【 Libido 】
◆vJYNv4JR5w




37 :No.11 Libido 1/4 ◇vJYNv4JR5w:07/08/26 23:04:22 ID:FkikrFkY
 何時もの金曜日、五時限目の授業中。私が黒板に板書していると教室の後方から話し声が聴こえてきた。
「そこ、五月蝿い。やる気が無いのなら黙って寝てろ」
 振り返って注意する。だが、注意した生徒は我関せずといった感じ。代わりに前の席の生徒が怪訝そうな顔
つきになる。私は返事を待たずにまた黒板と向き合ってチョークを取った。注意して一旦は静かになるものの、
十分と持たずにまた私語が再開される。他の教員に言わせるとコレでも静かな方なのだそうだ。同僚の田島
に言わせると「西崎先生は生徒にもカッコイイと人気がありますから。羨ましい限りです」だそうだ。私は注意す
る気も失せ、ただ板書を続ける。そして、数式の説明。その繰り返し。この教室の中で一体何名の生徒が私の
授業を聞き、理解し、自分の知識として吸収しているだろうか。
 ある者は机の下でマンガ本を広げ、ある者は寝息を立て、ある者はノートの切れ端で隣の者と文通していた。
私の授業を真面目に聴いている者などクラスの半数ぐらいだろう。授業の五十分間は唯ひたすらに私と彼女達
の騙しあいだった。授業を聴いている振り。授業をしている振り。もううんざりだ。
 ひたすら、教科書どおりの数式を板書し説明する、問題を解かせる。数式を板書し説明する、問題を解かせる。
数式を板書し説明……。

 やがてチャイムが五十分の授業の終わりを告げ、職員室に戻り自分の机に着くと、隣の席の田島が話しかけ
てきた。
「どうですか、西崎先生。今晩あたり行きませんか?」
ビールでも煽るかのようなジェスチャーをしたので、「ちょっとやる事がありますので……」とやんわり断った。田
島は国語教師のくせにミミズの這った様な字しか書けず、おまけに漢字の書き順も滅茶苦茶で其れを知ったとき
には呪い殺してやろうかと思うほど気分が悪かった。だが、そんなことをするほど私は子供ではないし、こんな奴
を殺してこの職を離れるのは嫌だった。これまで何度と無く、転職を繰り返してきたがこの職だけは離れる気は
なかった。
 人其々に天職というものが在るならば、この職はまさに私にとっての天職であろう。職員数約、五十名。生徒総
数、約九百名。私立白百合女子高等学校。そこの数学教師及び、二年三組の副担任。其れが私の職業だ。

38 :No.11 Libido 2/4 ◇vJYNv4JR5w:07/08/26 23:04:43 ID:FkikrFkY
 いったい何時頃だろうか、私が自身の本当の性癖に気付いたのは。私はそれまでごく普通の人間として二十数
年間を生きてきた。恋愛し、結婚し、子供できた。そんな私の世界が変わったのは子供が生まれて二年も経った
頃だった。
 ある雑貨卸店に勤めていた頃のことだ。朝、いつもより十分遅れた電車に乗るとそこは別世界だった。いつもは
通勤のサラリーマンばかりだった車内は女子高生で溢れ返っていた。様々なセーラー服、ブレザーの制服に身を
包む数多の少女たちで車内は春夏秋冬が一遍に来たような騒ぎ。私にとっては電車内であることを忘れさせるよ
うな異様な光景だった。
 一定のリズムで走る電車。その中で彼女達は和音の嬌声を放ち続ける。全てが混ざり合った不自然なシンフォ
ニーが私の理性を侵食していった。
 それから私は電車の時間を十分ずらして通勤するようになった。眼に映る彼女たちはどれも美しく妖艶に見え、
私を淫逸な世界に誘っているように見えた。だから私は毎日、彼女達を妄想の中で愛で、舐め回し、突き上げ、犯
し続けた。
 それから一ヶ月も過ぎた頃だろうか。日課のように彼女達を妄想の中で犯していた時、私の中に天啓が降りてき
た。まだ社会を、大人を知らない少女たち。青い、瑞々しい身体、その価値も知らず彼女達はその身体を腐った男
に投げ出すのか。それだけは駄目だ。許されない。誰かが守らねば、彼女達を。誰も守らないのならば私が守る。
私がこの腐りきった世界から、彼女たちを守る。私なら守れる。私なら、完璧に彼女たちを愛することができる。私
は教員免許を持っている。なんて幸いなんだろう。学生の頃、何の考えも無く取ったこの資格がこんな所で活かさ
れようとは。私はその日のうちに会社に退職願を出し、教員になるべく勉強を開始した。


