【 乙女過ぎるだろ女子高生 】
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64 :No.15 乙女過ぎるだろ女子高生 1/5 ◇ad/Jk/xiUA:07/09/16 22:52:07 ID:HX80xRwl
 平成十年九月十六日。局地的な集中豪雨による災害の傷がまだ癒えぬここ北関東で、
ひとつの抗争が幕を閉じようとしていた。

 事の始まりは、平成十年元日。
 北関東界隈で、それを生業とするその筋の者達が一同に集結していた。
 集結していたと言っても、俗に言う出入りの準備などで集まっていたわけではない。
毎年元旦は、年初めの挨拶を兼ねてその筋の者達の宴会が行われている。
 無法者達の宴会。想像するに容易いほどの、無残な光景が広がる。
 しかし、この宴会にも一つだけご法度がある。
 喧嘩するべからず。
 この日に限らず、その筋の者達が集まる時は、喧嘩ご法度となるわけだが、
特に祝い事となる元旦の集まりでは、その取り決めが厳しい。
 通常、その筋の者達のいざこざ等は、抗争へと発展する前に仲裁する者がおり、
適当な所で手打ちとなる場合が多い。
 しかしこの元旦の日に起こしたいざこざについては、仲裁をしてはならないという
取り決めがある。
 一昔前なら抗争を制すれば、メリットも大きかったが、色々と厳しくなった昨今では
抗争をしてもデメリットしかない。無法者達でも、そこは重々に承知している。
 いざこざが始まれば、自分達からは引くことができない者達にとって、この取り決めは厳しい。
 つまり、元旦に起したほんの些細ないざこざは、即抗争へと発展すると言うことになる。
 
「それは聞き捨てならねえな。うちのお嬢がぺチャパイだと?」
 那須一家若頭、平山龍三が、ピクリと反応する。
「そこまで言ってねえよ。うちのお嬢の方が胸が大きいって言っただけだ」
 対応するは、塩原組若頭、相馬銀蔵。
 この二つの組は、事あるごとに小さないざこざを起していた。そのほとんどの原因が、
さきほどの話に出ているお嬢達についてだった。
 二人の言うお嬢とは、那須一家三代目組長、那須宗司朗の孫娘、那須静と
塩原組四代目組長、塩原寛治の娘、塩原巴のことだ。
 この二人はこの業界では有名で、どちらも美人であり、静派、巴派と、派閥ができるほど人気がある。

65 :No.15 乙女過ぎるだろ女子高生 2/5 ◇ad/Jk/xiUA:07/09/16 22:52:31 ID:HX80xRwl
 奇しくも、この二人の境遇は似ており、唯一の身内であった那須宗司朗、塩原寛治共にすでに亡くなっている。
 本来、両組長の血筋に当たる、静、巴、もしくのその婚姻者が時期組長を名乗るのが筋であるが、
静の歳は十七、巴は十六であり、それは難しい。かと言って、他の者が名乗り出ることもなく、
那須一家は静が、塩原組は巴が、高校を卒業するまで組長の席を空けておくことで落ち着いている。
 こういった場合、跡目争いが起こるのが普通なのだが、そういったことをさせないだけの力が、
静、巴にはあるのかもしれない。

「確かに静お嬢の方がちっとばかり胸は小さいかもしれない。だがな、女の色気では断然勝ってるな」
「ちょっと待て、それこそ聞き捨てならねえ。女の色気だって、巴お嬢の方が勝ってるに決まってる」
 齢十六、七の高校生に、女の色気を語るのは滑稽ではあるが、本人らは本気だ。
「もう我慢ならねえ。今までは大目に見てやってたが、今度と言う今度は許さねえ」
「それはこっちの台詞だ。今度会った時は覚えてやがれよ」
 そう言い放つと、両者は席を立ち、お互いの顔を睨め付け、その場を去ってしまった。
 いつもならここで、その筋の顔役が間に入り仲裁するのだが、今日は元旦。他の者達は静観するだけである。

 組に戻った龍三は、頭を抱えながら静の前に座っていた。
「お嬢……すいやせん……」
 龍三を睨みつける静。それに気圧される隆三。この光景を見ると、さきほどの女の色香の話も、
滑稽には思えなくなる。
「組長の居ない今、若頭であるお前が那須一家の代表だ。その代表がやったことだ。こちらから引くことはできない。
塩原組もそれは同じことだろう。抗争は避けられないな」
静は、はあ、と溜息をついた。
「まあやっちまったことは仕方ない。抗争に備えて準備しな」
「へい。それは任せて下さい」
 静から許可を得た龍三は、さきほどまでの姿はどこへやら。因縁ある塩原組との決着をつける好機とばかりに
目に力がみなぎっている。
「しかし、それほどまでにおじいのことを慕ってくれてたとはね。正直嬉しい気もするよ」
 急に優しい目になった静の顔を、龍三はまともに見ることが出来ない。
 龍三は嘘を吐いたのだ。いざこざの原因が静にあるのではなく、先代宗司朗を馬鹿にされたのだと。

66 :No.15 乙女過ぎるだろ女子高生 3/5 ◇ad/Jk/xiUA:07/09/16 22:52:55 ID:HX80xRwl
 正月の賑わいも街からすっかり消え、月が替わった平成十年二月一日、那須一家の玄関先に銃弾が打ち込まれる。
その数三発。他の誰でもない。塩原組の仕業である。
 これを口火に那須一家と塩原組の抗争は徐々に激しさを増した。
 やられたら倍にしてやり返す。そんな泥沼な抗争。
 四月には遂に塩原組から一人の逮捕者が出ることとなった。五月には那須一家から二人の逮捕者。そして一人の負傷者。
 こうなってくると警察も黙ってはいない。梅雨に入ろうかという頃の六月半ば、両組同時に家宅捜査が入った。
 しかし、それには両組とも準備をしている。結局両組から一人ずつの逮捕者を出して、この家宅捜査は終わった。
 警察から直接の介入があったこと、そしてお互い体力が無くなって来たこともあり、
七月は何事も無く終わった。

