【 ヒーロー使いの侵略者 】
◆h97CRfGlsw




29 :No07 ヒーロー使いの侵略者 1/5 ◇h97CRfGlsw:07/09/30 03:14:14 ID:JUYf/ZEI
 人は何故、ヒーローというものに憧れるのだろう。
 時々そんなことを考えることがあったが、最近はよく頭の中にそのフレーズが浮かんでくる。
 というのも、あれだ。侵略者。そう、侵略者が地球に現われたからだ。暇をもてあます不良大学生の俺はリビングでソファーと同化しつつ、ここ数日同じような話題を垂れ流し続けるニュースに目を向けていた。
「えー、今日は特別ゲストとして小説家の山田さんにお越しいただきました。それで山田さん、あの東京上空に突如出現した「コア」とは一体、何なのでしょうかね?」
「え、なに、あれもう「コア」って名前付いちゃってるの?  ラミエルって名前の方が個人的にはにあってると思うんだけどなあ。というかあれだよね、やっぱアメリカってセンスないよね。核てなにさ。やっぱ原爆投下を正当化し」
「はい。以上、山田さんでした」
 手許にあったチャンネルでテレビを消す。くあ、と暢気に欠伸などかましながら、正面の陽光差し込む窓から外を眺めた。
 小鳥がつんつくと泣き喚きながら飛び交う青空の中。金色に輝く巨大なピラミッドが、超然と浮遊していた。
 
「あれなんだろーねー?」
 気まぐれに外に出る。人通りの多い、十字交差路。母親に手を引かれた子供が、すれ違いざまに空を指差して呟いていた。ここ数日、世間の話題はあの「コア」のことでもちきりだった。何の目的があって、何のためにこの地球に現れたのか。そもそも、あれは一体何なのか?
 一見して光のピラミッドといった感じの未確認飛行物体。広義ではUFOの一種といえるであろうそれは、おしげもなく、威風堂々とその姿をこの東京の上空に姿を見せていた。これには流石の俺も驚きだ。
 何処か神々しさすら感じさせる「コア」。今のところ人畜無害を装ってはいるが、実際のところはどうかわからない。もしかしたら、インディペンデンスデイばりの侵略劇を繰り広げてくれるのかもしれない。
 ともかく。あの「コア」がどういう意図でやってきたとしても、唐突な非日常に地球人類はどこか興奮しているらしい事は確かだ。
 アメリカは躍起になって日本に偵察機を飛ばさせてくれと頼み込んできているし、日本は日本で既に商品展開が始まっていた。そんな感じで、各国やきもきとしながら、「コア」の動きをうかがっている状態だった。
 立ち止まって空を眺める。ちょうど真上に、「コア」が佇んでいる。全長1キロとも言われるそれは、まるで黄金の傘のようだった。その姿を見て、図らずも心が奮える。あれの動きを楽しみにしているのは、なにも国だけではない。
 「コア」を一瞥し、元来た道を戻る。あれが仮に侵略者だとして、襲われたところで俺にはなす術がない。そのことを思い出し、興醒めしたような気分になって、俺はふうと溜め息をついた。

 人は何故、ヒーローに憧れるのだろう。
 もとい、なぜ俺は、俺たちはヒーローに憧れていたのだろう。
 単純に格好よかったからだろうか? 人々の危機に颯爽と現われ、悪との接戦を繰り広げ、打ち倒し、救いをもたらして去ってゆく。勧善懲悪の、なんともわかりやすいチープなヒーロー像だ。
 各々が抱くヒーロー像というものに、幾分かの差はあるだろう。が、自己犠牲による他者救済を生業とするという点において、さほど本質に相違はないといえる。
 ヒーローに、なりたい。その願望の根本には、少なからず誰かを助け感謝を受け評価されたいという、強い自己顕示欲が潜んでいるのだろう。矮小で無力な俺でも、誰かを救いたい。圧倒的な敵に、大立ち回りを演じてみせたい。 
 
