【 英雄伝主婦之巻 】
◆h1QmXsCTME




93 :No.22 英雄伝主婦之巻 1/4 ◇h1QmXsCTME:07/09/16 23:57:13 ID:HX80xRwl
 時は平成日本。今日までこの国には数々の英雄達が登場してきた。しかし、
今回はそんな英雄達とは種を異にする主婦達の、熱く激しい戦いの物語。
 午後4時。U市中央に位置する「スーパー純好(すみよし)」は食材の品
定めをする主婦達で賑わっていた。
「えーどうもこんにちは。今回も実況を勤めさせてもらいますのは私佐藤で
す。今日の解説はお馴染み『スーパー純好』店長の純上純好さんです」
「よろしくお願いします」
「いやー純好さん。今回も週に一度のタイムセールの時間がやってきましたね!」
「はい。今回の戦いもかなり期待できそうですよ」
スーパー純好では毎週土曜日の午後4時10分からタイムセールを行うので
ある。その破格の値段の食材を求め、毎回主婦達による激しい争奪戦が繰り
広げられるのだ。
「実況は店内を一望できるこの特別実況室からお送りします。そして店内の
様子は15個の監視カメラで隈無くチェックできます」
 「それでは今回の顔ぶれを確認してみましょう。ああっとやはり居ました。
金剛仁王こと俵登美子40歳!」
俵登美子は主婦歴10年。その身長174センチメートル。身長もさること
ながら特筆すべきはその剛腕。群がる主婦を物ともせずに掻き分け目標を奪
取する姿は正に金剛仁王像そのものなのである。
「今回もそのパワーファイトに期待が集まります。そして……お!カモシカ
主婦、西園紀子です!」
西園紀子37歳、主婦歴8年。カモシカたる所以はその脚力。陸上競技で鍛
え上げたその足での目標到達スピードはこの地域の主婦では及ぶ者なし。ま
た、強靱な足腰の粘りは密集地帯でもポジションをキープできるのだ。
「タイムセールの女神こと坂下美咲の姿も見えますね。いやー彼女はいつ見
ても綺麗ですね純好さん!」
「心が癒されますね」

94 :No.22 英雄伝主婦之巻 2/4 ◇h1QmXsCTME:07/09/16 23:57:43 ID:HX80xRwl
坂下美咲28歳、主婦歴3年。彼女の特徴は水泳によって鍛えられたそのスレ
ンダーな体と、生まれ持った美貌だけではない。その美貌の下に秘めたるは
掴んだら離さないベテラン主婦顔負けの根性。そしてこの熾烈な争奪戦を勝
ち抜く秘技を身に付けているのだ。
「そして今回も参戦、誰が呼んだかミセスタイムセール、神代圭子だ!」
神代圭子44歳、主婦歴14年。ベテランの経験と綿密な作戦で標的を確保
するタイムセールのプロフェッショナルなのだ。
「おや?どうやら8歳になる三男を連れてきているようですが?これはどう
いう事なんでしょうか純好さん」
「手の掛かるお子さんは足手纏いになりかねませんからね。付いて行きたい
というお子さんをどうしても断り切れなかったのかも知れませんね」
 「なるほど。今回はややハンデを背負ってしまった形になりましたね。さ
あ、あと1分少々でタイムセール開始となります。まずはどこのゲートから
格安食材が現れるのか!?」
スーパー純好には食品を運ぶための5つの出入り口が設けられている。タイ
ムセールの品はその出入り口から陳列台に乗せられて出てくる。そして店員
がゲート番号と食材、値段を備え付けのマイクで放送し、それが開戦の合図
となるのだ。
 「主婦達がゲートからの距離が均等な中央付近に寄り始めました。……いま
10分です!」
独特な抑揚の付いた放送が入った。
「3番ゲートでただいまよりタイムセールを行います。本日一品目、なす!な
すが一袋八割引……」
主婦達が先陣争いさながら一斉に3番ゲートへ走り出す。
「さあ始まりました!一品目はなす!なすです!3番ゲートカメラを見てみましょう。」
先陣争いに勝ったのはカモシカの西園。悠々となすを2袋かごに入れている。
「ああっと!若干到着の遅れた金剛仁王の俵、本領発揮です!群がる主婦を
者ともしません!そして……掴みました!2袋掴んでいます!遅れを取り戻すこの剛腕!」
「いやーさすがですね。腕っ節の強さはタイムセールで勝利を掴む要素の1つですからね」

95 :No.22 英雄伝主婦之巻 3/4 ◇h1QmXsCTME:07/09/16 23:59:17 ID:HX80xRwl
 「ただいまより1番ゲートで夏国ホンシメジ!夏国ホンシメジが1パック50円!」
第2戦の開始合図が放送された。ここでも西園がトップに立つかと思われた。
ところが、駆けていく途中で不幸にも躓いて転んでしまったのだ! 
「西園転倒!それを後目に主婦達が駆け抜ける!」
「これは痛恨のミスですね」
彼女はなんとか1番ゲートに着いたが時すでに遅し。シメジは売り切れてしまった。
 第3戦。今度は4番ゲートでの豆腐1丁10円。4番ゲートは1番ゲートの
反対側に位置する。
「第3戦は4番ゲートです!さあ西園リベンジなるか!?おや?プロフェッサー神代、
やや遠回りでゲートへ向かっていますが?」
その時、快調に見えた西園達の前に商品補充のためのリヤカーが3台現れた。
「ああっと邪魔をされて前へ進めない!さすが神代!これを読んでいたのか!」
「商品補充のタイミングを知り尽くしていますね。さすがです」
神代はこの戦い、見事に先陣を取った。遅れてやってきた主婦達が群がる。
女神坂下が群れの一番外にいた。その時、坂下の目が光った!
「おおっと出ました!坂下得意のクロールだ!主婦の波を掻き分け見事に進んでいく!」
「いやーすばらしいテクニックですね。主婦達の僅かな隙間に腕と肩を入れ、まる
で泳いでいるかのようです」
 数々の名勝負が繰り広げられ、残すところは後2戦。
「ただいまより2番ゲートでイカ、イカが八割引……」
主婦達の勢いは後半戦になっても衰えない。2番ゲートに殺到する。争奪戦が繰り
広げられているその時、放送が入った!
「ただいまより5番ゲートで本日最後のセール商品、和牛肉が通常より7割引!
先着10名様まで!」
主婦達に衝撃が走る!
「なんと言うことだー!イカのセールが終わっていないと言うのに本日の目玉登場!
どういう事なんですか純好さん!?」
「いや−おもしろいでしょ?……おや?子どもが居ますね?あ!あの子どもは!」
なんと4番ゲートにいたのは神代の子ども! 和牛肉を手に取ったのだ! 後方から
は主婦達の床を踏みならす音が響いてきている。

96 :No.22 英雄伝主婦之巻 4/4 ◇h1QmXsCTME:07/09/17 00:00:15 ID:hDtjyzaG
 「なんと言うことでしょう!神代、完全にこの目玉商品の存在、タイミングを知っ
ていた!」
「そのための子ども同伴だったんですか……。いやーさすがミセスタイムセールと言
うところでしょうか。その情報網には舌を巻くばかりです」
「やはり最後は神代!今回もいい戦いが見られましたね。純好さん、今回も解説あり
がとうございました。実況は佐藤がお送りしました。それではまた次回!」
 こうして主婦達の戦いは幕を閉じた。      了



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