39 :No.11 Libido 3/4 ◇vJYNv4JR5w:07/08/26 23:05:01 ID:FkikrFkY
 だが実際に教員になると、私の認識が甘かった事を思い知ることになった。やっとの思いで決まった私立の女子高
には、私が守護するに値しない程度の少女が約半数も居た。彼女達は既に人間である事を放棄したような品性の欠
片も無い言動、焼け爛れたような皮膚を露出し、子供の塗り絵の様な化粧を連日のように繰り返していた。私の内に
自分の語彙では到底言い尽くせない絶望感が沸いてきた。
 また、教員についても同様で、その堕落振りには苦虫をつぶしたような笑顔でしか答える事が出来なかった。特に、
私の隣の席の田島は筋金入りの下衆な男だ。私は田島が更衣室や生徒用のトイレに隠しカメラを置いているのを
知っている。だが、そんなことを公表したところで何の解決にもならない。彼女たちを守ることにはならない。世間に知
られること無く、社会的に抹殺されるべきなのだ。
 私は違う。田島とは違う。田島は結局、少女の肉体にしか興味が無いのだ、少女の肉体しか愛することができない
のだ、この男は。自分の頭で思考しない、犬や猫、家畜と同じ。本能の赴くままに自らの性器で少女達を貫きたいだけ
なのだ。私は違う、理性を持って彼女達を愛する事が出来る。自らの汚い体液を少女の体内に吐き出すことしか興味
が無い田島とは違うのだ。私なら彼女たちを完璧に愛することが出来る。少女たちの身体に自分の欲望の残滓を残す
ことなく愛することが出来る。

 その日私は、珍しく二十時近くまで職員室に残り残業をしていた。他の職員は皆早々に帰り、残っていたのは私だけ
だった。
「失礼します。あ、西崎先生」
「……ん、どうした。渡辺」
 職員室に入ってきたのは、私が副担任をするクラスの生徒だ。彼女の利発そうな喋り方、念入りに手入れされたロン
グストレートの黒髪、膨らみかけの乳房、子供から大人になりかけの朗らかな笑顔。全てが私の理想を具現化した様
な姿だった。
 授業中、私は何度彼女を妄想の中で犯しただろうか。何度も愛で、何度も嬲り、何度も何度も犯し続けた。赴任した
当初、絶望感に打ちひしがれる私を救ったのは彼女のような極一部の生徒だった。
「田島先生の事なんですけど……」
 私の隣の席に着いた彼女はゆっくりと喋り出した。言葉を選びながら話しているようで理解するのにしばらく時間が掛
かったが、ようは田島がセクハラ紛いの行いを行っている旨を止めさせて欲しいとの事だった。私は了承し、田島にそれ
と無く諭すと伝えると彼女は途端に安堵の表情を見せ、其れが酷く愛らしかった。
「……でも、西崎先生に相談出来て良かった」

40 :No.11 Libido 4/4 ◇vJYNv4JR5w:07/08/26 23:05:17 ID:FkikrFkY
「何故?」
「だって、やっぱり男の先生には相談しずらいから……」
「うん、そうだね。やっぱり男の先生には話し難いよね」
私は自分が女である事を今日ほど神に感謝した事はなかった。今日もまた、愛する彼女達を守る事が出来る喜びで私
は心臓の鼓動がより速まるのを感じた。

 その後彼女は、女である私が実は生徒の中でカッコイイと人気があることを教えてくれた。数多の生徒はいざ知らず
眼前の彼女までもが「実はワタシも、先生の事カッコイイと思ってたんです」と言った時には思わず赤面してしまった。
 また、今授業で行っている二次関数についての質問をしてきた。私は極力丁寧に答えたつもりだったが、それでも彼
女には難しかったようだ。
 私は意を決して彼女を誘ってみる事にした。
「明日にでも、先生の家まで来ないか? 土曜日だし、じっくり勉強を見てやれるよ?」
「……え、でもご迷惑じゃ」
「そんなことないわよ。ウチのちびっ子も喜ぶと思うし」
「先生のお子さんってお幾つなんですか」
「二歳。手が掛かって大変なのよ。旦那も居ないし」
前の会社を辞めたとき、旦那とも別れた。彼女達の素晴らしさに気付いたとき、この世の男の不必要さも理解だ来た。離
婚したのはそれだけの理由だった。
「じゃ、お言葉に甘えて、お伺いしても良いですか?」
「うん。歓迎するよ」
「ありがとうございます」
 それだけ言うと彼女は友人の声に呼ばれ、職員室のドアも閉めず去っていった。一応、教師として注意をしたがそれは
彼女には届かなかったようだ。
 私は自宅に呼び出した彼女をどのように愛でるかを思案しながら、職員室のドアを閉めた。

<終>



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