 そう、例えば――今、目の前に出現した、あの怪獣のような敵に。

30 :No07 ヒーロー使いの侵略者 2/5 ◇h97CRfGlsw:07/09/30 03:15:58 ID:JUYf/ZEI
「……マジでか」
 思わずぽろりと言葉がこぼれた。まったく無理もないことで、顔をほんの少しだけ上に向けるだけで目が合うような距離に、怪獣が佇んでいたのだ。あまりに唐突に、何の前触れもなく、それは現われた。
 一見人のような形をしている。が、どこか動物のような印象を受ける。豚……っぽくもあり、犬のようでもある。足して割ってイノシシといったところか、などと考えるよりも先に俺は即座に踵を返し、周囲の人々に倣ってその怪獣から逃げだした。
「グオォォォッ!」
 なんともわかりやすい雄たけびである。正直耳が爆発するかと思った。東京都内の、当然ビルが林立するほんの隙間に差し込むに出現した怪獣。先程の咆哮の衝撃で、ほとんど密接していたビルがぎしぎしと悲鳴をあげていた。中にいた人が気の毒である。
 全力で走りながら、ちらちらと後ろを振り返って怪獣の姿を確認する。ビルと対比させていて、目測およそ50メートルといったところだろうか。安っぽい豚の着ぐるみがそのまま大きくなったような、なんだか憎めない造詣をして――
「うぇええい!」
 また豚が叫んだ。うぇええいてお前。狭苦しいスペースで、縮こまるようにしてガッツポーズなんかをしている豚。ずいぶんとお茶目な怪獣なんだなあ、と思うわけもなくふざけんなふざけんなとテンパリながら走る。必死で走る。
 どうやらブッタン星人(命名俺)はビル群に突進したり、逃げ惑う人々を踏み潰して楽しむような趣味はないらしく、割とおとなしくブヒブヒと叫ぶだけに終始していた。まさしく人畜無害。何しに出てきたんだろうか。
 人畜無害、とそんな言葉と共に、俺の脳裏にあの「コア」のことが思い浮かんだ。現状を考えれば、あのブッタン星人と「コア」を繋げて考えるのが自然だろう。つまり、とうとう「コア」が侵略活動をはじめたということなのだろうか?
 オラすっげえワクワクしてきたぞってそんな場合ではない。周囲を走るハイヒールなんかを履いた女性陣の絶叫がこだまし、情けない男連中の悲鳴がすぐ横を走り抜けていく。阿鼻叫喚の地獄絵図。こんな言葉、使ったの久しぶりだ。
 暇な文系大学生の体力などたかが知れたもので、俺は三分も立たないうちに肺が爆発しそうになり、手近にあった電信柱に手をついた。ぜいぜいと喘ぎながら、怪獣を見上げる。
 ……ちょっと待て。俺が望んでいたのは、このシチュエーションではなかったのか? 動転した気が、一周してようやく戻ってきた。幾分か復調した冷静さのおかげで、自問自答が出来る程度にはなってきた。
 ヒーローになって、逃げ惑う人々を怪獣から救い出す。その場面を暇があれば夢想してきた俺。今こそ、その夢を実現させる時なのではないか? ヒーローになる時は、今ではないのか?
「ガアアッー!」
 電柱を突き飛ばすようにして離れ、俺は再び走り出した。どうやら気はまだまだ動転したままらしい。ヒーローになる? そもそも俺になにができるというのか。夢想するのは勝手だが、身の程を知るべきだろう、俺よ。
 所詮は無数にいる人間の一人でしかない。出来ることなどごく僅かなことで、当然あんな化け物と戦う力などない。こうして逃げる惑うだけで精一杯だ。誰かを助けることなど、土台無理な話だ。
「ウオオッー!」
 不意の、耳をつんざくひときわ大きい咆哮に、耳を塞いでうずくまる。近くにいた女性が、それに悲鳴をあげて転げた。その姿に、なにかが口をついて言葉がこぼれそうになったところで、背後から再び爆音が鳴り響いた。
 ビルが崩れていく。いや、あの怪獣が腕を叩きつけ、壊したのだ。怪獣の出現からかなりの時間が経っているため巻き込まれた人はいないだろうが、砕かれた破片がの群れが、こちらに降り注いできていた。クモの子を散らすように、辺りの人の波が引いていく。俺も後を追う。
「ひ、あ……」
 声にならない声が聞こえてしまった。後ろ髪を引かれる。先程見た女性が、身を防ぐ術のない道路の真ん中で倒れ伏していた。その姿を見て、血の気が引いていく。数秒後の惨状が容易に想像できる。彼女は、このままでは確実に。
 ……俺が憧れたヒーローとは、なんだったのだろうか。幻想と決め付けた、ヒーロー。敵と相対し、人々を救うヒーロー。ヒーローとは、救うものの人数で決められるものなのか? ヒーローとは――、一体何のことだった?

