【 キッドナップ 】
◆JJyhEXv6NA




7 :No.02 キッドナップ 1/5 ◇JJyhEXv6NA:07/09/24 01:13:44 ID:SCEDXoXb
 お昼下がり、簡単な昼食を済ませ、食器の洗い物をしている最中。
 けたたましく電話のベルが鳴り響いた。
「ハイハイ、今行きますよ」
 エプロンで手を拭きながら誰に言うでも無しに、しつこくコールを鳴らす電話に返事をした。
 五月蝿くがなりたてる電話機を黙らせる。
「もしもし?」
 出し抜けに「お宅の娘は預かった」こんなベタな台詞を言われた。

 ハイィ?……誘拐? お嬢が? そんな馬鹿な。
 相手は俺の返事を待たずに要求を重ねる。
「今すぐ家を出ろ。近くに図書館があるだろう、まずそこに行け。次の指示はそこでする。
 警察に連絡すれば娘の命は無いと思え」
 そう要求だけ捲くし立てると、通話を一方的に切られた。
「ツーツー」と電子音だけがむなしく部屋に響く。
 俺は「まさかな」と思いながらも、半ドンなのに帰りが遅いお嬢に一抹の不安を覚えた。

 お嬢は携帯を持っているが壊れている。乱暴に扱いしょっちゅう壊すからだ。
 しょうがないので俺はまず学校に連絡を入れた。返事は「もう一時間前に帰った」だった。
 ほかにお嬢の行きそうな所に片っ端に電話を掛けてみた。
 友人宅、甘味処、駄菓子屋、おもちゃ屋、本屋。しかし返って来た答えは「女の子は居ない」
 
 俺は取る物も取り敢えず走った。取り合えず何時もの公園へ。
 公園を探し回ったが、お嬢の姿は見当たらない。
 これは本格的にヤバイかも。背筋に百足が走り回るような嫌な悪寒が走り。
知らず全身が冷や汗に濡れていた。
 俺は足を速め急ぎ指定された場所に向かう事にした。

***

8 :No.02 キッドナップ 2/5 ◇JJyhEXv6NA:07/09/24 01:14:13 ID:SCEDXoXb
 私はイライラしていた。
 学校からの帰り道、車に乗った見知らぬ二人に声を掛けられた。
「絢子さんですか?」
 いきなり名前を呼ばれて少し不審に思ったが、私は愛想よく笑顔で返事を返した。
「はい、そうですが。何か御用ですか?」

 全身黒尽くめで口髭を生やしサングラスをかけた男は、沈痛な面持ちで私にこう告げた。
「絢子さん、驚かないでください。貴方のご家族が車に轢かれて怪我をなされたました。
今病院で治療を受けています」

 私は一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻した。
 あの唐変木が交通事故なんて下手を打つとは、とても思えなかったからだ。
だからピンと来た。
(ははーん、さてはコイツ等誘拐目的か? 又ベタで古典的手段だな。
車に連れ込んでかどわかそうと言う魂胆か、さて、どうやってかわそうかな)
と少し考え込んでいると男が言葉を続けた。

「すいませんが、私はこれから急用が有りますので、車でお送りする事は出来ません。
住所を書いた紙をお渡しするので、早く病院に向かってください」
 そう男は静かに告げると、挨拶もそこそこに車を出して走り去って行った。

 私は男から渡された紙を握り締め、呆然と立ち尽くしていた。
「えッ? 本当……交通事故……? 嘘……」
 私の頭の中は真っ白に染まって、何も考える事が出来無い。
 そんな私を置いてきぼりにして、私の両足は病院に向かって自然と駆け出していた。

 ***

9 :No.02 キッドナップ 3/5 ◇JJyhEXv6NA:07/09/24 01:14:33 ID:SCEDXoXb
 病院の玄関の自動ドアが開く時間ももどかしく。私はその場で足踏みをした。
「早くッ、早く〜!」
 病院の受付目掛けて駆け出す。私は受付の看護師に食いつくようにして質問を投げ掛けた。
「こ、こここ、ここに交通事故で真清って人が担ぎこまれませんでしたかッ!?
 背が高くて、短い髪して締まりの無い顔した人なんですけどッ!!」

 そう一気に捲くし立ててると、私は一息ついて、荒い呼吸を落ち着かせた。
 看護師さんはちょっと面食らったようだが、直ぐに交通事故での急患を調べてくれた。
 しばらく待っていると看護師さんが、沈痛な面持ちで受付室から出て来た。
 私は嫌な予感を拭えず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「今日は交通事故で運ばれた人はいないわねぇ? 病院を間違っていないかな?」
 私は驚き、男から貰った紙を看護師に手渡した。
「変ねぇ、この病院であってるわぁ。ここらの急患はこの病院に送られる筈だし。
 取り合えずお家に電話してみたらどうかしらぁ?」

 私は返事もせずに電話機に向かって駆け出し、ボックスの扉を乱暴に開け受話器を手に取った。
 しかし何度コールを鳴らしても、家に電話は繋がらない。
 携帯に掛けようにも私の携帯は壊れていて、電話番号が分からない。

