【 ヒーローオブジャスティス第十三回転(最終話) 】
◆xy36TVm.sw




16 :No.05ヒーローオブジャスティス第十三回転(最終話)1/4◇xy36TVm.sw:07/09/08 22:38:52 ID:U2/PByxl
「お前、だったんだな。日和子」
 白い詰襟学生服の少年が、うめくように呟いた。
「そうね。私も信じられないわ。あなたがそうだったなんて」
 黒のセーラー服の少女が、淡々と静かに言う。
 二人とも、奥歯を砕きかねないほどに歯を食いしばっていた。
 真夜中の河川敷、二人の他には誰一人居ない。
「なんでだよ、なんで俺たちが戦わなければいけないんだよ!」
「仕方ないじゃない。あなたは正義の味方。私は悪い魔法使い。お互いに気づいていなか
ったとしても、私たちが幼馴染だとしても、どうあっても、戦わなければいけないわ」
 少年の叫びに、少女は感情のこもらない声で返した。
「正助君、いえ、ここではこう呼んだ方がいいかしらね――」
 少し間を置いて、寂しそうに言う。
「――ヒーローオブジャスティスと」
「……そうだな。日和子、いや、エヴィル・デヴィル!」
 目を伏せたまま、正助は怒鳴った。
「正義の名の元に、お前を打ち倒す!」
 日和子はしばし目を閉じ、見開く。その眼光は鋭く硬く、力強い。
「顔を上げなさい、ヒーローオブジャスティス。迷ったままでは何もできない。ついこの
間、あなたが私に言ってくれた言葉よ」
「……迷ったままでは何もできない。できたところで悔いが残る。そうだな」
 正助はゆっくりと顔を上げ、目の前の悪を見据える。
「昔は楽しかったわね。辛いこともあったけど、毎日が輝いていた。こんなんじゃ、なか
った」
「……ああ」
 口を小さく歪めて、日和子は言う。
「確かに私はあの時迷っていたわ。よくわからない団体の募金箱にお金を入れてこの国の
貨幣を外国に流そうとしたり、木に引っかかった子供の風船をとってやって、なんでも人
に頼る軟弱な人間を作ろうとした。でも私にできる悪はその程度だった。物語に出てくる
ような、誰もを不幸のどん底に陥れるような巨悪になれない、ちっぽけな小悪党だった」
 口を更に歪め、微笑みを作る。

17 :No.05ヒーローオブジャスティス第十三回転(最終話)2/4◇xy36TVm.sw:07/09/08 22:39:13 ID:U2/PByxl
「そんな時、あなたは言ってくれた。意図は違ったでしょうけれど、それでも私には救い
の言葉だった。……悪が救いなんて、なんだかそぐわないかしらね」
 言葉の終わりには、温かい微笑みは酷薄な自嘲となっていた。
「俺も悩んださ。いくら悪人をボコボコにしても、この世の悪はなくならない。それに、
貧困や災害、意見の食い違いによる紛争。正義があっても悲しみはなくならない。って」
 腰の変身ベルトに手をかけながら、呟く。
「それでも、俺は身近なところから少しでもこの世界を変える」
 日和子はポケットから青い宝石のついた小さなネックレスを取りだす。
「けれど――もう、迷わない」
「俺は――そう、決めたんだ」

「「変身!」」

 黒と白の眩い光が辺りを包み込んだ。
 黒い光の中で脚、胴体、腕の順にヒーロースーツが身を包んでいく。
 手足と腰にごつごつとした装甲が装着された。
 頭にヒーローメットを被り、光が弾ける。
「チェンジング・ナウ! ヒーローオブジャスティス!」
 両手の拳を構えながら、身体にフィットする黒いヒーロースーツを纏った男が咆えた。
 白い光の中で全裸になってゆっくりと回転する日和子。
 光がレオタード状のインナーとなり、ニーソックスとなり、肘まで届く手袋となる。
 そしてドレスが首から下へ形どられていき、身を包む。
 ネックレスの宝石がハート型になり、そこから杖の柄が伸びた。
 胸と頭にリボンがつき、光が弾ける。
「一日一悪! エヴィル・デヴィル!」
 長い杖を両手で構えながら、ゆったりとした白いドレスを着た女が吼えた。
「仲間を守る。それが私の悪よ!」
「悪を叩き潰す。それが俺の正義だ!」
 そして二人は互いに跳び、ぶつかり合う。
 杖と拳が交差し、離れる。

