【 愛の献血 】
◆59gFFi0qMc




61 :No.18 愛の献血 1/2 ◇59gFFi0qMc:07/08/26 23:46:51 ID:FkikrFkY
 入院中の友人と病室で喋っていたところ、突然、看護士に名指しで呼び出された。
 そのまま採血室へ案内された。中では採血担当らしき医師と看護士のお姉さんがものも
のしい機材を並べて既にスタンバっている。
「RHマイナス友の会経由でご家族と連絡をとりました。ご協力願えませんか?」
 血圧測定用のベルトをお姉さんは顔の高さまで持ち上げた。
「あの、何の話ですか」
「今、交通事故の患者さんがいて、緊急手術のため同型の血液が必要なんです。でもRH
マイナスAB型が全国的に底をついてまして、輸入も間に合いません。どうか採血にご協
力していただけませんか?」
 事務的な笑顔で小首を傾げながらお姉さんは言った。
 ああ、それでか。高校卒業と同時に一度同じようなことがあったな。黙って小一時間耐
えてれば済む話だ。ここではジュースをもらえそうにもないが、まあ勘弁してやろう。
 お姉さんに促されるまま俺は診察用のベッドで横になり、無言で腕をまくった。

 採血前の血圧測定後。
 採血室から一旦どこかへ飛び出していったお姉さんは、少ししてから再び小荷物を抱え
て帰ってきた。そして二人はなにやらひそひそと話を始め、やがて医師は深刻な面持ちで
俺の前へ立った。
 一体何事なんだ。医療関係者のひそひそ話って怖すぎる。
「血圧が低いですね」
 メガネの真ん中を中指で押し上げながら医師は言った。
「まあ、昔からちょっと低めですけど」
「まずいんですよ。これだと献血をお願いできない。血圧を上げさせてもらいます」
 医師とお姉さんが入れ替わった。お姉さんはまるでトランプを持つかのように俺の目の
前で何冊かの雑誌を見せた。
「横島さーん、この本で頑張ってみてくれませんか?」
 小首を傾げ、事務的な作り笑いでお姉さんは言った。
「おおっ!」
 それは”パンストフリーク”と”縞パンファン”と”キャミ大好き!”じゃないか。
 どうして知っている。そりゃ俺が購読しているキツ目のエロ本達じゃないか。

62 :No.18 愛の献血 2/2 ◇59gFFi0qMc:07/08/26 23:47:05 ID:FkikrFkY
 しばらく本を眺めては血圧を測定するといったことを繰り返していた。だが、医師の望
む血圧までには至ってないらしい。しきりに「もっと妄想を」とか「君に邪念は無いのか」
とか、常識ではありえない檄を医師が飛ばす。最初は恥じらいの色を見せていたお姉さん
も、段々と眉間の皺を深くしていった。
「無理ですって。病院の無機質な環境でそんな気分になれませんって」
 俺の言葉に反応した医師は、意を決したようにお姉さんの方を振り返った。
「さっきのミーティングの通りだ。君がやりたまえ」
 指を差しながらはっきりとした口調で医師はそう言った。
 お姉さんは顔を伏せ、「……はい」と小さな声で返事をした。耳まで真っ赤だ。そして
立ち上がりながらも震える手でゆっくりと白衣の裾をめくった。
「……こんなので喜んでもらえますか?」「おおっ!」
「よかった。それでは、こっちはどうですか?」「すげえ!」
「縞パンとか」「たまんねえ!」
 色々履き替えては俺に見せるお姉さん。とても病院とは思えないシチュエーションで俺
の性癖マンモスヒット。脳みそからアドレナリンがほとばしる。
 いつの間にか医師は俺の血圧を測定をしていた。「よし大丈夫、すぐ採血だ」と言いな
がら腕にチクリとした痛みを与える。採血開始だ。
 だが、そんなことで俺の魂は萎えない。
「……ちょっと凝ってみました」「おおっ!」
「よかった。それでは、こんな凝った組み合わせとか」「すげえ!」
「黒ストとか」「たまんねえ!」
 時折医師は「いいぞ、その調子」とか「頑張れ、だいぶ採れたぞ」などと言うが、一切
無視だ。採血とか人命なんて知ったことか。

 だが、目標量直前で採血は急遽中止となった。
 さっきまでガンガン上がっていた血圧が、俺のうめき声と共に急降下したからだ。

 缶



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