【 箱庭の話 】
◆dT4VPNA4o6




51 :No.13 箱庭の話(1/2) ◇dT4VPNA4o6:07/09/03 00:58:16 ID:LzGzdCYB
 ある時、何気なく神様は箱庭を作りました。神様の箱庭ですから、人間のものとは桁が違います。それこそ、
大地を作り、海を作り、生命を作りました。神様にとっては片手間です。そして生命には進化するように仕掛けを作りました。
 神様は、ある程度まで作られると傍観する事にしました。生命がどう進化するかに興味を持ったからです。神様は光と闇を定期的に
作る事以外は何もしなくなりました。
 その内、魚がトカゲになって地面に上がってきました。でも神様は気に入りませんでした。見た目はともかく、知性が明らかに
低かったからです。中には希望を見出せるものも有りましたが、神様はこのトカゲたちに箱庭を占領されるのを嫌がりました。
 それで、少し悪戯のつもりで箱庭を揺らしてみました。するとどうでしょう、箱庭を埋め尽くしていたトカゲたちがあっという間に
居なくなってしまいました。これには神様も驚いて、慌てて生き残りを探しました。生き残ったのは、ネズミと小さなトカゲと魚だけでした。
 神様はネズミに知性を持つように細工をしてまた傍観に戻りました。
 知性を持つかもしれないネズミは、やがて木に登りました。そして再び地面に降りたときには、サルになっていました。
 サルは神様が細工した通りに段々と道具を使ったり、作ったり、するようになり神様が期待したとおりに進化していきました。
 そして、サルはある日ヒトになりました。ヒトは神様が教えたわけでもないのに、神様を信じるようになって。仲間を殺したりして、
神様に何かお願い事をしてきました。神様はそれにある時は応え、またある時は更に過酷な状況を作りました。
 面白い事に、人間の中には過酷な状況におかれても神様のせいだとは言っても、その事を恨まない者が現れたりしました。
 神様はヒトの知性には満足でしたが、賢すぎるからこその愚かしい事をするようになりました。その度に神様は箱庭を――今度は
細心の注意を払って――突っつきまわしました。それでもヒトはかつてのトカゲの様に消え去る事はありません。
 やがてヒトは神様の思惑以上の行動を見せるようになりました。神様が創った病気や箱庭が揺れる時の、彼らにとっての災害も、最小限で
食い止めるようになりました。そしてある時から爆発的に増えだしたのです。
 ヒトは猛烈な勢いで増え続け、生存競争というにはいささか大げさな潰しあいを何度も起こして、それでも遂に箱庭を埋め尽くしました。
 他の生物は、ヒトのいない僅かな場所やヒトの間を縫うように暮らしています。神様はここに来て、ヒトは失敗だったかもしれないと
思うようになりました。ですがトカゲの時の様な事はもう出来ません。箱庭がかなり傷んでいたからです。半分は神様のせいです。
 もう半分はヒトが地面の中から掘り出した、神様も創った覚えのない黒い水や、ヒトがいつの間にか創れる様になっていた薬品と言うものの
せいでした。
 しかもヒトは段々と神様を信じなくなっていました。箱庭の中とは言え神様にとっては面白くありません。そしてそれは同時にヒトから超えて
はならない恐れの境も越えさしてしまいました。
 ある日箱庭の一部が爆発しました、思わず神様も驚く大爆発です。後には何も残りませんでした。そしてその一帯に猛烈な毒を
撒き散らしました。神様の力を以ってしても完全に無くすには酷く時間がかかりました。しかもヒトはその爆発を何度も起こしたのです。
 ある時は海の真ん中で、ある時はわざと同じ人間が直ぐ近くで暮らしているところで。そして毒の威力を見るのでした。
 神様はヒトに絶望しました。ヒトは毒をばら撒いても平気な顔をしています。もう箱庭を潰してしまおうと考えました。


52 :No.13 箱庭の話(2/2) ◇dT4VPNA4o6:07/09/03 00:58:34 ID:LzGzdCYB
 ですがその一方で黒い水を使わなくても生活する方法や、大爆発を毒をばら撒かずに使うものが出てきました。それは本当に僅かで、
良く注意してみないと見逃してしまいそうなほどでした。神様はそれを見て暫らく考えました。
 神様は箱庭を潰す事だけは止めました。ですがもう観察するのも止めました。光と闇の仕掛けだけを残して神様はどこかに去っていきました。
 後に残された箱庭からは、ヒトが押し出されてか、飛び出してきたりしましたが基本的には箱庭の中で暮らしています。ですが箱庭はもう
あちこちに酷い傷が出来ています。最近ヒトはこの傷に気づきましたが、傷口が開くのを遅らせるのが精一杯です。
 やがてヒトは再び毒を撒き散らすようになりました。同じ頃、ヒトは箱庭の外に飛び出してそこで暮らすようになりました。つまり神様の
部屋です。
 遂に箱庭は毒まみれになりました。残っているのは一部のヒトと僅かなほかの生物です。箱庭の外に出たヒトはフラと様子を見に来た神様に
皆、掃除されました。
 神様はこの様を見て一つため息をつくとまた去っていきました。箱庭を捨てる事もしなければ、治療しようともしませんでした。
 それでもヒトを含むあらゆる生物は箱庭の中で生き続けるのでした。


 《おしまい》



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