから、なんかすっごく新鮮! 狙っちゃおうかなー、なーんてっ!」
「すごいこというねー」
「えーでもさあ、あのーなんだっけ? 修センセもさ、こんな女子高に来たからには期待してんじゃないの?」
「なにを」
「女子高生とのレンアイ」
その響きに、少しどきりとしてしまう。あの人が、もし本当に期待してるのなら、あの人は、どんな人を選ぶのだろうか……。
「右目、ダマになってる」
あたしは有希の右目を指差す。
うっそ、と有希は小さく声を出して、あたしから目を逸らした。そして、あたしは有希との会話の流れを逸らした。
有希は、付き合って三ヶ月の彼氏がいるくせに、口を開けば男の話しをする。レンアイ、レンアイと、あほじゃないのかと

44 :No.12 ジョシコウセイ 2/5 ◇0UGFWGOo2c:07/10/14 21:59:49 ID:be9X9miL
「センセーは、何歳なんですかー?」
放課後、有希に手を引っ張られ、職員室へと連れて行かれた。目的は言われなくてもすぐ分かる。教育実習生、だ。
今日が実習の初日だからか、朝のHR以来、全く教室に来なかった実習生に、有希は始終やきもきしていたのだろう。あたしはそんな有希を鼻で笑ったが、本当は、あたしもすごく実習生に、会いたかった。朝見たあの笑顔が、どうにも忘れられなかった。
職員室に入るなり有希は実習生用に用意された机の前で立ち止まり、センセーに質問をしている。時折横髪を掻き揚げる仕草で、女の匂いを漂わせながら。
「今大学四年だから、二十二歳だよ」
センセーは机の上のノートパソコンを閉じながら、有希の質問に答える。
キレイな指。細くて骨ばっていて、あたしたちみたいな女の指じゃない。髪も、猫毛なのかな?ふわふわしてて、触れてみたい。肌も……
「じゃあ、あたしたちとは五つちがうんだあー! そんなに違わないねー」
センセーのひとつひとつのパーツに、見とれてしまうあたしを遮るかのように、有希はあたしの耳元で叫ぶ。きんきんと高い声は、耳に響いてイタイ。
「でも、十七歳の女子高生から見て、二十二はおじさんだろー」
「えー、そんなことないよお! ぜんっぜん許容範囲! だって普通にそれくらいの年の差で付き合ってる人いるしー。ね、ミヨ!」
思い出したように有希はあたしに会話を振った。うん、とだけ答えといた。
可愛げに語尾をあげて話す有希。楽しそうに有希に笑いかけるセンセー。あまりにも二人が楽しそうに会話をしているから、入り込む隙もなくて、疎外感を感じてしまった。
センセーは、有希のことをどういう風に思っているんだろう。優しそうに微笑むその目は、有希のことをどういう目で見ているんだろう。
有希の履いている短いスカートから、時折パンツが見えそうになる。職員室までの道のりで、それでも短かったスカートをもうひとつ折っていた。計画的なのだ。醜い。

「ちょっとまじでいいかも! 修センセ!」
職員室を出るなり、口に手を当てながら、有希は早口に言った。
「やばいってー! 顔はあんま好みじゃないけど、話し方とかまじおもしろいし、いい!」
いつもより濃く塗っている、ピンク色のチークのせいだけなのか、少しだけ有希の頬が赤く見えた。
「そっかー! じゃあまじに狙っちゃいなよ!」
「ええー? でもあたし、彼氏いるからなー」
はははっと有希はそう言い軽く笑う。
「でもさ、年上とのレンアイって憧れるよね? しかも先生! 放課後の教室でいー感じになってさ、ヤっちゃったり。なーんてっ」
「あ、ははは……」
有希はサラリとそんなことを言ってのけるから、内心あたしは驚いていた。
有希はもう、処女じゃない。先月、彼氏とヤった、とまるで熊とでも戦った武勇伝でも語るかのように、誇らしげに言った。
その頃から、少しだけ有希は変わっていって、それまでしなかった下ネタもするようになっていって、そんな話題を振られるたびに、焦りを感じる自分がいた。――あんたは、処女だから付いて来れないんでしょ。
とでも言われているかのように感じてしまう。あたしは、処女だ。付き合った経験もない、と言ったら大抵の高校生男子に、笑われるんじゃなかろうか。
あたしは放課後の廊下で有希に、また明日。と別れを告げ、家路へと辿った。

