【 うつつ 】
◆HETA.5zwQA




24 :No.06 うつつ 1/4 ◇HETA.5zwQA:07/09/24 01:26:21 ID:SCEDXoXb
 夢の中で、ふっと「これは夢だ」と気づくことがある。いわゆる明晰夢という
やつだ。俺がその時見ていたのも、正にそれだった。
「ってことで、好き勝手やるぞー!」
 世界の神となった俺は、その辺の女達を押し倒した。
「だめっ、車が! 車が入ってくるっ!」
「見られてる ウァレリアヌスに見られてる!」
「鯛! 鯛がーっ!」
 駄目だ、何がなんだか、さっぱり分からん。つか、あまりに理解不能な光景が
広がっていて、表現すらできなくなってしまっている。
「まあ、お前の夢の中だからな」
「突然現れて、もっともらしいこと言いはじめるな。脇役B!」
 真っ黒い服を着ていて怪しさMAXな脇役Bは、無視しておこう。今は欲望の
開放が大事だ。意を決して、モザイク満載の光景の中に飛び込む。
「中型トラックがああっ!」
「目玉親父、凄いぃ!」
「い、イサキーっ!」
 駄目だ、既に異空間になってしまっていて、弾き返されてしまった。このまま
じゃ性欲を持て余す。
「やっぱり大人は駄目だな、子供がいい。俺と考え方が近いし」
「人として駄目過ぎて、どこから突っ込んでいいのか悩む発言だ」
 その声を無視して、学校へ向かう。自他共に認めるロリコンとして、選択肢は
小学校しか存在していない。
 あどけない顔と、それに反して女として成長し始めた身体。そして、それを
引き立てる地味な体操服(紺ブルマ、裾は中入れ)。
 そういった女の子が沢山いる場所なの――だが。

25 :No.06 うつつ 2/4 ◇HETA.5zwQA:07/09/24 01:26:35 ID:SCEDXoXb
「どういう事だよ、これ」
 夢の中とはいえ、間違いなく小学校があったはずの場所。だが、そこには
鋼鉄で出来ていると思われる、高さ十メートルほどの壁があり。更に上部に
設置されている無数の銃口が、俺を指向していた。
「うーん、よく分からないけど理性の壁じゃないかな? いくら夢の中とは云え、
君が望んでいる行動はタブーなわけで、それを防ごうとする理性が具現化した
ものじゃないかと」
 なるほど、そういうことか。脇役Bの癖になかなか便利だ。後で、可愛い子の
縦笛をあげよう。
「ま、そういうことなら話は簡単だな、理性を壊し──へっくし!」
 フルネームで呼びたくなる芸人を思わせるようなクシャミ。その衝撃で、
理性の壁は地響きのような音を立てつつ崩壊した。
「さすが俺の理性。違法建築の様な脆さだ」
「現実では、もう少し理性が働くことを期待している」
 いらん心配は置いておいて、小躍りをしながら小学校へと進入すると、そこ
には正に、俺が思い描いていた通りの光景があった。
 女児! 女児! 女児! 女児! 女児! 女児!
 一面に広がる可愛い女の子。それらが、ワイワイと校庭で戯れていた。
「まるで、夢のようだ……」
「いや、そのまんま夢だから」
 では早速ですが、片っ端から襲いかかることにします。
「教卓っ。先生の教卓が凄いっ!」
「キツネうどんの汁が出ちゃう!」
「こ、ここはトイレです」
 またこのパターンかよ。

26 :No.06 うつつ 3/4 ◇HETA.5zwQA:07/09/24 01:27:53 ID:SCEDXoXb
「手当たり次第に、欲望を発しようとするから、制御できなくて訳が分からなく
なるのだろう、一人に集中してみたらどうだい?」
 脇役Bがしたり顔で言ってきた。まあ、そういうこともあるのかもしれない。
なら、自分の欲望を全て込めた一人を登場させよう。
「小学五年、身長百五十一センチ、体重四十一キロ、クラスメイトより若干
遅れて育ち始めた胸を気にしている血の繋がっていない、ツンデレの妹!」
 理想の子を精一杯の声で叫んでみた。
 ──その願い叶えてやろう。
「おぉ!」
 どっかで聞いたことのある声と同時に、目の前にボワンと煙が出現。それが
晴れると果たしてそこには……。
「お兄ちゃん!? なんで、学校に来るのっ!? 恥ずかしいから来ないで
って言ってたでしょ」
「よっしゃ! 百点満点!」
 活発そうなツインテールの髪に、体操服(勿論、紺ブルマ中いれ)の可愛い
妹だった。食べたらエビの様な味がするに違いない。
「な、なんで泣いてるの?」
「いや、あまりに嬉しくてな」
 ともあれ、こんな旨そうな妹を頂かない手はない。
「その目、すっごく怖いんだけど……」
 ふっふっふ、冷や汗を垂らしながら後ずさりしても、もう遅い! お前は――。
 ズキンと、突然脳天を硬い物で叩かれたような激しい頭痛が走った。
 激しいその傷みに耐えきれず、頭を抑えてその場に蹲る。
「ばいばい、お兄ちゃん」
 そんな声を掛けられて顔を上げてみると、既に周りの景色は真っ白くなって
いて、唯一形の残っている妹の姿も、透け始めていた。
 俺は必死に、妹を掴もうとして――だけど、その手はその身体をすり抜けた。
 夢から……覚める。

27 :No.06 うつつ 4/4 ◇HETA.5zwQA:07/09/24 01:28:07 ID:SCEDXoXb
 頭痛による目覚めは最悪だ。幸せの残滓などなく、そこにあるのはただの
不快感だ。
 それにしても、変な夢を見たものだ――そんな風に考えながら、ポケットから
妹の写真を取り出した。
 小学校の運動会で一等を取り、誇らしそうにしている妹の写真。
「久しぶりに、昔のお前が出てくる夢を見たよ」
 もう写真でしか見のこと出来ないその姿に、声をかけた。涙が出てくるのは
なんの所為だろうか?
「なあ、二つ言いたい事があるんだが、いいか?」
 感傷に浸っていると、そんな無粋な声をかけてくる奴がいた。ただの級友Cだ。
「一つ、自分の妹を死んだ奴みたいに語りかけるのは、やめろ。普通に元気で
さっきも会ってたじゃないか」
「ブルマ姿の妹には、もう逢えないのだ」
「妹さん、すげー迷惑そうにしてたぞ。――もう一つ、今は授業中だからな」
 その言葉に嫌な感じのする横の方を向いてみると、我がクラスの担任教師が、
血管を浮き上がらせてお怒りの模様でした。
 その手には、竹刀。これで頭を叩かれたから痛かったのか。
「廊下で立ってます」
「お前は廊下に立たせると、そのまま家に帰るから駄目だ! って、だから鞄を
もっていくな!」
 精神年齢も恋愛対象も常に子供な俺は、背中にそんな声を受けつつ、颯爽と
教室を後にした。



BACK−ターミナル◆QIrxf/4SJM  |  INDEXへ  |  NEXT−犬は我が家に帰る◆kP2iJ1lvqM