31 :No07 ヒーロー使いの侵略者 3/5 ◇h97CRfGlsw:07/09/30 03:17:31 ID:JUYf/ZEI
 そんな理屈を頭でこねくり回すよりも早く、俺は踵を返して彼女のもとへ向った。何の考えもない。救い出す手立てなどない。だが、ここで行かずして、なにがヒーローか。人間であり、男であり、ヒーローでありたい。俺は今、確かにヒーローに順ずる存在だった。
 でも、どうしたものか。意気込んで駆けつけたものの、これでは死亡者数の増加に一役買っただけだ。降り注いでくるガラス片が、天上に滞空する「コア」の光を乱反射させて、まばゆく輝いていた。その光景の神々しさに、俺は思わず死を覚悟した。
「早く乗れ!」
 女性と二人、しがみつきあってガラス片を眺めていると、唐突に目の前が真っ暗になり、怒鳴り声をぶつけられた。よく見ればそれは大きなワゴン車で、どうやら俺のほかにもヒーローがいたらしいと気が付いた。女性を即座に車に放り込み、自分も後に続く。
「伏せろ!」
 車内には中年の男性が乗っていた。毛布を手渡され、俺は咄嗟に女性を座席の隙間に押し倒し、頭から毛布を被った。ガガガガと、降り注ぐガラスと車の天井が砕けあう音が響く。パラパラと、内部にもガラスが入り込んでくる。
 恐慌のせいか無限にも感じられた時間が終わる。どれほどの間そうしていたのか、先程までの轟音はぴたりと収まり、異様な静寂が辺りを包んでいた。毛布のおかげで鼓膜は無事だったものの、耳が痛い。
 俺の下敷きになっていた女性が、むくりと体を起こす。涙の跡のうかがえる顔に呆然を貼り付け、俺の顔をじっと見つめていた。しばらくして緊張の糸が切れたのか、堰を切ったようにさめざめと涙を零し始めた。不意に抱きつかれて、あわあわと慌てふためく俺。
「勇ましかったな、アンタ。今の若者にこんな根性のある奴がいるとは思ってなかったよ」
 運転席の下に身を潜めていた中年の男性も、頃合を見計らって顔を上げた。俺にニッと笑いかける彼は、この状況下でも余裕の爽やかさが伺えた。肝の据わった、大人の男の顔だ。結局、俺も彼に助けられたことになる。感謝を込めて一礼すると、彼は破顔した。
「アンタがいなきゃ、その人は助けられなかったさ。アンタ、ヒーローだよ。なあ?」
「……はい。本当に、ありがとうございました」
 しゃくりあげながらも、女性は微笑みを浮かべた。中年の男性に肩を叩かれながら、俺はようやっとがちがちと震え始めた。今更に恐怖を感じ、声が出せなくなってしまった。何故かへこへこと頭を下げながら、俺は座席に体をもたれさせた。
「このまま逃げるぞ。いつまたブタゲルゲが動き出すともわからん。ちゃんと掴まってろよ、少年少女」
 キーをまわすと、エンジンが入った。あれだけの攻撃を受けても、なんとか走るだけの力は残っていたらしい。
 ただ、どうやら彼とはヒーロー像が少し違うようだ。まあ、誰にネーミングライツがあるわけでもないから、別にいいんだけどね。
 助け出した女性と二人、ガラス片の散らばる座席に毛布を引いて座り込んだ。周囲の逃げおおせた人たちも逃走を再会したらしく、皆走り出していた。時々、俺たちに向けて親指を突き出す人がいた。
 胸が熱くなる。ヒーローとはきっと、こういうものなのだろう。助け出した対象の数ではなく、乗り越えた危機の大きさでもなく、行動し、完遂することが出来た英雄こそを、ヒーローと言わしめるのだ。……自分のことだから、気恥ずかしいが。
 充足感が心の中に広がっていく。自分のしたことが急に誇らしくなって、顔が自然にほころんでいく。