18 :No.05ヒーローオブジャスティス第十三回転(最終話)3/4◇xy36TVm.sw:07/09/08 22:39:32 ID:U2/PByxl
 縦横無尽に振り回される杖。
 それをさばく棘つきナックル。
 下から殴りあげると見せかけてからの全力の振り下ろしは手甲で逸らされる。
 振りぬいた隙を突かれた正拳は魔法のバリアで止める。
 互いに有効な一撃を与えられないままの消耗戦が続く。
「ぅおうらぁっ!」
 掛け声と共に繰り出された左拳を青いバリアが受け止めた。
 段々と威力の上がっていく拳。そして一瞬の戸惑い。
 繰り出された右拳はバリアの上からエヴィル・デヴィルを吹き飛ばす。
「きゃぁっ」
 小さく悲鳴をあげながら尻餅をつくエヴィル・デヴィル。
 それを好機と見たかまっすぐ飛び掛ってくるヒーローオブジャスティス。
 そして拳が彼女の顔面に直撃する寸前。
 彼女が杖を振りながら密かに放っておいた魔法の光球が、彼のわき腹にヒットした。
「ぐがっ……」
 踏みとどまり、そのままバク転で距離をとるヒーロージャスティス。
 エヴィル・デヴィルもその間に体勢を立て直す。
 息を整え、互いににらみあう。
 互いの実力はほぼ同じ。幾度となく戦いつづけてきた二人だからわかる。
「……このまま消耗戦を続けていても、埒があかないわね」
「そうだな。……次の一撃で、そろそろ決める」
 呟き、ヒ(略)の右手が変形し、ドリルとなる。同様に左手も変形する。
「ヒーロードリル! アンド! ジャスティスツイスター!」
 更にへその二十センチ下のパーツから大型のドリルが突き出た。
「そしてジェノサイドスクリュー!」
 ヒ(略)は三つの螺旋を構える。
「ラディカル・ハートフル!」
 叫び、エ(略)の杖が姿を変えた。先端のハートは穂先となり、長い直槍が完成する。
「キューティ・ビューティ・レモンティー!」


19 :No.05ヒーローオブジャスティス第十三回転(最終話)4/4◇xy36TVm.sw:07/09/08 22:39:50 ID:U2/PByxl
「突撃『チャージ』・準備『セット』!」
 エ(略)が構える。
「それが、お前の本気か」
「ええ。これが私の全身全霊の魔法。そっちも?」
「ああ、これが俺の最終必殺技だ」
 しばしの沈黙の後、二人は静かに笑いあう。
「実はさ、結構楽しいんだよな。こうやってるのが」
「……そうね。ずっとこうしていたいくらい」
 彼女はそう言って、微笑んだ。ヒ(略)も顔は見えないが笑っているだろう。
「けれど、そういうわけには――」
「――いかねぇんだよなぁ!」
 ヒーローオブジャスティスが叫び、走り出す。
「オーバーキル・スピナァァァアアアアアアアァァ!」
「ブレシング・スピアァァァアアアアアアアァァア!」
 エヴィル・デヴィルが叫び、飛び出す。
 ドリルが荒れ狂い、バリアに突き刺さった。
「そんな膜、俺のドリルで貫いてやるぁああああ!」
「この槍で、全てを貫く――!」
 バリアが砕かれ、螺旋と槍が交差した瞬間。
 辺りは轟音と爆風に包まれた。
 そして静寂。
 ゆっくりと煙が晴れ、二人の人影が現れる。
 片方は倒れ伏し、片方は右腕を天へと突き出している。 
 ぼろぼろの勝者のその姿は――。
              
                 螺旋戦士ヒーローオブジャスティス ―完―



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