 ジリジリとした七月が過ぎた、八月の一週目。塩原組から那須一家へ一つの提案がなされる。その内容を
要約するに、このままではお互い体力を無くして行くばかりでなく、埒も明かない。一気に決着をつけようではないかとのこと。
 那須一家は、この提案を受けることにした。

「お嬢。その決着の着け方ですが、各組一人の代表を出し、真剣にての勝負との提案ですが……」
「そうか。ここまで来てしまったからには、ひと一人死ななくては収まるまい」
「それはそうなのですが、しかし……」
「今まで誰一人死んでいない事の方が不思議なくらいだ。龍三も腹をくくりな」
「へ、へい……」
 組の代表となれば、その組の長が出るの筋である。組長のいない那須一家にとって、それは若頭である隆三のことを指すのだが、
ここに来て静はひとつの決心をし、それを組の者達に伝えた。
 那須一家の代表として、静が出る。
 これは事実上、時期組長として名乗りを上げたことにも等しい事である。この抗争中にひとつ歳を重ね、
まだ十八になったばかりの少女がである。
 静には、これ以上親兄弟同然の組の者達が、傷付けられるのが我慢ならなかった。それは龍三でも同じこと。
そんな想いが、静を動かしたのである。その想いは、龍三にも解ってはいた。しかし、先代の血筋である静かが名乗りを上げた以上、
龍三にはどうすることもできなかった。

67 :No.15 乙女過ぎるだろ女子高生 4/5 ◇ad/Jk/xiUA:07/09/16 22:53:23 ID:HX80xRwl
 平成十年八月末日。これから起こるであろう両組の戦いの荒々しさを表すかのように、局地的な集中豪雨が北関東に襲い掛かった。
そんな中、那須一家、塩原組ともに、ひっそりとした時を過ごした。

 平成十年九月十六日。決戦の日。深い森の中にポツリと建つ倉庫にて、那須一家は塩原組を待つ。
「お嬢、やはりあっしが」
「龍三しつこいぞ。いい加減腹をくくれ。私はくくったぞ」
「……へ、へい」
「龍三……私は、今まで組の者達に育ててもらったと思っている」
「そ、そんな滅相もありません」
「最後くらい、私に花を持たせろ」
 龍三の言葉は無視し、そう言って静は満面の笑みを浮かべる。龍三にとっては、その笑顔がとても辛かった。
 静と龍三の会話が終わると、辺りは静まり返る。
 ――ガラリ。
 倉庫の扉が開く。
 ――コツリ、コツリ。
 逆光でよくとは見えないが、ひとが近づいてくる足音が聞こえる。
 おそらく、いや当然、塩原組である。
 逆光にも目が慣れ、相手が近付いて来たことにより、その姿がハッキリとしてくる。
 そこには、一人の少女の姿があった。
「お、お前……一人か?」
 まさか少女が、まして一人で来るとは思っていなかった龍三は驚愕していた。
「敵方とは言え、お前とは何ですか。塩原組時期組長に対して」
 そう、その少女とは塩原組四代目組長、塩原寛治の娘、塩原巴であった。
 巴も静と同じく、時期組長に名乗りを上げていたのだ。
「と、ともえ?」
 隆三とは別の意味で困惑の表情を浮かべている静。
「……し、しずかさん?」
 静の声に反応し、同じく困惑し始める巴。二人は何が起こってるのか解らず、沈黙する。
「お、お嬢? どうしたんですか?」

68 :No.15 乙女過ぎるだろ女子高生 5/5 ◇ad/Jk/xiUA:07/09/16 22:53:47 ID:HX80xRwl
 二人の反応が理解できない龍三。
「ど、どうしたも何も……同じ高校の……後輩」
 そう、静と巴は同じ高校に通う先輩と後輩という間柄。二人は美人であるが故に、高校では何かと祭り上げられることが多く、
その為自然と仲良くなっていた。しかしお互い、自分の家が極道などとは当然言えない。しかも、まだ高校生である為、
極道の世界ではあまり表舞台に出る事が無かった二人は、お互いの事を今の今まで知らなかったのだ。
「そんな……静さんが相手だったなんて……。私、どうしたら……」
 状況を理解できた巴ではあったが、益々困惑する。
「どうしたもこうしたもないわ」
 状況を理解して、逆にスッキリした顔をしている静。
「巴が塩原組の組長。そして私が那須一家組長。組長同士仲が良いのだから、組同士も仲良くするべきよ」
 これまでの静の言動は、どこへやら。なんとも短絡思考的な返答である。
「し、しかしそれでは、組の者達にどう説明すれば……」
「そんなの簡単よ。ここで巴と兄弟杯を交わすわ。これで塩原組は身内。争う理由が無くなるわ」

 こうして、那須一家と塩原組の抗争は幕を閉じた。
 元々力のあった那須一家と塩原組。それが手を組んだとなれば、絶大である。
それに加え、筋者の間でも人気のある静と巴が、その組長であるが為、その力は衰える事を知らない。
 あれだけの抗争の末に、これだけの力を手にした静と巴は、その筋の者達の間では伝説となった。
 あのような形で終えた抗争。当然そんなことは他の者達に言えるはずも無い。他の者達が知りえるのは、
結果のみ。肝心の内容については、謎が謎を呼び、実際とはまるで違った方向へと向かっていった。

「静さん……。これで良かったのでしょうか?」
「これで良いのよ! 二人で極めるわよ、女の花道」
「なんか、益々極道とかけ離れていってるような……」

<完>



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