【 英雄の背中 】
◆m5mscfvf12




69 :No.16 英雄の背中 1/3 ◇m5mscfvf12:07/09/16 23:00:28 ID:HX80xRwl
 ゲンヤ、あなたは気づいていないだけ。


 この大陸には五人の英雄がいる。
 世界はひとつの大陸と、いまだに数え切れていない数多くの島から形成されている。そして、大陸は山脈と河川に分断されており、それぞれ巨大な五つの国が存在している。
 と同時にそこには一人ずつ英雄とされる者が存在している。
 北のウェイス、南のスルナ、東のゲンジ、西のロシ、中央山脈のメイという五大英雄の名前と物語は知れ渡っている。

 後ろにいる二人がそろって息を呑んでいる中ゲンジがそれに手を伸ばす。
「これが、あいつを救う鍵か」
 手にとった瞬間、光が彼ら三人を包み込んだ。
 それだけでは収まらず光は溢れ洞窟を飛び出し、そのまま大地に沿い世界中に広がった。

 このフレーズは誰もが知っているはずだ。
 その物語の主人公である東の英雄の娘と息子。
 それが姉さんと俺に課せられた運命だった。
 俺はどこに行っても英雄の息子と謳われている


 俺が悩んでいる度に父さんは良くこう言う。
「俺なんて英雄なんて器じゃない。ただ好きな人を助けたかっただけだ。しかも、親友に頼ってばかりだったからな、そんなに気にするな」

 ある日、父さんが英雄になるに至った理由である病魔が国をまた襲った。そして姉さんを。
 英雄になるチャンスだと思った。
 すぐに国を出ようと思い物置部屋で旅の準備をしていると、父さんの旅荷物の中に目的地までの正確な地図が入っていた。

70 :No.16 英雄の背中 2/3 ◇m5mscfvf12:07/09/16 23:00:52 ID:HX80xRwl
 ただそこには父さんの字と見たことのない字二つで、端にこう書かれていた。
『誰かを救いたいならこの地図が導いてくれるはず』
『命を捨てる覚悟がなければあきらめなさい』
『君は何のためにこの場所に行く?』
 何のため?当然見返すため。
 誰を?俺を英雄の息子としか見てくれない人に。
 誰かを救いたい?……姉さんを。
 それに命を捨てられる?……。
 覚悟は……、自問自答していたら部屋に姉さんが入ってきた。
「やっぱりここにいたね、ゲンヤ。」
「ねっ姉さん」
「父さんと母さんはとっくに気がついているのは」
 姉さんは一度部屋を見渡し、俺と地図を見るとため息をつき、
「気がついてないみたいね」
「父さんと母さんなんて、かっ関係ないだろ」
 姉さんが無表情で歩み寄り、俺の頬に衝撃が走った。
「ゲンヤ、あなたは英雄になりたいの?」
 俺は立ち上がり鬱憤を全てぶつける。
「俺を俺と見ない人を見返してやりたいだけだ」
 また頬に衝撃が走った。
「ばかね。本当にばかよ、今のあなたじゃ父さんは超えられない」
 言葉が出なかった。
「父さんの口癖を忘れたわけじゃないでしょ?」
 うつむきながら答える。
「俺、なんて英、雄なんて器じゃない。ただ好き、な人を助け、たかっただけだ」
「その意味をあなたはまったく理解してな……」
 ドサッ
 目を上げるとそこには倒れている姉さんの姿があった。
「ねっ姉さん!しっかりして姉さん!くそっ父さん!母さん!大変だ、姉さんが……」

71 :No.16 英雄の背中 3/3 ◇m5mscfvf12:07/09/16 23:01:29 ID:HX80xRwl
 姉さんを揺する手にごつい手ときれいな手が重ねられた。
「と、う、さ、ん?か、あ、さ、ん?」
「泣くなよ。男だろ?」
「大丈夫、眠っただけよ」
「まあそうだな、俺が言いたいことはミサが言ってくれたからな。なにも言うことはない、っと言うことはあったか」
 付いてきな。と言い残し姉さんを抱っこし、そのままずんずん進む。着いた先は姉さんの部屋で、部屋の主をベッドに寝かす。
 そして、俺に向き直り、俺の肩を持つ。
「これから俺はお前が見た地図の場所まで行ってくる、もし7日経っても帰ってこなかったときは、お前がウィスとミサを守るんだ」
 頭のどこかでそうだろうなと想像していた。父さんは娘が死ぬくらいなら、一人で死地に赴く人だと。
 姉さん、俺はこんな人になりたいよ。

俺は父さんが羨ましかっただけだったよ。

 姉さんが倒れたとき、俺は姉さんが好きだと確信した。

 好きな人を助けたい。

遠ざかる父さんの背中。それは英雄と呼ぶにふさわしいものだった。
「東の英雄!」
「ん?」
「俺も行く。姉さんは俺が助けてみせる」
 英雄が笑みを浮かべた。


 俺は英雄って呼ばれてるけど、俺にとっての英雄は姉さんだよ。 了



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