 俺は今、確かにヒーローだった。

32 :No07 ヒーロー使いの侵略者 4/5 ◇h97CRfGlsw:07/09/30 03:17:48 ID:JUYf/ZEI
『――聞こえますか、聞こえますか。私のヒーローへ、聞こえますか』
 その時、不意に声がした。耳は幾分か麻痺しているはずなのに、妙にはっきりとした声が頭に響いた。歳若い女性の声だ。助け出した女性に呼びかけられたのかと思いそちらに顔を向けるも、女性はくたりと眠りについていた。では?
『私は「コア」です。今現在、地球のとある場所に、私は存在しています。ヒーローへ。世界のヒーローへ。どうか、私に力を貸してください』
 耳を塞いでみても頭に入ってくる声に戸惑いを隠せない。「コア」というと、今頭上で空に鎮座している、光のオブジェだ。あれって正式名称だったのと思う前に、俺は思わず身をかがめて声に聞き入った。
『私は、この地球という惑星が危機にひんしていることを知り、こうしてここへ赴きました。今、世界中で巨大な生物が破壊の限りを尽くしています。ヒーローへ。どうか、私と力をあわせて戦ってください』
 どういうことだ? 「コア」とブタゲルゲ、もといブッタン星人はグルだと思っていたのだが。「コア」は、地球を救いにきた存在だったということなのだろうか。あの光り輝くピラミッドから、神々しさを感じてはいたが。
『力は意思です。強い意志こそが、全ての不可能を可能にします。何かを救いたい、強くなりたい、ヒーローになりたいという意思が、私達の力の源です。世界は大いなる意思で出来ています。どうか意思を。強い意志をもってください。でなければ、これが地球の最後です』
 窓の外で、少しばかり小さく見える怪獣が、先程のおとなしさは何処へやらといった様相でビル群をなぎ倒している。戦えるというのなら、俺は戦いたい。「コア」の言葉を借りるなら、あの時の俺は強い意思をもっていた。力の源は、意思。ならば俺も。
『今こそ、誰かが立たねば、誰かが行かねばならない時です。今この平和を壊してはいけないのです。皆の未来を壊してはいけねいのです。勇気を忘れないで下さい! 優しさを忘れないで下さい! 意思あるところに、力があります!』
 俺の中の何かが燃え始める。これが意思の力なのかと思うより先に、空中を漂う「コア」から、まばゆい光が走った。陽光とは比べ物にはならないほど強く、それでいて包み込むような柔らかな光だった。その光に誘われ、俺は――

 ――数瞬の間。俺は閉じていた目をゆっくりとあける。目の前には、先程までビルをなぎ倒していた怪獣がいる。もはや見上げることはなく、目線はほぼ同じ。いつか夢の中で見た光景。俺は、見紛うことなく巨人となっていた。
 確かに、人を救うことがヒーローの必要条件と考えるならば、俺はヒーローだった。でもやはり、ヒーローとは圧倒的な力を持ち、いつも超然とした存在。いまこそ、俺は。興奮冷めやらぬまま、ファイティングポーズをとる。すぅ、と息をこめ、気合一声。
「シュゴルアトゥタ−ッチ!」
 ずるっ、と思わずこけそうになる。俺は光の巨人のデフォルトを叫んだつもりだったのだが、なにがなんだかよくわからない声になっていた。まさか、と思う。おそるおそる振り返ると、恐れていた光景がそこには広がっていた。
 ……多いよ。
『ヒーロー。ヒーロー。これが意思の力です。強い意思の力です! さあ、ヒーローたち、地球を救ってください!』
 「コア」が上空をゴウンゴウンと飛行している。空が青い。逃避にそんなことを考えつつ、再び周囲を見やる。
 巨人が総勢、この場だけで50人近くいる。俺を筆頭に、ずらーっとATM待ちの行列のようになっている。各々やる気満々なのか、どこかで見たようなポーズでじりじりと怪獣との距離を詰めていく。物凄く頭が痛い。確かに、「ヒーロー」はそこら中にいるだろうけれどさ。
『たとえ力が強くても、一人きりじゃ戦えません。強く未来を求めても、一人きりじゃ届きません。この空と命が溢れる大地を、いつまでも守りたいのなら、戦え! 戦え!』
 「コア」に煽られて、筋肉質なお兄さんが助走をつけてブッタン星人にラリアットをかました。どっがんどっがん地面を陥没させながら走り、引き倒した怪獣がビルを巻き込みまくって転がっていく。誰が怪獣だよこれ……。皆怪獣だよこれ。
 その光景を見てなにか吹っ切れたのか、我も我もと巨人たちが怪獣に向ってゆく。気付けば、先程の中年男性も参加していた。必殺「ウルトラリンチ」の完成である。

