【 おたきと九尾 】
◆ENSK/q6md




60 :No.18 おたきと九尾(1/2) ◇ENSK/q6md:07/09/09 20:49:35 ID:UyhYJmUU
昔々あるところに大滝村という村がありました。村はとても平和で穏やかでしたが、数十年前にその村の象徴
である大きな大きな滝の裏、大岩屋に十妖の最後の生き残りである九尾が住み着いてから村は平和ではなくなり
ってしまいました。村は九尾を倒そうとしましたがお釈迦様の最大の敵と言われた九尾は強くあっけなく失敗し
てしまいました。そして、九尾の言いつけ通り一年に一度、齢十五の女子を生け贄として差し出すことになりま
した。

◇ ◇ ◇

ある年、村では誰の子供を生け贄に出すかで大変な騒ぎになりました。しかし、赤子の頃に大きな滝の前で拾
われたおたきという少女が自分から志願して騒ぎはおさまりました。おたきは生け贄として大岩屋に行くことを
ちっとも恐れていませんでした。そして、いよいよその日がやって来ました。おたきは見送られながら一人で滝
の裏の大岩屋に向かいました。おたきは崖沿いに歩きやっとの思いで大岩屋に着きました。大岩屋は日中なのに
奥が見えない程に大きなものでした。
「九尾様はいらっしゃられませんか?」
おたきはまだあどけなさが残る声を精一杯張り上げました。しかし、その声は大岩屋の中に寂しげに反響するだ
けでした。おたきはどうすることも出来ずに大岩屋の入口の近くで寝てしまいました。
次の朝のことでした、日の光の眩しさで目を覚ましたおたきの前に可愛らしい狐がおりました。
「私は九尾の使いです。おたきさん、朝餉を召し上がりませんか?」
驚いたことに狐が言葉を喋ったのです。ところが、おたきは落ち着いた様子で
「有難うございます。しかし、私は名主様に何も口にするなと言われている故、それは頂けませぬ」
と言いました。狐は少し残念そうな顔をすると、口で器用にお盆を咥え闇に溶けていってしまいました。
次の朝も狐がやって来ました。狐は今度は可愛らしい人形を持って来ました。
「おたきさん、一人ではつまらないでしょう。これが欲しくありませんか?」
狐が言いました。しかし、おたきは

61 :No.18 おたきと九尾 2/2 ◇ENSK/q6md:07/09/09 20:50:18 ID:UyhYJmUU
「有難うございます。しかし、名主様に何も持っていてはいけないと言われている故、頂けませぬ」
と言い断ってしまいました。狐はまた残念そうに闇に溶けていきました。
そのまた次の朝、今度は狐はおたきと同じぐらいの年の男を連れて来ました。九尾様が村から連れてかどわか
してきたと狐は言いました。
「いりませぬ。すぐに返してきて下さい。」
おたきがちょっと怒って言うと、狐は残念そうに男を連れて村に消えていきました。
そんな事が毎朝続いていくうちに、狐はだんだん弱々しく怒りっぽくなりました。そして、ある朝狐はいつも
のようにおたきのもとに来て突然腹が減ったと暴れだしました。狐は苦悶の表情で
「煩悩を……」
とうわ言のように繰り返しました。それを見ていたおたきは
「やっぱりあなたが九尾でしたか」
と冷静に狐に語りかけました。
「ま、まさか釈迦……」
狐は動揺し変化の術を解いてしまい九尾である真の姿をあらわしました。
「探しましたよ九尾さん、残念でしたね。煩悩を食すあなたにとってはこの数日はさぞかし苦しかったでしょう」
おたきことお釈迦様がおっしゃられました。
「な、なぜここを……?」
空腹で力が出ない九尾は弱々しく尋ねました。
「適当に探しまわったのです。おかげで数十年もかかり人間に迷惑をかけてしまいました。私に言うことはもうありません、さようなら」
そうおっしゃるとお釈迦様は天敵であった九尾を大岩屋に封印し天界に帰っていきました。

それ以来村は平和になりましたとさ、めでたしめでたし。

〈完〉



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