【 かってな侵略者ゆりえさん 】
◆WnBhr3hfLM




24 :No.06 かってな侵略者ゆりえさん 1/5 ◇WnBhr3hfLM:07/09/30 02:33:52 ID:JUYf/ZEI
侵略者と言われれば、皆さんは何を想像するだろう?
銀色にテカテカ光るロボットや、タコみたいな形をした異星人。
そんなやつらが地球を我がものにせんと襲ってくるような、そんなシチュエーションが思い浮かんでこないだろうか?
そんな非現実的なモノ達の侵略なんて、現実には存在しない。当たり前のことである。
だが、ここ埼玉に侵略者は存在するのだ。それも、我が家限定で……。

月の綺麗な夜だった。あ、いや、時刻は6時30分くらいなんだから、もしかして夕方だろうか?
そろそろ冬が近づいてきましたなーなんて、そんなことを考えながら俺こと高木修司は歩いていた。
目的地は我が家。目的物は今日の朝母が言っていた晩ご飯、焼肉。
「久しぶりの焼肉だなあ。今日は何かいいことあったのかな〜我が母上は」
自然と足取りも速くなる。早く帰らないと待ちきれなくなった妹が肉を生のままで食べ始めるかもしれないしね。
そんなことを考えているうちに、愛しの我が家に到着した。
外にいても肉の焼けるいいにおいが漂ってくる。にぎやかな笑い声も聞こえてくる。
一つの家が明るければ、周りにもそれが伝播していってるのだろうか、お隣さんからもお向かいさんからも笑い声が…って、ちょっと待て!
俺は我が家のお隣さんの家を見る。
笑い声?あそこの家の人は12時くらいにならないと帰って来ないはずだ。その家から笑い声が上がるってことは息子さんか娘さんが帰ってきてるということで…。
嫌な予感が頭をよぎる。俺の頭にはニュータイプが危機を察知するときの「キュピピピン!!」みたいな音が鳴っている。
急いで玄関のドアを開く。
「た、ただいまあ!!」
「あら、お帰りなさい。早かったのねえ」
そんな言葉が返ってくる。しかしその声は俺の母とは違う声だ。
誰の声?決まっている。奴だ!奴が帰ってきたんだ!!
「今日は焼肉ですよ〜」
なんて言いながら、お隣さんの夫妻の娘さん、北条ゆりえが現れた。

25 :No.06 かってな侵略者ゆりえさん 2/5 ◇WnBhr3hfLM:07/09/30 02:34:08 ID:JUYf/ZEI
北条ゆりえ。
隣の家のお嬢さんにして我が家の侵略者(俺目線)
ここで母上フィルターや妹フィルターがかかると「我が家の長女のような人」に変換されてしまう美人で素敵なお嬢さんだ。
そもそもの始まりは我が家の屋根が接するほど近くに隣の家があったことだ。
隣の家の二階の窓から屋根をつたって俺の家に入れるとゆりえさんが気づき、当時小5の俺の部屋に何度も侵入してきたのだ。
屋根をつたい毎日のようにやってくるゆりえさんはいつの間にか俺の部屋に自分の私物を置くようになり、さらにはご飯までも食べていくようになってしまった。
これを侵略者と言わず、なんと言おう。
「いや〜修司くん久しぶりだね〜。由香ちゃんもママさんも〜」
「そうねえ。1ヶ月前に来てからそれっきり来なくなっちゃったでしょう?寂しかったわぁ」
「あはははは。そろそろ大学の単位の単位がやばくなってたので仕方なかったんですよ〜。でも何とか帰ってこれまして」
「2日前に、今日ゆりえちゃんが帰ってくるってメールが届いたから、張り切って焼肉にしちゃったわ」
「ありがとうございます〜」
そんなことを言いながら笑い会っている母上とゆりえさん。妹はばくばく肉を食っている。
「って!何で俺を差し置いて食い始めちゃってんの!?何であんたは俺の箸と茶碗使ってんの!?」
……当時の俺は特には気にしていなかった。
しかし思春期になり、18歳様オンリーの大人でいや〜んな雑誌を見るようになってからは邪魔者以外の何者でもない。
ベッドの下に隠してもタンスの下に隠しても参考書のカバーをかけてみても確実に発見してしまうゆりえお姉様は発見するたびに母に報告してしまう。
部屋にはいると昨日必死で隠した大人でいや〜んな雑誌数十冊を読みふけっていたこともある。
俺は泣いた。泣いて両親に何とか部屋を変えてもらうように懇願した。
無理だった。
窓に鍵を閉めてもガムテープを貼っても侵入してくるゆりえさんなのだった。
「え〜、いいじゃん久しぶりなんだし〜」
「久しぶりだからって使う必要ないよね!!」
「あなたの唇は奪っちまったぜ。間接的にね」
「格好いいっぽい感じで言ってもごまかされないぞ!それより俺はどうやって焼き肉を食べればいいんだ!!」

