44 :No.10 白き英雄 1/3 ◇/SAbxfpahw:07/09/16 22:40:26 ID:HX80xRwl
夕方、カラスが電線にぶら下がり集会が始まります。
その中で一番威張っているお頭のカラスが喋り出しました。
「白いのは駄目だ。目立つだけで何の役にも立ちゃしねえ。体もでかいが木偶の坊。本当に
目立つだけだ」
周りも「ああ、全くだ」とか「光を反射して眩しいし目障りだよな」と相槌を打ちます。
標的にされている白いカラスは、黙ってただただ下を向いてるばかりでした。
“白いカラス”と言うのはここらでは有名なレーベンの事です。
レーベンは突然変異で白くなってしまったカラスで、おまけに図体も他のより一回りも
大きかった為目立ち、周りのカラスからは嫌われていました。
性格がおとなし過ぎた為、悪口を言われても反論せず、毎日我慢してばかりです。
ある時レーベンは、巣から落ちたカラスの雛が人間の子供にいじめられているのが目に入りました。
雛の親はというと遠くの方で「カア、カア」と鳴いているばかりです。
どうにかして助けようと彼は思い、子供の所に捨て身の覚悟で飛んでいきました。
突然目の前に白くて大きいのが飛んで来た訳ですから子供達は、
「うわっ、何このカラス珍しい」
「食べたらどんな味がするかな」
「いや、待て待て。捕まえてペットショップに売って、その金で良いもの食いに行こうぜ」
口々に言い合い、雛鳥の事も忘れレーベンに夢中になっていました。
その間にカラスの雛は親がくわえていったので、彼は安堵すると、自分もいじめられたくは
ないですから走って逃げます。
「あっ、白いの逃げちゃう」
「おとなしく調理されろ」
「待て金づる!」
少し子供達との距離が開いたところで、レーベンはさっと翼を広げ空に舞い上がりました。
45 :No.10 白き英雄 2/3 ◇/SAbxfpahw:07/09/16 22:40:54 ID:HX80xRwl
さすがにここまではあの子達も追い掛けてはこれません。
下では子供が手を天にかざし必死に暴れています。
その上で見せ付ける様に二回、三回と彼は円を描きました。
その晩レーベンはまた悪口を言われるんじゃないかと、悄然として足取り重く集会に行きますと、
自分を見たお頭のカラスがいきなりこう言いました。
「おいみんな、英雄レーベンが戻ってきたぞ!」
皆が自分の周りに寄って来て彼は驚きました。
「先程はどうもありがとうございました」
その中で助けた雛の親カラスが礼を言いにきたので、戸惑いつつ軽く会釈しました。
彼はあまりに自分の扱いの違いに狼狽するばかりです。
レーベンは一日にして嫌われ者から、一躍英雄になったのでした。
それからは何回も何回も大きくて白い体を囮にして、仲間のカラスを人間の手から救いました。
そしてある日、仲間のカラスが襲われていたので、いつもの様にすかさず助けにいきました。
黒くて判別しづらいのですが、よく見ると羽の部分から血が見えています。
レーベンは憤怒して、人間に襲いかかりました。
「うおっ、なんだこのカラス。ひょっとしてこいつの仲間か?」
「白いの、ちょっと待ってくれ。今からお前の仲間を病院に連れていくとこだから」
レーベンは人の言葉が分かりません。なのでなおも暴れ狂います。
「おいおい、だから違うって」
「早く治療しないと、このままだとまずいぞ」
人間がいつもとは違う慌てかたに彼は茫然としてしまったのかは分かりませんが、とにかく
どういう訳か襲うのを止めてしまいました。
「よし今のうちだ」
「お前の仲間は必ず助けてやるからな」
そう言い残して、人間は傷付いたカラスを持っていきました。
46 :No.10 白き英雄 3/3 ◇/SAbxfpahw:07/09/16 22:41:17 ID:HX80xRwl
その日の集会の事です。レーベンを見るや否や、お頭のカラスが怒鳴りました。
「おい、レーベン。若い衆から聞いたんだが、お前仲間を見捨てておめおめと戻ってきたと
言うじゃないか。ああ? どうなんだ」
レーベンは黙って下を向いたままです。
ここぞとばかりに周りのカラス達がレーベンにヤジを飛ばします。
「何が英雄だよ。だから白いのは信用ならねえと思ったんだ」
「もう一生顔も見たくないな」
「貴様はカラス界の爪弾き者だ」
カラス達は助けてもらった恩を忘れ、汚い言葉を吐き続けました。
しばらくしてから英雄は無言のまま、その場を逃げる様に飛び上がって空高くへと舞い上がりました。
とめる者など誰もいません。
そのままぐんぐんと上へ上へとあがり、白い雲の中へ頭から飛込み同化して、二度と見える
ことはありませんでした。
数日後、夕方の集会にあのカラスが唐突に帰ってきて「レーベンは僕を見捨てたんじゃない!
もしあのまま帰っていたら傷が化膿して自分は死んでいたかもしれない。だから彼の判断は
正しかった。お前ら僕の英雄の悪口を言うな」と大声で言いました。
それを聞いたカラス達は、初めて自分達の過ちに気付いたのでした。
お頭のカラスが重い口を開きます。
「今まで自分とは色が違うからと差別してきた俺は馬鹿だ。長年カラスの頭をしてきたが、
今回ほど己を呪ったことはない。レーベン、あいつこそ本物の英雄だったのだ」
街中にカラスの泣き声とも、鳴き声とも言えぬ声が響きわたったのでした。
夕方カラスがよく鳴くのは、もしかしたら白き英雄を讃えているのかもしれません。
【完】