【 ライバル募集中 】
◆Xenon/nazI




57 :No.17 ライバル募集中 1/3 ◇Xenon/nazI:07/09/09 20:47:33 ID:UyhYJmUU
「魔王さまー、魔王さまー」
 世界の平和を脅かす魔王の居城、その玉座の間にて。魔王の元に、一人の少女がやってきた。
 少女とはいっても見た目がそうなだけであり、人間の年齢に換算するととても少女とは呼べないのだが。
「シセルか。どうした?」
「北方将軍さまからの報告で、八割方制圧完了したとの事ですー」
 シセルと呼ばれた少女は手にした報告書を見ながらそう報告した。魔王は特に何の感情も抱いた様子はなく、
「そうか」とだけ答える。
「あまり嬉しくなさそうですねー?」
 不思議そうに、シセルは魔王を見上げる。
「……退屈、なのだよ。私は」
 少し何かを考え、魔王は答えた。
「魔物たちを従え、人間たちに宣戦布告をして早三年。多少の抵抗はあるものの世界統一への道程は順調だ」
「いい事じゃないですかー」
「退屈、だと言ったろう? 確かに私の目標は魔物による世界統一だが、簡単に事を成し得たのでは感動がない。
その過程において困難が多いほど、物事を成し遂げた時の感動は大きいものだ」
 一人納得したように頷く魔王だが、シセルの反応は薄い。
「そんなものですかー」
「そんなもの、なのだよ。というわけでシセル。君に一つ命令を下そう」
 悪戯を思いついた少年のように、魔王はにやりと笑った。

「困りましたねー」
 一体どれほど困っているのかその表情と口調からは読み取れないが、シセルにしてみれば困っているのだろう。
 シセルが魔王に下された命令は、『好敵手と成り得る人材を探す事』だった。
「伝承なんかだと、『魔王』のライバルは『勇者』なんでしょうけどー……」
 魔王が人間に宣戦布告をしてから現在まで、『勇者』と名乗る人物が現れたという報告はまだ受けていない。
各地でそれなりに反抗はしているものの、人間と魔物ではそもそも基本的な能力が違いすぎるのだ。
「かと言って、魔物の中に魔王さまに対抗しよう、なんて人は居ないですしねー」
 魔王とは、魔物たちの王であるから魔王なのである。知力、体力、魔力に時の運。その何れにおいても魔王を
超える存在を、シセルは知らない。
「あぁ、困りましたねー」

58 :No.17 ライバル募集中 2/3 ◇Xenon/nazI:07/09/09 20:48:11 ID:UyhYJmUU
 その日から、シセルは『魔王の好敵手探し』を第一の任務として活動を始めた。元々は報告役であったシセル
なので、情報収集能力においては他の魔物を圧倒していた。魔王がそれを見越してシセルに命令を下したのかは
定かではないが。とにかく、シセルは情報を集める事を優先した。
『魔王さまのライバルになるかも? リスト』を作成し、他の魔物から上がってくる報告の中で使えそうな情報
をそのリストに加える。そして、それが本当なのかどうかを自分の目で確かめるというのがシセルの取った方法
だった。
 東に世界の理を知る賢者が居ると聞けば足を運び、その知力を確かめ、大した事ないなとリストに×印を付け。
 西に剣の達人が居ると聞けば足を運び、その腕前を確かめ、それを打ち負かしてリストに×印を付け。
 南に強大な魔力を持った大魔導士が居ると聞けば足を運び、魔法対決で圧勝してリストに×印を付け。
 北にどんな賭け事にも負けない賭博士が居ると聞けば足を運び、身包みをはがしてリストに×印を付け。
 リストが全部×印で埋まった時、知力、体力、魔力に時の運において、魔王はおろか自分にすら敵わない人間
しか居なかった事を知り、シセルはまた「困りましたねー」と漏らした。

 それでもシセルは諦めず、次はマジックアイテムに目を付けた。基本的な能力で劣っているのであれば、それ
を補う物があれば魔王の好敵手に成り得るのではないか、という考えである。
 まずシセルは『思考速度を上昇させる羽飾り』を北の大森林に居る霊鳥が授けてくれるという情報を得たので、
北の大森林の中心部へと向かった。霊鳥が「世界の理を知る者でなければ授ける事が出来ない」と言ったので、
シセルが世界の理をそれらしく語ると霊鳥は驚いたようにシセルを見つめ、羽飾りを授けた。
 次に、『魔を打ち滅ぼす聖なる剣』の情報を手に入れたシセルは東の霊山の山頂にあると聞いたのでそこまで
飛んで行った。剣の守護者に「これは西に居るという剣の達人が取りに来るのを待っている」と言われたので、
その剣の達人は自分が打ち負かした事を告げた。すると剣の守護者は驚いたようにシセルを見つめ、剣を譲った。
 更に、『強大すぎて禁呪となった魔法の魔導書』の存在を知ったシセルは西の海底神殿へと向かった。魔導書
の守護者に「これは南に居るという大魔導士でなければ使いこなせないだろう」と言われたので、その大魔導士
に魔法対決で勝った事を告げた。すると魔導書の守護者は驚いたようにシセルを見つめ、魔導書を譲った。
 最後に、シセルは『持っているだけで幸運が訪れるメダル』がある事を知った。南の火山の火口にあり、強運
の持ち主だけが拾う事が出来るという情報を手に入れてそこに向かうと、普通に拾えた。
 マジックアイテムを集めたシセルだったが、しかしこれを誰に持たせればいいのかを考えては居なかった。
「困りましたねー」
 相変わらず、どれほど困っているのか判断に困る表情と口調でシセルは呟いた。

59 :No.17 ライバル募集中 3/3 ◇Xenon/nazI:07/09/09 20:48:45 ID:UyhYJmUU
「どうかな、シセル。私の好敵手に成り得る人材は見つかったか?」
 玉座の間にシセルを呼び出し、魔王はそう尋ねた。
「んー、残念ながらまだなのですー。東の賢者も、西の剣の達人も、南の大魔導士も、北の賭博士も。そんなに
大した事なかったので、どうしようかなーと思ってるのですー」
 シセルは知らないが、魔王は知っている。それぞれが打ち負かされた事により、世界統一までの時間がかなり
短縮された事を。
「マジックアイテムも集めてみたんですけど、誰に渡そうか決まってないのですー」
 シセルは知らないが、魔王は知っている。そのマジックアイテムを持つのに相応しいのが誰かという事を。
「そうか。では私の好敵手に成り得る人材が見つかったらまた報告するように」
 そう言った魔王の表情は、シセルに命令を下した時よりも楽しそうであった。シセルは、何故魔王が楽しそう
なのかはわからなかったが、その疑問を口にはしなかった。
 シセルに退室を命じ、シセルが居なくなるのを見届けた後、魔王は愉快そうに笑う。
「私の求めた好敵手とはまた違うが、これはこれでいい退屈しのぎになりそうだ。灯台下暗し、とはよく言った
ものだな……後はあれの自覚次第だが、さて」

 シセルの『魔王の好敵手探し』は続く。シセルが『人類最後の希望』と呼ばれ、魔王と対峙する事になるのは、
まだずっと先の話である。



 完。



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