45 :No.12 ジョシコウセイ 3/5 ◇0UGFWGOo2c:07/10/14 22:00:47 ID:be9X9miL
「ただいま」
習慣として、帰宅の挨拶をするあたしに、返答する声はない。弟は部活、両親は働きに出ているのだろう。
部活もしていない、恋人もいないあたしにとって、真っ直ぐ家に帰った日はひまでしようがない。
ゆっくりと自分の部屋のドアをあけ、ベッドの上の横たわる。
『……放課後の教室で、ヤっちゃったり、』
有希の言った言葉が、頭の中で繰り返される。センセーと、あたし。
放課後、誰も居ない教室で二人きりになったら、センセーはあたしをどうするだろうか。
あたしのことを見つめて。
無意識のうちに、スカートに手が伸びた。あたしは、制服のスカートをまくりあげ、いやらしく指を下着の中に入れた。
この指は、センセーだ。
ゆっくり、ゆっくりとセンセーの指はあたしの中を弄る。
ねっとりと指で弄んでいるうちに、ぬるりとした液体が体の中から漏れた。
ぬるぬる、ぬるぬる。いやらしい感触に、興奮している自分がいる。
センセー、修センセー……。
大して顔も覚えていない、会話もしていない相手が、あたしの中を弄っているんだ。
ぬちゃねちゃといやらしい音が耳に届く。
「あっ……」
小さく吐息が漏れて、頭の中が真っ白になった。
急激に、脱力感と現実感があたしを襲う。それと同時に、センセーは、あたしの指先から消えた。
センセーの消えたあたしの人差し指には、透明な液体がへばりついていて、あたしはそれを一生懸命洗面所で洗い流した。
あたしは、純潔じゃ、ない。ヒトリで、こんなことを、してしまっている。
セックスを経験している、有希よりも、あたしは汚い。そうとしか思えない。理由は分からないけど、絶対、そう。

次の日も、また次の日も、有希は職員室に通った。もちろん、あたしを連れて。
あたしは未だにセンセーと有希の上手な会話のキャッチボールに入り込めないままだった。有希自身、あたしに入る隙間を与えてくれない。
あたしは、いつも蚊帳の外。二人の距離はどんどん縮まっている。あたしはセンセーを凝視し、思いを募らせることしかできない。
その細い指で、あたしに触れてくれたら、あたしは、それだけで満足なのに。
家に帰ると、あたしの指はセンセーの指に化けて、あたしに快感をもたらせてくれていた。
あたしは、センセーになら、すべてをあげてもいい。大した会話もしたこともない、ただの教育実習生に、あたしは、なにもかもを捧げてもいい。
あたしは、センセーの屈託のない笑顔に、少し茶色がかった髪に、あたしの指とは違う骨ばった指に、出っ張った喉仏に、全てに、恋らしき感情を抱いてしまっていた。

46 :No.12 ジョシコウセイ 4/5 ◇0UGFWGOo2c:07/10/14 22:01:51 ID:be9X9miL
「ミヤあー! 聞いて聞いてー!」
眠気で頭がぼんやりとしているあたしに、朝一番から大声で、話しかけてくるのは例によって有希しかいない。
「なんとね! あたし! 修センセーのアドレス教えてもらっちゃったー!」
ずきり。
「他の子には内緒って言われたけど、ミヤは応援してくれてたから言っちゃうね! 誰にも言わないでよー?」
有希は嬉しそうににやにやと笑みを浮かべ、センセーのアドレスが入ってるであろう携帯を眺めている。
ずきり、ずきり。
あたしの胸は、なにか重いものを落とされたかのように圧迫されていて、その反動で涙が出てきそうだった
ずきり、ずきり。
「実は番号も聞いちゃったし、これでいつでもおしゃべりできるじゃーん! あーうれしい!」
ずきりずきりずきりずきりずきり、ぱん。
しまりのない顔をして頬を紅葉させる有希をよそに、あたしの中では、なにかがはじけた。
ぱんっと体の中で音が鳴って、ゆっくりゆっくりと沈んでいった。
今日、家に帰ったら有希は、ずっとセンセーとメールでもするのだろうか。センセーがいなくなるまでに、もっともっと親密になるのだろうか。
――嫌だ。
ああ、あたしは今日、行動を起こそう。それだけが、あたしの頭の中をぐるぐるとめぐる。
センセーがセンセーじゃなくなるまで、あと一週間。行動を、起こさないと。行動を……。