「だーッ!! 怪我したならしたッ! 無事なら無事でハッキリしろーッ!!」
 私は電話ボックスの中で叫び、携帯を地面に叩きつけて哀れなジャンクに止めを刺した。

 ***

 私はイライラしていた。
 探すあても無いので一旦家に帰ることにした。
 とぼとぼと重くなった足を引きずり、やっと我が家の前に着くと
 一台の見慣れない車が家の前に止まっていた。
……あの車は確か、昼間の二人組みの車……
 私は駆け出すと玄関を叩き開け、靴も脱がずに玄関から居間に向け走る。

10 :No.02 キッドナップ 4/5 ◇JJyhEXv6NA:07/09/24 01:14:51 ID:SCEDXoXb
(真清ッ! 真清ッ! 真清ッ! お願い無事でッ!)
「真清は無事かーーーッ!!」
 居間のドアを力の限り叩き開けると、そこには黒尽くめの二人組みの男が部屋を物色していた。
 男二人は、きょとんとした顔で私を見ている。その二人を見て私は直感ですべてを理解した。
(コイツ等泥棒だ……こんな手の込んだ真似をして……許す、まじッ!!)

 男達はなにやらボソボソと相談している。
「お前がもたもたしてるからお嬢ちゃんが帰って来ちまったろ」
「ひでぇ!? 金目の物が無いから帰ろうって言ったじゃないですか!」

「手ぶらで帰れるかよ。まあ、なんにしてもお嬢ちゃんには大人しくして貰うしかないか」
 兄貴分らしき男が立ち上がると、私に向かって手を伸ばして来た。
 男の手が私の左肩を掴む。
「――――触るな……! 触るなって言ってるだろッ!! この馬鹿ぁあぁあぁぁぁ!!」
 私の左肩を掴む泥棒の右手を体を回転させて振る払う。そのままグルリと一回転して、
右の拳を泥棒の“首”目掛けて叩き込んだ。これ以上ない手応えが右手に返って来る。
 拳の皮膚が裂け血が滲む。泥棒は首を押さえて喚き声を上げ、床をのたうち回っていた。

 怒りに景色が赤く染まる、今はただこの激情に身を任せて、自分の中の原始の炎に触れてみる。
 私は両腕を振り上げ、腰を落として、コイツラの解体ノ準備をトッタ。

「――――シなない様に、タップリコロシテアゲル――――」

 ***
 
 俺は焦燥しきって、家路を辿っていた。
 あの後二時間ほど指定された場所で待っていたが、結局誘拐犯は姿を見せなかった。
 何度も家に電話を掛けたが誰も出ることは無かった。
 「警察に、連絡しないと……」
 そう一人ごちた、ふと家を見ると見慣れない一台の車が。俺は不審に思い玄関まで駆け寄った。

11 :No.02 キッドナップ 5/5 ◇JJyhEXv6NA:07/09/24 01:15:13 ID:SCEDXoXb
 玄関のノブに手を掛ける、鍵が開いてる。不審は確信に変わった。
 俺はドアに耳を当て聞き耳を立てる。家の中では、お嬢の叫び声が聞こえた。
 俺は玄関を壊れんばかりに開け開き、声のする居間に向かって全力で走った。
「お嬢ッ!! 無事かーーーッ!!」

 居間を見渡すとお嬢がTVの前に座って、興奮して声を張り上げていた。
 床には呻き声を上げる男が二人、縛られ転がっていた。
……部屋の惨状を見ると大体の事情の察しはついた。
 おそらくこの哀れな二人組は、俺達二人を家から引き離したその隙に、泥棒に入るつもりだったんだろう。
 そこで運悪く、お嬢に鉢合わせたと……ご愁傷様。

 お嬢は俺の声に反応しこちらに気が付くと、破顔して真っ直ぐ駆け寄って飛びついて来た。
「真清ッ! 無事だったか!!」
 さっきまで笑顔を見せてたが今は涙で顔を濡らしている。
 お嬢が俺を強く抱き締め、叫ぶように心情を吐露する。
「恐かったッ!! お前がいなくなると思っただけで、私は……私は……」
 俺は気の利いた言葉など思い付かず、お嬢の頭をただやさしく撫でた。
 途端その手はお嬢に振り払われた。
 眉を顰め真っ直ぐに俺の瞳を見詰めて睨んでいる。
「子供扱いするなッ! 大体お前がウロウロして何時までも帰って来ないから!
心配ばかりかけてッ!! 馬鹿ッ! 馬鹿ーーーーッ!!」

 確かに俺は間抜けにも口車に乗せられ、二時間も待ちぼうけただけ。
冷静に考えてみれば、警察に連絡するべきだったかも知れない。
「ごめんな……親は無くても子は育つか……」
 そう独り言の様に呟いて。泣きじゃくる立派なレディを抱き締め、頭をやさしく撫でた。
「子供扱いするなって言ったろッ!!」

 殴られた……「親の心子知らず」   終り



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