【 とある西方の国の話 】
◆CoNgr1T30M




21 :No.05 とある西方の国の話 1/5 ◇CoNgr1T30M :07/10/07 01:30:22 ID:QMbbAFZp
 世界に争いが絶えることはない。弱肉強食、それは生命を持つ者の宿命。故に生物である人間もやはり弱肉強食は当てはまる。ただの捕食から戦争へと方法が変わっただけ……。

 とある国では絶対的な王政、封建的な制度が敷かれていた。宗教で民を惑わせ、重労働の上に多額の税。だんだんと上流階級と平民との差が開いていった。これも一つの弱肉強食のカタチである。
けれど疲弊し、麻痺した平民たちの神経でさえもこのやり方は理不尽、横暴だと理解出来ていた。ただきっかけがないきっかけがないから行動が起こせない。

 ある日、事件が起きる。
 貴族の中で内輪もめが起こったのだ。皇帝は東方討伐の功績に応じて、数名の貴族にそれぞれ役職を与えていた。
しかしこの時、皇帝に提出された報告書は捏造され正しい物ではなかった。正しい役職を与えられなかった貴族は、そのままじわじわと権力を手にした貴族により宮殿から追放されてしまう。
 没落した貴族たちは野に下りた。そして野には不満を抱えた民衆がいる。
 この時点ですでに導火線に火が付いていた。

22 :No.05 とある西方の国の話 2/5 ◇CoNgr1T30M :07/10/07 01:30:53 ID:QMbbAFZp
「陛下! 追放された貴族たちに不穏な動きが」
「……二人きりの時は呼び捨てでいいって言ったじゃない。それにそんなこと、あいつらが先走った行動を取った時点でわかっているわ……」
あいつらとは報告書捏造により権力を握った貴族、先走った行動とは他の有力貴族の排除のことだろう。
「確かに報告書を見破れなかったのは私に落ち度がある。その時はちょうど北方討伐に向けて準備をしてたし……あまり手がまわらなかった……はぁ……」
皇帝陛下は溜め息をつく。
現皇帝は弱冠十九歳にもかかわらず圧倒的なカリスマを発揮している。世間からは冷徹、冷酷その他の類似語をほしいままにしている女王なのである。その女王様も幼馴染みと二人きりになると年相応の表情を見せる。
先々代からの贅沢な暮らしがたたって財政は火の車。それを彼女は侵略戦争で補おうとした。増税し軍資金を作る。負ければ国が破綻する博打に打って出た。
そして、この時初めて先代の残した新兵器が実戦で使用された。それが勝利の要因とも言えた。
「まぁ、東方討伐は貴方のおかげよ。ありがとね、ケェネオス。この調子で北方討伐もお願い」
「お言葉ですが陛下、侵略よりもまず国内を統合すべきです」
すると女王はむっとする。

23 :No.05 とある西方の国の話 3/5 ◇CoNgr1T30M :07/10/07 01:31:22 ID:QMbbAFZp
「また呼び捨てじゃない、ケェネオス。ねぇ、言ってよ」
どうやらむっとしたのは呼び捨てで呼ばなかったかららしい。ケェネオスは焦る。
「そんな畏れ多くて……」
「何が畏れ多くてよ。十九年も一緒にいるのよ」
ケェネオスの胸を指でツンと突く。
「また増えた? 生意気ね」
ケェネオスの反応を楽しむかのように指を動かし続ける。ケェネオスは悶えている。
「ちょ……レイサやめてっ」
ぴたっと動きが止まる。
「ふふ……やっと呼んでくれた」
皇帝レイサはにっこりと花のような笑顔を作る。ほぼ同時にケェネオスはふうっと溜め息をつく。
ケェネオスは皇帝の親衛隊。レイサの為ならば命まで投げ出すだろう。
「もう……レイサの馬鹿……私は少し用がありますので戻るのは少し遅くなります」
小声でそう言い、ばたんとケェネオスは部屋から出ていく。
「たとえ私が革命で潰れても侵略した土地は引き継がれる。最終的に国民を幸せに出来ればそれでいい」
弁解の様な長い独り言の後、皇帝は床に就いた。