有希は放課後、デートだと言って職員室にも寄らずにさっさと帰ってしまった。
センセーとメールもするくせに、彼氏だって持っている。あたしは、どっちだって手に入れてはいないのに。
本当に今日、行動を起こしてしまえば、明日から大変なことになるかもしれない。でも、それでもよかった。
「有希からの伝言で、今日七時にあたしの教室で待ってるから。話しがあるからって言ってました」
と、職員室でセンセーに、小さな声で告げた。
本当は、あたしが用があるのに、そう言っては絶対怪訝な顔をされると思ったから、言えなかった。情けないな。

放課後の教室は静かだ。
真っ赤な色をした夕焼けが電気を点けていないほの暗い教室に不気味に色を浸している。
座っている机の上には、あたしだけの影が落ちている。かちん、こちん。時計の音以外、響くものはない。
数十分前まで、教室に残っていたクラスメイトは、一人、また一人とさよならを告げ、出て行った。
あたしは、ここにセンセーを呼び出し、なにをする気なんだろう。

47 :No.12 ジョシコウセイ 5/5 ◇0UGFWGOo2c:07/10/14 22:02:47 ID:be9X9miL
「女子高生」という肩書き。期間限定の、肩書き。その肩書きだけが、あたしを価値のあるものにしてくれる。
センセーだって一緒。修先生、なんて肩書きがあるのはあと一週間だけ。
あの人が、ただの男になってしまえば多分あたしは全く興味がわかないだろう。
センセーだから。あの人が「センセー」で、あたしが「女子高生」だから、あたしはこんなにも「好き」で全てを「捧げたくて」その禁断めいた「レンアイ」ごとに、若々しい好奇心がうずいてしまっているのだろう。
酔狂なことがしたい。みんなみたいなちゃちなレンアイごっこじゃない。おかしい、と思われてもいいから。気持ちが悪い、と罵られても構わないから。
「有希ー?」
がらり、と教室のドアが開くと同時に低く心地のよい声が聞こえた。
センセーだ。
「あれ、ミヤちゃん、だよね? 有希、ここにいるって言ってなかった?」
センセーは、教室にあたししかいないのを見て、不思議そうな顔をしていた。
有希がいるなんて、嘘、ですよ。
小さくあたしはそうつぶやき、机の上から床に降りた。つぶやいた声は、センセーに、聞こえたのだろうか。
教室の中には、二人分の長い影が伸びている。あたしは、自分より二十センチ近く長い影に、ゆっくりと近づいた。
「センセ、鍵、閉めてください」
淡々と、そう告げた。まっすぐに、顔が見れない。
「え? なんだ? 戸締りか?」
センセーは相変わらず不思議な表情を浮かべながら、カチャリ、と鍵を閉めた。
その瞬間から、この教室は、閉鎖された二人だけの空間へと変わった。誰も、入ってくることはできない。安心感。
「ね、センセー。女子高生は、好きですか?」
あたしは首にまいたリボンをゆっくりと外し、自分のブラウスのボタンに手をかけた。鈍く指が震えていた。
「へ?」
怪訝な顔をする二十二歳のセンセー。ひとつふたつと、ボタンを外していく十七歳のセイト。
この光景は、一体なんなのだろう。あたしは、本気なのだろうか。
「あたしは、好きですよ。期間限定の先生が」
最後のボタンに手をかけた。下着が、露わになった。
「えっと、これは、どういう意味……?」
センセーの目は泳いでいる。声も、震えている。
分かってるくせに。あたしは無言でセンセーの元へと寄り添った。センセーのズボンのファスナーの辺りが、膨らんでいた。
もう、どうにでもなればいい。
「抱いて、センセ」



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