【 敗者は勝者にジュースをおごる 】
◆VXDElOORQI




90 :No.21 敗者は勝者にジュースをおごる 1/3 ◇VXDElOORQI:07/09/16 23:49:42 ID:HX80xRwl
「んふふ。今日に限ってはカナちゃんとも敵同士だからね!」
「のぞむところよ!」
 今日は待ちにまった運動会。朝、会うなりミーちゃんは私に宣戦布告をしてきた。
 私は白組。ミーちゃんは赤組。私だって負ける気なんかさらさらない。いつも一緒にいるミーちゃ
んにだって負けたくない。負けたら、どんなこと言われるかわかったもんじゃないもん。
『敗者は勝者にジュースをおごれー!』とかわけのわからないこと言ってくるに決まってる。
 だから絶対に勝つ。色々ウザイから。

 入場門に赤組白組に分かれて整列し終えたとこで、入場パレードの音楽が流れてくる。
 何回経験しても、なぜか緊張して手に汗が滲む。ただ歩くだけなのになんでこんなに緊張するんだ
ろう。いつも隣にいるミーちゃんがいないせいだろうか。ついミーちゃんの姿を探してしまう。
 あ……いた。
 ミーちゃんは赤組の列の先頭にいた。ミーちゃんも私の姿を見つけたらしく手を振っている。旗を
片手に。
「え! ミーちゃん旗手だったの!」
 私の声に隣の同級生がびっくりしたように私を見る。
「カナちゃん知らなかったの?」
 その同級生は不思議そうな顔をしている。そりゃいつも一緒にいる私が知らないなんて思わないだ
ろうけど……。
「う、うん」
 ミーちゃんてば全然教えてくれないんだもん。また私をビックリさせようと黙ってたんだ。もう。
 頬を膨らまして、もう一度ミーちゃんを見ると、ミーちゃんは口元をおさえ、肩を震わしている。
 もう! ミーちゃんのばか!
 私がミーちゃんから目を逸らすとほぼ同時に列が徐々に動き始めた。私は列を乱さないように歩き
出す。
 そういえば、いつのまにか緊張、どっかいっちゃったな。
 ミーちゃんのおかげかな。と思いもう一度、ミーちゃんに目を向けた瞬間、ミーちゃんは、こけた。

 行進のあとはお決まりの偉い人とか校長先生の挨拶。その間、ミーちゃんは立ったまま寝ていた。
 挨拶、準備運動と予定どうりに進み、やっと競技が始まった。

91 :No.21 敗者は勝者にジュースをおごる 2/3 ◇VXDElOORQI:07/09/16 23:50:08 ID:HX80xRwl
 運動神経並の私と違って、運動神経抜群のミーちゃんは、短距離走で華麗に一着でゴールし、一着
とかかれた旗を両手で持ち上げ「うおー」と吼えたり、パン食い競争で全部のパンを奪い取りゴール
をしたりしていた。パンを全部取るのはルール違反じゃないのかな。
 一方、私は短距離走も、パン食い競争も三位と並の運動神経をいかんなく発揮して、ちょっと惨
めな気持ちになってたりした。

 最終競技のリレーを残してミーちゃんの赤組が私の白組を少しだけリードしていた。
 並の私がリレーの選手に選ばれるはずもなく、私は勝負の決着をただ黙って見つめるしかなかった。
 ミーちゃんはというと、堂々のアンカー。
 赤白赤白と並んだ走者がパン。と乾いた音と同時に一斉に走り出す。

 リレーも佳境に差し掛かり、トップは赤。そのあとに白白赤と続いている。
 トップの赤のアンカーはミーちゃん。トップのランナーが最後の直線。ミーちゃんの待つ直線へと
走りこんでいく。そしてミーちゃんもスタートを切った。ミーちゃんが手を後ろへ伸ばす。後ろのラ
ンナーもバトンを持った手を伸ばす。
 バトンがミーちゃんの手に渡った。そう思った瞬間はバトンはミーちゃんの手に収まらず、カンと
音を立てて、地面を跳ね、転がる。
 ミーちゃんは慌てて、バトンを拾いに走る。その間に一人、また一人と抜かれ、ミーちゃんがバト
ンを拾い走り出したころには順番は白白赤赤と変わり、ミーちゃんは三番手まで順位を落としていた。
 私はお祈りをするように手を組み、その様子を見つめていた。
 このまま勝てば私たちの白組が逆転できる。なのになぜか応援する気にはなれず、みんなが声を張
り上げて応援する中、黙ってその様子を見つめていた。
 ミーちゃんが白組の一人を抜いて二位になった。思わず私は立ち上がるも、声は出さず、ギュと手
に力を込める。
 ミーちゃんは先頭との距離をグングン詰める。もう少しで並ぶ。そのときガクッとミーちゃんがバ
ランスを崩した。
 その瞬間は私は叫んだ。
「ミーちゃん! ガンバレー!」
 私が叫んだ瞬間、周りの応援がピタっと止まった。白組なのに赤組を応援する私に驚いたのだろう。
 だけど私はそんなことを気にせずもう一度、大きな声で叫ぶ。

92 :No.21 敗者は勝者にジュースをおごる 3/3 ◇VXDElOORQI:07/09/16 23:50:34 ID:HX80xRwl
「ガンバレー! ミーちゃーん!」
 一瞬、ミーちゃんがこっちを見て、笑った気がした。
 ミーちゃんは体勢を立て直すと、ゴール直前で先頭と並んだ。
 そして二人はほぼ同時にゴールテープを切った。


「んふふ。敗者は勝者にジュースをおごれー!」
「はいはい……。しょうがないなぁ。今日だけは特別だよ?」
「ものわかりがよくて大変よろしい」
 自販機に小銭を投入し、スイッチを押し、出てきたジュースをミーちゃんに手渡す。
 私の分は……なしだ。今月はもうお小遣いがピンチなのだ。
 私は負けた。というよりもミーちゃんが最後の最後で勝った。
 負けたけど、なぜか悔しくは無かった。それよりも私がミーちゃんと並んで歩いていることが、誇
らしかった。嬉しかった。
「あれ? カナちゃん飲まないの?」
「うん。今月お小遣いピンチだから」
「そうなんだ。じゃ、ひとくちあげる」
「え、ありがと」
 思いがけないミーちゃんの行動に驚きながらも、ジュースを受け取り、口に含む。
「んふふ。間接キス成功ー」
 ブッ!
 ミーちゃんの一言に私は盛大に噴出す。
 ジュースが霧状になって私の口から飛んでいく。
「あはは! カナちゃん! それでもひとくちだからねー!」
「もう! ミーちゃんのバカ!」

おしまい



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