【 銀色の箱 】
◆K/2/1OIt4c




42 :No.10 銀色の箱1/4 ◇K/2/1OIt4c:07/09/03 00:50:43 ID:LzGzdCYB
箱全体を銀色にペイントして、それは完成した。
 一辺が一メートルの立方体の箱。木材で枠組みを作り、ベニヤを貼り付けたものだ。そ
の箱の側面に、ジャンク屋に行って買ってきた古いパソコンのマザーボードを適当に貼り
付けた。さらに適当に銅線などをハンダ付けしてそれっぽく仕上げた。
 俺はその部屋を出て、書斎に戻る。そしてさっそく、アホの中田に電話を掛けた。
「もしもし。青木だけど」
「うん。こっちは中田だけど」
「わかってるよ。それより、新しい発明、完成したぜ」
「マジで! すぐ行くよ」
「おう、待ってるよ」
 中田はただの箱とは知らず、こちらに向かうようだ。
 彼は今まで、俺の作った数々の偽発明品にだまされてきた。
 例えば、時速百五十キロメートルの速度で投げることができる野球ボール。これはただ
単にボールにデジタルを埋め込んで、何か強い衝撃があると『150』と表示されるよう
に作ったものだ。彼はそのデジタルの表示を速度だと信じて歓喜していたが、どんなスピ
ードで投げてもそう表示されるだけなのだ。アホである。
 中田はすぐにやってきた。
「何を作ったの?」
 来て早々、聞いてきた。
「実は、タイムマシンなんだ」
「おおお」
 目の前に置かれている銀色の箱が、彼の目にはタイムマシンに見えるのだろう。力強い
拍手をしている。俺は笑いを堪えるのに必死だ。
「どうすれば使えるの?」
「箱の上部が開く。その中に入ればいいだけ」
「それだけ?」
「あぁ。じゃあ入ってみるか?」
「いいの?」


43 :No.10 銀色の箱2/4 ◇K/2/1OIt4c:07/09/03 00:51:01 ID:LzGzdCYB
 俺は箱の上部を開いた。蝶番が一辺についているだけだ。中田はうれしそうに中に入っ
ていく。
「じゃあ三十分経ったと思ったら出てきてくれ」
「わかった。で、そうするとどうなるの?」
「その箱の中では三十分経ってるけど、実は時間が数十分戻っていて、お前が出てくると
き、こっちの世界では三十分経ってないんだ」
「よくわからないけど、それはすごい」
「時計とか携帯とか持ってる」
「あ、そういえば携帯、家に忘れた」
「じゃあいいや」
 俺は箱を閉めた。
 中田のことだから、体感で三十分なんて正確に測れないだろう。たぶん早めに出てくる。
それを狙った偽タイムマシンだ。出てきて、十五分しか経っていない時計を見たときのリ
アクションを想像するだけで笑えてくる。
 次は何を作ろうか。そういえば、野球ボールのとき、「特許をとったら?」と言ってい
た。偽者の申請書を作るのも面白いかもしれない。

44 :No.10 銀色の箱3/4 ◇K/2/1OIt4c:07/09/03 00:51:20 ID:LzGzdCYB
   ×


 青木君から電話があった。またすごい発明をしたらしい。
 彼は前に、普通に投げるだけですごいスピードの出る野球ボールとかを作った、すごい
発明家だ。僕は彼を尊敬している。
 今回もきっとすばらしいものに違いない。僕は急いで彼の家に向かった。
 彼は開口一番、「タイムマシンを作った」と言った。僕は当然驚いた。
 話を聞くと、銀色の箱に入ると数十分だけ時間が戻るらしい。
 僕は早速入ってみた。とりあえず実験なので三十分入っていてくれ、とのことだった。
 最初は我慢できた。新しい発明の実験に参加できてうれしかったし。でも、すぐに嫌に
なってきた。狭いし、息苦しいからだ。
 僕は、たぶんだけど、五分くらいで出てしまった。
 蓋を開けて部屋を見渡す。青木君はいない。
 時計を見たけど、そういえば入るときに時間を見なかったので、どれくらい時間が戻っ
ているかわからなかった。
 携帯電話を家に置きっぱなしだったことを思い出して、急いで家に戻ることにした。携
帯電話に着信があってから五分ぐらいで青木君の家に着いたから、その辺を逆算すればわ
かると思ったのだ。
 青木君が見当たらなかったので鍵が閉めれなかったけど、気にしないで出た。すぐ戻る
し、青木君だって家にいるかもしれない。物騒な土地柄でもないし。

45 :No.10 銀色の箱4/4 ◇K/2/1OIt4c:07/09/03 00:51:44 ID:LzGzdCYB
 自宅に着いて、鍵を開ける。そしていつも携帯電話を置いている場所に行くと、もう一
人の僕がいた。
 もう一人の僕は携帯電話を持っていて、今まさに電話を切ったところのようだ。すごく
驚いている様子。
「青木君からの電話だよね」
「そ、そうだけど」
 意外と動揺していない。さすが僕だ。
「彼の発明でタイムスリップして過去に戻ったんだ」
「じゃあ未来から来た僕ってこと?」
「そう。物分りがいいね」
「青木君ならそのくらいの発明してもおかしくないし」
「おかしくないっていうか、したんだけどね」
 僕は、過去の僕と一緒に家を出た。二人の僕が彼のところに行けば、実験が成功したと
わかってもらえると思う。
 実は、三十分も待たないで出てしまったことがちょっと後ろめたかった。三十分という
時間になんか意味があるのかもしれなかったし。
 それでも実験は成功したんだ。あやまれば許してくれるに違いない。
 そういえば、時間は十分くらいしか戻っていない。青木君は数十分と言っていた。
 そんな疑問をもう一人の僕に言うと、「もしかしたら、箱の中に入っている時間と比例
関係にあるのかもしれない」と言った。
 僕は、きっとそうなんだろうなと想像した。
 

 完



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