【 プレゼント 】
◆luN7z/2xAk




4 :No.02 プレゼント 1/3 ◇luN7z/2xAk:07/09/02 09:53:21 ID:hy5RaXdM
 僕が貰うプレゼントの箱には、いつもきれいな紙に包まれていて、それに見合うリボンで包装されていた。
その中に入っているのはゲーム機だったり、そのカセットだったり、或いは勉強道具だったりした。
勿論包装用の箱はその中のものを取り出したらすぐに捨ててしまうのだけど、そんなプレゼントが届くたびに、綺麗に整えた外見に少しばかりの間見惚れてしまうのだった。

 そんな僕に、誰も見たこともないような贈り物が届いた。誕生日のことだった。
というか、それを人目で見て誰かへの「プレゼント」だと分かる人などだれもいないだろう。
「……何これ?」
僕の第一声だった。
 箱、としか言いようがなかった。 
それも、綺麗に彩られたり、意匠が施されたりしている小洒落た小物入れ等ではなく、どちらかというと段ボール箱に近いような箱だ。だが、底は浅い。
こんなもの何に使うんだと母さんにも言った。
「折角のおばあちゃんからのプレゼントなんだからとっておきなさい。きっといいことがあるのよ、きっと」
そう言いながら、母さんは首を傾げていた。勿論文句は言っておくが、それ以上のことはできなかった。
とにかく、僕はその箱を自分の勉強机の上に置いておくことにした。

5 :No.02 プレゼント 2/3 ◇luN7z/2xAk:07/09/02 09:53:50 ID:hy5RaXdM
 次の日の学校帰りのことだった。
いつも一緒に帰る友達が用事があるということで一人で帰ってたのだが、その帰り道の十字路で危なっかしいなお婆さんを見つけた。
そこの信号機は歩行者と車で分断されているもので、歩行者の順番になる度に音楽が流れてくれるものだった。
だが、そのお婆さんはどういうわけだか車の信号機が青になる時に歩き出すのだ。
いちいち車の方が止まってくれるのだが、その度鳴るクラクションが運転手の苛立ちをこの上なくストレートに伝えてくれる。まぁ、流石に怒鳴るような人はいないのだけど。
もう見てられない。
そう思うや否や、そのお婆さんに声をかけ、車の中から不機嫌そうに睨みつけてくる運転手の人たちにペコペコ頭を下げながら赤信号を歩いていった。
「お婆さん、信号機は青になってから渡るものだよ、うん。
 決められた時に渡ってくれないと皆困ると思うんだ。 お婆さんも危なかったしね」
クラクションの大合奏に我慢しながら信号機を抜けると、僕はお婆さんにできるだけやんわりと注意した。
するとお婆さんは「あらごめんなさい、迷惑をかけてしまったようね」と言い、更にありがとうと付け足すとそのまま立ち去ってしまった。
しばらくは目で追っていたが、帰るという目的を思い出し、僕も別の方向へ歩き出した。

 家に帰って、通学カバンを置きに自分の部屋に入ると、いい香りがする。
よくある消臭ポットや洗濯用洗剤のラベンダーの香り。そんな感じの匂い。
何だろう、と思って勉強机の周りを見てみると、例の箱の中から何かがひょっこりと飛び出ている。
「……花?」
今まで見たことのない花だった。
限りなく地味な色や形だが、ありきたりというわけではない。自分の立場が分かっているような花。
そんな花が一輪、箱の中からひょっこりと飛び出ているのだ。
何でこんな場所に、と思い箱の中をのぞいてみると、何と土が入っているじゃないか。
「母さんかなぁ」
と声に出しながら、母さんがやったこととは違うことは分かっていた。
僕の母さんは面倒くさがりやなのだ。 こんな手の込んだドッキリまがいなことをするはずがない。
その日、悩みに悩みながら結局答えは見つからなかった。ただ、少しいい気分だった。

6 :No.02 プレゼント 3/3 ◇luN7z/2xAk:07/09/02 09:54:24 ID:hy5RaXdM
 そのまた次のとても暑い日、……つまり今日、僕と友達は帰りにコンビニへ立ち寄っていた。
金もないのにどうすんだよ、と僕がボヤくと、友達はとても手馴れた手つきでアイスクリームを手に取り、通学カバンの中に突っ込んだ。
お前それは駄目だろ、と咎めようとすると、それよりも早く
「お前もやれよ。怖いのかよ?」
と誘ってくる。 怖いとかそういう前に、万引きは犯罪だ。
そう言おうとするが、やっぱり僕も子供で、
「やんないならお前の好きな女子バラすぞ」
というよくある脅しには屈するしかなかった。
盗ったのは百二十六円の「クーリッシュ」だった。これの美味しさは世界が認めるところだろう。
だが、少し後悔があったせいか、今回ばかりは美味しくいただけそうになかった。
 そんなことがあったから今日はラベンダーの香りで癒されようかなぁなどと考えながら家の中に入る。
そのまま階段を上って僕の部屋を開けようとドアノブに手をかけるが、何かが違う。
いや、何が違うっていうのはないのだけれど、嫌な予感がするのだ。
それでも、ドアを開けないことには始まらないのでそのままドアを押す。
一番最初に感じたのは、昨日のラベンダーの香りがしない、ということだった。
何だよ、せっかくのいい匂いだったのに、と少しふてくされれながら通学カバンを勉強机に置いたその時だった。
机を見れば、嫌でも『あの箱』が目に入る。
土からひょっこり生えていた花の花びらは、茎だけ残して綺麗になくなっている。
何かに切られたというよりは、何者かに「食われた」感じ。
もぞもぞと動く土。 次第に見えてくるあの特徴的な黒い触覚。
その姿が少しずつ土から出てきてカサカサと本棚の下に……あぁ、虫は死ぬほど嫌いなんだ。勘弁してよ……

 ……その箱は、持ち主のした行動を見ているのだろう。そしてその行動の善悪を見て、花が咲いたりいい匂いを出したり……変なのを出したりするんだと思う。特に、「悪いこと」への制裁がキツイ気がする。
全く、婆ちゃんも面倒くさいもん送りつけてきたな、僕は好きな子がバレても万引きなんてするもんじゃないなぁとぼんやり考えた。
……もしかしたら、そう考えさせることが婆ちゃんの僕へのプレゼントだったのかもしれない。



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