【 きんいろ 】
◆K0pP32gnP6




101 :時間外No.01 きんいろ 1/3 ◇K0pP32gnP6:07/09/17 03:07:46 ID:yHl/CBbG
 空には帝国軍の最新鋭の航空機が飛び回っている。
 それほど高い位置を飛んでいるわけでもないのに、排気音は全く聞こえない。無音の威圧感。
 半ば廃墟となっているビルの一室。その窓から、俺と大城は航空機の姿を眺めていた。
「どうして、また東京に攻め込んで来やがるんだよ?!」
 大城は油にまみれた軍手を床に叩き付ける。
 そして、グレーの作業着のポケットから新品の軍手を取り出す。
「なんだ、帝国軍に苛立っているのかと思ったら、手袋換えようしただけか」
「両方だ! 村上、お前は何でそういつも冷静にしていられるんだよ?」
 確かに、俺の外見だけ見れば冷静沈着人間に見えるかもしれない。白衣だし。眼鏡だし。
 しかし、こんな状況で冷静でいられる訳がない。指先だって微妙に震えているんだぞ?
「冷静でいられるワケないだろう? 嫌でも二十年前の、あの戦争を思い出す」

 そう、二十年前。
 札幌、東京、大阪、神奈川を除く日本は帝国に三日で制圧された。
 圧倒的武力によって、だ。
 侵略の一年前に大陸にクーデタによって興ったような国に日本を奪われるとは、日本の国民……
いや、世界の誰も予想していなかっただろう。
 かくして、飛び地的に残った四個所の日本内三箇所も最初の侵略から三年以内に吸収された。
 唯一残った東京も、旧秋葉原周辺が残っただけ。
 この地が残ったのは帝国軍の上層部にアニオタがいたから、とかいう噂もあるが、実際はそんな
笑い話ではなく、住民による血生臭いゲリラ戦のおかげだ。

102 :時間外No.01 きんいろ 2/3 ◇K0pP32gnP6:07/09/17 03:08:18 ID:yHl/CBbG
 窓の外を見上げると、いつの間にか航空機の姿は見えなくなっていた。
「そうだよ、な。悪い」
 ひげ面に似合わない、申し訳なさそうな表情の大城。
「いや、いいんだ」
 不意に、白衣のポケットの中の無線機に通信が入った。
 大城の無線機にも同時に通信が入ったらしく、腰のベルトぶら下げられた無線機を耳元に運んだ。
『村上さん、大城さん。旧両国、水道橋方向に地上部隊を捕捉しました』
 通信員の声は微妙に震えていた。無理もないだろう。
「東西から挟み撃ち、というわけか」
 真剣な表情で大城は呟いた。
「そして、頭上にも敵がいる」
 眼鏡のを指で押し上げながら、冷静を装って言った。
「三方向からだろうが関係ねぇ! やってやろうじゃねぇか! 行くぞ!」
 俺は無言で頷き、ビルの階段を駆け下りる大城の後を追った。

 旧秋葉原駅の地下。
 様々な色の作業着を着た連中が忙しそうに動き回っていた。
 地下とは思えない巨大な空間で『それ』は建造されていた。
 建造開始から十年。『それ』はすでに半年前に完成しており、第三次起動テストまで終了済み。
「まさに今日の為に、こいつを完成させたようなもんだ」
 目を細めながら、『それ』を見つめて大城は言った。
「そして、これにお前が乗る。大丈夫だろうな?」
「やってみるさ!」
 俺が普段より若々しい口調で言うと、周りにいた作業班の一部から笑い声が起こった。
「よし、今日こそ日本再建の日だ! 佐伯、頼んだぞ!」
 再び無言で頷くと、俺は金色の機体に乗り込んだ。

103 :時間外No.01 きんいろ 3/3 ◇K0pP32gnP6:07/09/17 03:08:57 ID:yHl/CBbG
                   ◇

 佐伯さんがあの機体で出撃してから三時間後、信じられない速さで帝国軍を壊滅させていった。
 もちろん、その中には二十年前まで日本人だった人々も含まれているわけで、大城さんが無線で、
「おい! その中には昔の日本人もいるかも知れないんだぞ!」
 と呼びかけても、
『今日の都合で魂を売った人々の決定などは、明日にも崩れるものさ』
 わけが分からない返答だ。大城さんも苦笑を浮かべている。 
 ふと、俺は今佐伯さんが言ったセリフが何なのかを思い出した。
「シャア……ですかね?」
「たぶん、そうだろうな」
 大城さんは無線機を手に取り、静かに言った。
「シャアごっこはいいから。早く終わらせて」
『まだだ! まだ終わらんよ!』
                                終わり



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