24 :No.05 とある西方の国の話 4/5 ◇CoNgr1T30M :07/10/07 01:31:48 ID:QMbbAFZp
 皇帝の部屋に続く廊下でケェネオスはうんざりとしていた。親帝派の貴族との会議は毎度毎度不快にさせられる。彼らの頭の中は、自らの保身と出世のことしかない。親帝派と名乗るのも皇帝の、レイサの名が汚れる……。

 ケェネオスが皇帝の部屋の扉に手をかけるのとほぼ同時に激しい爆音がする。おそらく襲撃。
 北方討伐の軍は首都と少し離れた場所に配置してある。しかも北方討伐軍にほぼ全ての兵力が傾けてある。すなわちいま首都は手薄。襲撃を恐れて明日にでも北方討伐軍に合流する予定だったがまさか一日早くなるとは……不運だ。
扉を荒っぽく開けてレイサを起こす。
「陛下! 革命軍の襲撃です。すぐに北方討伐軍に合流しましょう」
「えぇそうね、親衛隊隊長。けれど逃げるのは私と貴方二人だけ。他は捨て駒よ。首都が取られても主力の北方討伐軍と私、あとは人間兵器の貴方が居れば被害は少ない。私を北方討伐軍へ連れて行きなさい。一騎当千の貴方なら出来るはずよ、親衛隊隊長」
あまりに冷徹、冷酷。東方討伐の時もそうだった。勝つ為に手段を選ばない、これが氷の女帝。ケェネオスは圧倒されて異議も唱えずに宮殿から脱出を始める。
ケェネオスはレイサを抱き、三階にある部屋の窓から飛び下りる。着地に音は無くそのまま平然と逃走を始める。
新兵器とは彼女ケェネオスのことで、最新鋭の科学の結晶、人間を超えた人間、まさに超人である。
 目指すは北方討伐軍。まずは態勢を立て直す必要がある。

25 :No.05 とある西方の国の話 5/5 ◇CoNgr1T30M :07/10/07 01:32:16 ID:QMbbAFZp
 それはショッキングなニュースだった。北方討伐軍が革命軍に破れたのだ。兵力は圧倒的に北方討伐軍が勝っていたはず。指揮が不在の上、奇襲か何かを受けたのだろう。これで行き先が無くなってしまった。
「貴族たちは皆、処刑されたようだ。私も処刑されるであろう。ギロチンか何かだろう、大衆は残虐嗜好だからな」
「諦めないで下さい、レイサ。東方に逃げましょう。そして……」
一緒に暮らしましょう。国を背負うレイサ、生ける兵器だったケェネオス。時代に飲まれた二人はただ安息を求めていた。それも束の間、外が騒がしい。どうやら隠れていた倉庫が革命軍に発見されたようだ。
「さぁ、レイサ……逃げて。すぐに追いつくから」
二人は顔を近付け唇を重ね、しばらく舌を絡めあった。

レイサが裏から逃げ出す。それを見計らってケェネオスは倉庫の外へと堂々と出て行った。
「敵はざっと千騎……女二人を捕まえるには多過ぎませんか?」
剣を抜く。やって来るのは銃弾の嵐。それを剣で全て撃ち落とさなければならない。
刃こぼれ……もはや関係ない。弾を撃ち落とすのに、敵を撲殺するのに刃は鋭利である必要はない。
敵を八割ほど片付けた時、左足に違和感、赤くなり痛む。肩、右手、脇腹、右目、胸。次々と違和感。そしてそのままケェネオスは名誉ある戦死を遂げる。それはレイサとの安息は永遠に無くなったことを意味していた。
レイサがどうなったかケェネオスには見当もつかない。



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