【 姫の晩餐会 】
◆Qvzaeu.IrQ




52 :姫の晩餐会 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/05/14(日) 22:10:31.12 ID:7mr5IS4I0
 うちのユキ姫は、いわゆるツンデレって奴だ。
 あー、まあ二人だけのときにデレてくれるなら良いんだが、飯のときだけデレるんだよ。あのお方は。
 ご飯時になると、お気に入りの場所から重い腰をあげて足元にじゃれ付いてくる。
 普段もユキ姫に構って欲しいわけだが、そんなこっちの事情はどうでも良いらしい。
 飯のときだけ、ひょっこりやってくる。そのときは、デレるデレる。ご飯くれなきゃやーだ、やーだ、と。
 少しでもご飯をあげるのを手間取ると、そりゃあもう、姫はご立腹なさる。ご自分でお食事をあさりにキッチン中を駆け回るのだ。あれだけは、やめて頂きたい。
 
 同居者のユキは、その名の通り真っ白な美しいお嬢様だ。丁度、年齢で言えばスイートセブンティーンに今年おなりになられた。普段は自由奔放きままに、ご自分の生活を満喫していらっしゃる。
 小さいときは、そりゃあもう可愛かったんだけどさ。ユキは、ふわふわで綺麗な瞳をしている。透き通るような青色で、それが真っ白のユキには物凄くあっている。
 もぉ、その姿を見たときに一目惚れ。その頃のユキは、まだ純粋無垢で俺の後をひょこひょこついてくる可愛い奴だった。
 外に行くのも一緒で、ユキたちにしたら珍しく人懐っこかった。うむ、小さい頃はほんっとそうだった。
 散歩に行くときもあった。俺の後をちゃんと付いてきて、道行く仲間たちにビビりながらも、近所を良く徘徊した。
 それがまあ、大きくなったらユキは見事にお姫様になりおおせた。
 小さい頃の愛想なんかカケラもない。あの純粋無垢な時代は、遠い過去となった。
 今のユキ姫様は、俺のお気に入りのビーズクッションを玉座とし、そこに悠々とお座りになられている。
 無論、昔は俺の城だったはずなのに、今じゃユキ姫様のお城となり、俺は執事として身の回りのお世話担当係にまでなった。
 って言うか、ユキ姫様にとってはそれくらいの認識だろう。最近特に困るのは、この狭いワンルームの城内では、もはやユキ姫様にはご満足いただけないのだろう。しょっちゅう、抜け出そうとする。
 ご自分で、窓をあけて器用に身をよじり外へと駆け出してしまうのだ。流石、お年頃のお姫様。
 ご飯の時間になると、専任シェフも兼任している俺の元へ帰ってくるのが、まだ救いだけど。
 それ以外の時間は、ユキ姫様はツンツンですよ。
 オモチャで気をつろうにも、こちらからご機嫌伺いに言っても、ツーンと興味を示してくださらない。
 まったく、あの可愛いユキはどこへ行ったのやら。
 
 仕事帰り、疲れた頭でぼーっとユキ姫の姿を追う。
 姫様は、本日ビーズクッションの上で気持ち良さそうにうたた寝していた。
「ゆきー、ゆきゆきゆーきっ」


53 : ◆Qvzaeu.IrQ :2006/05/14(日) 22:11:50.73 ID:7mr5IS4I0
 俺がそう呼びかけると、ユキ姫様は綺麗な八重歯を見せてあくびをした。そのまま、こっちを見るでもなく、身体をくるんと捻って見せた。
「帰ったよ、ユキ。ご飯にするぞ、ご飯」
 ユキ姫様は、大変賢い。そこらの奴なんかよりも、数十倍は賢い。
『ごはん』という人間の言葉もちゃんと、ご理解なさっている。
 ユキ姫様は、玉座から優雅な振る舞いで立ち上がる。ゆったりとこっちまで歩いてきて、足元にまできて、頬を摺り寄せてきた。
 この瞬間が、一番お互い機嫌が良い。俺は、ユキ姫がデレデレなので嬉しいし、ユキ姫はご飯がもらえて嬉しい。
 しゃがみこんで、ユキ姫の頭をよしよしと撫でる。すると、気持ち良さそうに声をあげた。
「ユキ、ちょっと待ってな。今日のごはんは、少し奮発したから」
 ユキ姫様の機嫌が良いうちに、俺は買ってきたユキのご飯をお皿に盛り付ける。
 そうして、自分はお弁当を温める。
 その間、ユキ姫はずーっと足元をじゃれついている。あーあ、いっつもこうなら良いのだが……。
「いただきます、ユキ、いただきますしなよ」
 俺はユキ姫の前にご飯を差し出し、自分はテーブルの上でお弁当の封を解いた。
 ユキ姫様は大変お行儀が良い。
 いつも、ちゃんといただきます。って、挨拶もできる。手を上げてお皿をこつんと叩くのだ。
「うむ、流石ユキ〜。偉いっ」
 と、俺が褒めてもユキ姫様はもう食事に夢中。
 いつものように、俺のことなんか目に入ってない。
 太らずに、健康な姫様でいるから、まあこれでもいっか。そう思いながら、ユキがご飯を食べるのを眺めていた。
 ユキは、今日も大変満足そうにあくびをするのだった。
 今日もいつものように、姫の晩餐会はつつがなく終わった。
 これからも、変わらずに姫様の身の回りの世話をするのだろうな。そう感じさせてくれた。
 いつまでも、身の回りの世話をやらしていただきますよ。姫様。



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