33 :No07 ヒーロー使いの侵略者 5/5 ◇h97CRfGlsw:07/09/30 03:18:03 ID:JUYf/ZEI
 よくよく考えれば、はじめから何処か怪しかった。演説が安っぽいのだ。意思の力だとかいって、今思えば子供向けヒーローショーのお姉さんレベルの言葉だった。皆も一緒に戦おーっ、という観客参加型のショーだ、これ。
 ブタゲルゲがぼっこぼこにされている。もはや同情心すら沸いてくる。ブヒブヒ悲鳴をあげながら、怪獣が大量の群れに踏み潰されていく。東京都はもはや、原形を留めていない。
 俺はその光景を遠巻きに見つめながら、俯いていた。そういえば、そろそろ三分だが……。
『お疲れ様です、ヒーロー。私のヒーロー。もう終わりです。後は任せてください』
 「コア」から声が届き、巨人たちが空に顔を向ける。不意に怪獣の体が金色に発光し、ふわりと持ち上がった。そのまま「コア」の許へと向かい、するりと吸い込まれるように消えていった。
 気がつけば、何処から飛んできたのか周囲一体は怪獣っぽいなにかで埋め尽くされていた。それら全てが「コア」におさまってゆく。巨人たちがざわめき始める。おそらくこの調子で、世界中いたるところで俺達のような一団が形成されているのだろう。
『流石です。やっぱり意思の力は流石です。ヒーロー、私のヒーロー。ありがとう、私は救われました』
「どういうことだこれはァ!」
 巨人の一人が声を荒げた。ふよふよとおちょくるように浮遊する「コア」に飛び掛っているが、ぎりぎりで届かない。ああ、また地盤が……。俺は苦笑しつつ、東京ドームに腰をおろした。
『私、嘘ついてないです。ヒーロー。便利なヒーロー。あなたたちは頑張ってくれました。あとはこの、悲しみに覆われた空を壊してください。もう少しです、私のヒーローたち。もう少しで、地球は私のものです』
 「コア」が空高く上ってゆく。とりあえず一時撤退、ということなのだろう。どう考えても、俺たちは何らかの策略にまんまとはまってしまったというわけだ。ものは試しと「コア」に向けて腕でL字を組んでみる。が、なにも出はしなかった。
『バーカ』
 ぼそりと吐き捨てて、「コア」は地球から出て行ってしまった。大きくなったままどう元に戻ればいいのかわからず、巨人たちはパニックに陥っている。爆音で喋り続ける巨人たちを眺めていると、彼方から薄い板のようなものが飛んできた。
 その姿を見て、俺はようやく「コア」の真意が理解できた。どうも俺たちは、ヒーローから一転、侵略者にされてしまったらしい。あの怪獣や、意志の強さだなんだというあれは、全てブラフだったのだ。
 戦闘機からミサイルが放たれる。顔面に直撃を被った巨人の一人が崩れ落ち、完全に動かなくなるとその姿を消した。もとい、元の大きさに戻った。その光景に恐慌した巨人たちが、戦闘機をビルの残骸で叩き落としていく。

 
 人は何故、ヒーローというものに憧れるのだろう。
 ヒーローになりたい? 何故。単純に格好よかったから? 人々の危機に颯爽と現われ、悪との接戦を繰り広げ、打ち倒し、救いをもたらして去ってゆくヒーロー。 
 きっと違う。ヒーローとは、俺たちをどんな危機からも救ってくれる。どんな理不尽からも、救い上げてくれるヒーロー。他力本願を全て受け入れてくれる、圧倒的な存在。無条件で自分に味方してくれる、便利な存在。その安心感から、人はヒーローに憧れる。なりたがる。
 そう考えると、俺たちは確かにヒーローだったのかもしれない。不本意ながらも、あの侵略者にとっては、だが。
 先程助け出した女性の顔が頭に浮かぶ。眼下に広がる東京だった場所の惨状を見れば、助かっていないことは明白だ。俺はあの時、確かにヒーローだった。彼女にとって、ヒーローだった。
 次々と飛来する戦闘機群。羽虫を叩き落とすように戦い続けるほかの「ヒーロー」たちを尻目に、俺はぼんやりと空を見上げる。

 

 俺は、ヒーローの帰りを待つことにした。あの小憎たらしい侵略者も、今の俺にとってはヒーローと呼べるだろう。



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