【 三週前の敗北 】
◆.LU4CJXxgs




29 :No.07 三週前の敗北 1/2 ◇.LU4CJXxgs:07/10/07 12:20:03 ID:EJGwOLAK
苦しくて、苦しくて。
口を大きく開けて、酸素を取り込んだ。
口蓋に触れる外気は、秋から冬への移り変わりに為に冷たさを伴う。
「――――ぐっ」
取り込んだ酸素はそのまま飲み下し、二酸化炭素を吐き出すことさえしない。

放課後、いつものように陸上部の練習へと赴く。やることだっていつもと変わらない――3週間
後の大会に向けて、ただひたすらに走るだけ。
部員の中には、大会当日にベストコンディションを持ってくるために、身体を慣らすだけに留め
るだけの人もいる。
調整だけの部員同士が話し合っている輪の外で――運動場に設置されているトラックを、無心に
走り続ける。
部活動に所属していない生徒たちが、時折吹きすさぶ冷たい風に身体を震わせながら学校を後に
する中、俺の体操服は汗を含み、周を重ねるごとに確かな重みを伝えてくる。
きゃ――――
肌に確かな冷たさを感じさせる風は、瞬間――その強さを変える。
遠くで――おそらくは校門近くで、下校しようとしていたのだろう女子生徒たちの甲高い悲鳴が
聞こえた。
彼女たちに視線を送ることもなく何が起こったのかくらいは容易に想像できる。
だが、少しばかり強まった風は、体温が上昇しきっている俺にとっては、恰好の冷媒へと変わる。
同様に、汗で重くなった体操服も一気に冷気を含む。
結果――全身の熱が身体から排出されたかのように、気分がすっきりしたものとなる。
そのまま、トラックのゴールまで走り抜ける。

30 :No.07 三週前の敗北 2/2 ◇.LU4CJXxgs:07/10/07 12:21:13 ID:EJGwOLAK
二百メートルのトラックを二十周――四キロを、オーバーペースで走り終えたところで膝に手を
つき足を止める。クールダウンなんて考えている余裕なんてない。
タイムを計らせていた後輩が――じっとしていて寒くなったのか、ジャージを一枚着込んで、俺
の元へと走り寄ってくる。
「やりましたね、先輩――ベストタイムですよ!」
嬉しそうに笑っている――俺にタオルを渡してくれたところで、タイムが教えられた。
「……――」
駄目だ、まだ届かない――。
俺のタイムが聞こえていたのか、俺と同じ種目を走る部員が歩み寄ってきた。
その顔には、自身の記録に達していないものに対する嘲笑が含まれているように感じた――少な
くとも、今の俺には。
そして、普通に声を出すだけで相手に届くくらいの距離まで近付いたところで、一言――。
「どうした? 今度の大会で優勝するんじゃなかったのか?」
言い残して――俺の答えなど期待しているふうもなく、そのまま場を離れていった。
ああ、わかってるさ。
あと三週間。その間に、絶対あんたよりも速く走ってやる――。



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