26 :No.06 かってな侵略者ゆりえさん 3/5 ◇WnBhr3hfLM:07/09/30 02:34:25 ID:JUYf/ZEI
もういい。ゆりえさんが飯を(俺の箸と茶碗で)食ってるのはいいとしよう。疲れるだけだから……。
「……はい、兄貴」
と言いながら肉をばくばく食っていた妹は皿を俺に渡す。
「ああ、さんきゅうです。由香」
どうでもいいが何故に妹の手は震えているのだろうか。
俺が皿を受け取った瞬間、妹は怯えたようにさっと手を(体ごとである)引いた。
心なしか顔色が悪いような気がする。
「どうした由…」
「来ないでぇ!!!」
近寄ろうとしたら由香が叫び声をあげた。俺フリーズ。妹は走って二階に続く階段を上っていってしまった。
Why?
「ああそうそう〜。修司君ったら、またこんなもの買っちゃって」
そう言いながらゆりあさんは本を取り出し…ってそれは!!
「本当の妹がいるのにこんなのおもしろいの〜?えっと…『妹陵じょ……」
「ストオオオオオップウウウ!!!!」
魂の咆吼。そしてその漫画を奪い取る俺。その間0.1秒。
「見せたの?見せちゃったの!?由香にこれをおおおおおお!!!!!」
「うん。自分のお兄ちゃんを知るいい機会だと思って〜」
「これじゃなくてもいいでしょう!!コスプレとか女教師とかSMとかいろいろあったでしょう!!」
「だってなんだもんお兄ちゃん」
「あんたがお兄ちゃんっていうな!俺の秘密の日記とか自作ポエムとかでもいいじゃん!!俺を辱めるんなら!!!」
もうだめだ。もう終わった。最近無防備にも風呂上がりの下着姿で牛乳を飲んでいる妹もみれなくなってしまうのか。
「妹萌えなのね、おにいたん!」
「……はい。そうです。でも!リアルじゃないの!二次元がファンタジーなの!!」
「本当の妹には何一つやましいことを感じでないと?」
「Yes!Iam!!」
「本当に?」
「うっ……。えと、ちょっとだけなら……」
「由香ちゃ〜ん。お兄ちゃんはねえ〜」
「やめてえええええええええええぇぇぇぇぇ……」

27 :No.06 かってな侵略者ゆりえさん 4/5 ◇WnBhr3hfLM:07/09/30 02:34:41 ID:JUYf/ZEI
なんだかんだで夜の11時30分40秒になった。
あれから俺はこっぴどく母上に叱られ、ゆりえさんを無理矢理家に帰した。
妹の誤解を解こうとして二階に上がり、妹の部屋から聞こえてくる何かを突き刺す音にびびって自分の部屋に隠れエロ本を窓の外にぶん投げた。以上回想修了。
「やれやれ……」
椅子に座ってため息を一つ。まったくゆりえさんめ、よけいなことをしてくださりやがって。
「でも……」
ゆりえさんが来るようになって、我が家は明るくなった。
俺の家に父はいない。俺が小さな頃に交通事故で死んでしまった。
母はここまで俺たちを育ててきてくれたけど、強い人ではなかった。
辛かったはずだし、苦しかったはずだ。
俺たちの世話、仕事で、母はどんどん暗くなっていった。我が家もどんどん暗くなっていった。
しかし、北条さんがいつも俺たちを気遣ってくれたり、ゆりあさんが色々と手伝ったり(よけいなことまで)盛り上げてくれたおかげで、我が家はこんなにも明るくなった。
「……でも何でなんだろう」
しかし疑問が残る。どうしてゆりあさんはあんなにも母を手伝ってくれたのだろう。
「それはだね〜」
「うわあああぁぁぁ!!」
俺の窓からボワッと(ボワッと)風呂上がりゆりえ姉さん登場!!
「なんで出てくるんだよ!!ていうか何で俺の思っていることが!!」
「だって口に出てたじゃないの〜」
あらそうなの?
「それはそうとそれはそうで、なんで手伝ったりしたのかというと〜」
「はあ」
ゆりえさんはビシッと俺を指さし、
「この家を私の別荘にしようと思ったからなの!!」
「……はい?」
「だから、別荘」
「なんじゃそらああああ!!あなた本当に侵略者だったのね!?俺の家を手に入れるつもりだったのね!?」
「まあね〜。まあ、欲しかったのはそれだけじゃないけどね〜。そっちが本命かな?本当は」

28 :No.06 かってな侵略者ゆりえさん 5/5 ◇WnBhr3hfLM:07/09/30 02:34:59 ID:JUYf/ZEI
そういいながらゆっくり目をつぶるゆりえさん。
何かを思い出しているかのように少し笑っている。
「で、何ですか?結局」
「まあ、恋する乙女には野望が多いってことなのよ!それだけは覚えてなさいよ〜」
「はあ、意味わかんねえすけどね……」
「じゃあまた明日〜」
「明日?」
「明日」
「はいはい。また明日」
そう言いながら我が家を狙う侵略者は帰っていくのだった。やれやれ。
俺はベッドに倒れ込んだ。
うん?何で、枕が二つ……。
「グッドイブに〜ん」
俺の窓からボワッと(ボワッと)寝間着のゆりえ姉さん登場!!
「ってなんで?また明日じゃなかったの!?」
「明日じゃない〜。ほら」
ゆりえさんが指を示した方向には俺の部屋の時計(ゆりえさんの私物)がある。
現在時刻12時2分30秒。
「ええええええええっ!!!!?」
「それじゃあ、おやすみなさ〜い」
俺のベッドに倒れて布団に潜り込む侵略者。

そんなわけで、我が家はどんどんゆりえさんに(主に俺の生活が)侵略されていっています。
我が家に巣くう侵略者は、銀色にテカテカ光るロボットや、タコみたいな形をした異星人よりもたちがわるいです。
誰か助けて。





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