【 「夜明けの小戦争」 】
◆4TdOtPdtl6
50 :No.12「夜明けの小戦争」1/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/07 20:36:12 ID:8hrmqLCj
それはまだ日が昇って間もない頃。
煌々と射しこむ光の中、彼らは対峙していた。
奴らは皆、押し黙っている。
ぐるりと包囲網を形成するその数およそ五十。
普段は片手で数えられるほどしかいないと言うのに、いったいどこからそれほどまで集まったのか呆れるほどだ。
その桁違いの数は、今日という日がいかに敗北の許されない重要な日かを表していた。
奴らは整然と隊列を組み、微動だにしない。
反対に、それに相対する彼は、落ち着き払っている。
包囲されているにもかかわらず、瞳を閉じ、穏やかな顔でたたずんでいる。
彼らはどちらが先に仕掛けるでもなく、ただただ時間が過ぎていく。
かちかち、かちかち。
時刻を刻む音が奇妙なほど大きく響き渡る。
そして。
――かちっ
長針がまっすぐ上を指す。
それが、始まりの合図だった。
奴らはいっせいに雄たけびを上げる。
悪意に満ちた怨嗟の声を。
あるいは、狂気に満ちた咆哮を。
その声は大地を揺らし響き渡る。
殲滅戦が、始まった。
そう、確かにそれは、殲滅戦だった。
しかし。
それは、通常の多数が少数を取り囲む殲滅戦ではなく。
縦横無尽に敵を蹴散らす殲滅戦だった。
そう。
その戦いを表現するならば、多勢に無勢、ではなく。
一騎当千、だった。
51 :No.12「夜明けの小戦争」2/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/07 20:36:37 ID:8hrmqLCj
彼の戦いぶりはすさまじかった。
孤立無援なんて意にも介さず。
四面楚歌なんてものともせず。
袋叩きなんて知らないとばかりに。
その姿はまるで鬼神の如く。
跳ね除ける、叩きつける、突き崩す。
なぎ払う、蹴り飛ばす、張り倒す。
あれほどまでに居た奴らは、みるみるうちにその数を減らしてゆく。
五十を超える集団だった奴らは、二十、十と数を減らしていき。
そしてついに。
残るは一騎だけ。
それでも。
周囲の仲間がすべて倒されたにもかかわらず裂帛の鬨を上げる。
そんな奴の姿はもはや悲壮感すら感じさせる。
しかし、彼はそんなものは知らんとばかりに一瞥する。
奴を叩き潰さんと無造作に手を振りかぶる。
その刹那。
「――っ!?」
それまで無表情だった彼の顔に驚愕の色が浮かぶ。
とっさに振り返ると。
叩きのめしてきた奴ら。
倒したはずの奴らが、再び立ち上がっていた。
52 :No.12「夜明けの小戦争」3/3 ◇4TdOtPdtl6:07/10/07 20:37:04 ID:8hrmqLCj
チッ、リジュームか。
小さく呟くと彼は攻撃の手を一変させる。
それまで粗野で暴力的な力とは打って変わり、急所を狙い一撃で動きを止める。
まるでそれは錐のように鋭く、正確だった。
そう、彼ら力量はの差は歴然としており、不意を付いた程度では止められない。
成す術も無く倒されるその光景は、数分前の焼き直しでしかなかった。
そして。
ついに最後の一体をも沈黙させる。
静寂の中、ただ一人立ち上がる彼。
勝利の余韻からか敗北した奴らの惨めさを嘲笑ってか、小さく笑みを浮かべ、そのまま倒れこむ。
やわらかくて暖かい、布団の中へ。
所は変わり、近くの学校。
「それじゃあテストを配るぞー」
「おいおい、あいつ、クラス中から目覚まし借りてったのに遅刻たぁどういうつもりだ?」
数時間後、彼が本当の敗北者は自分なのだと気づき、絶望したのは言うまでも無い
終