【 儲け話 】
◆uu9bAAnQmw




26 :No.08 儲け話 1/3 ◇uu9bAAnQmw:07/08/26 21:27:12 ID:FkikrFkY
 自動ドアが開き熱風が体を通り抜ける。
 外は暗かったので目が慣れるまで時間がかかった。
 今日もパチンコで惨敗か。あそこで、あの球さえ入っていればなあ。
あれは絶対裏で操作してるって、間違いない。
「くそっ。――いてっ」
 自販機に蹴りを入れたら、ただ足が痛くなっただけだった。
 ああ、どこかに楽して儲ける仕事はないかなあ。ギャンブルは波が
あるし、きついわ。
 大通りを何の当てもなく闊歩する。前方で男の売り子が看板を持って
叫んでいるのが見えた。夜とはいえ、こんな暑い日によくやって
いられるな。俺には、こんな所で一秒たりとも仕事をする自信はない。
 交差点の信号で足止めされていると、さっきの男に声を掛けられた。
めんどくせえ。
「ちょっとそこの兄さん、一時間五千円でどうっすか」
「金がないので遠慮しとく。それに呼び込みは違法だろ」
「いやいや、そっちの方じゃなくて稼ぐ方っすよ」
「あっそ」
 時給五千円ってそんな都合のいい話なんてあるわけないだろ。馬鹿
を釣るにしてもあまりに幼稚過ぎる。
 信号が青に変わり、俺は歩き始めた。
「ちょっと兄さんもう少し話を聞いていって下さいよ」
「断わる」
 ちょうど横断歩道を渡りきったところで、男が何か呟いた気がした。
「残念だなあ、ただ女の子守りをするだけなんだけどなえ。ああ残念だ」
 それが偶然にも耳に入り、俺の足が止まる。理性ではきな臭い話
だと分かっているのに、下半身が言うことを聞いてくれない。これは
困った。うーむ、別に話を聞くだけならいいか。

27 :No.08 儲け話 2/3 ◇uu9bAAnQmw:07/08/26 21:27:26 ID:FkikrFkY
「や、やっぱり詳しく聞かせてくれ」
「兄さんそうこなくっちゃ。じゃ、詳しいことは事務所の方で。
さあさあこちらへ、すぐそこですから」
 男は看板をガードレールに立掛けて、人通りの多い大通りから
薄暗い路地裏へと入っていく。
 男が 早足に行くので、後ろから追い掛けるだけで汗だくになった。
「おい。もう少しゆっくり歩けんのか」
「兄さん、ここら辺は住宅も多いっすからもう少しお静かに」
 出鼻をくじかれてもう喋る気力も失ったよ、全く。
 そして男は、年季の入ったくすんだビルの前でやっと止まった。
「ハアハア……お前すぐそこっていったのに遠すぎだろ」
「お疲れ様っす。事務所はこのビルの三階っす。あいにくエレベーター
が壊れてまして、申し訳ないっすが階段でお願いします」
 こいつ何言ってんだ。まだ歩くのかよ。事務所に着くまでに時給
五千円は欲しいくらいだな。
 階段の手摺に何回も倒れそうになりながらも、なんとか三階まで上がった。
「ハアハア……もっと運動しとくんだった」
 男が何食わぬ顔で平然と扉の前に立っている。何故か無償に腹立たしかった。
「ここっす。それでは扉を開ますから、入って下さい」
 俺がドアの側まで行ったとたん、後ろから突然押され、つんのめった。

28 :No.08 儲け話 3/3 ◇uu9bAAnQmw:07/08/26 21:27:39 ID:FkikrFkY
「おい! 急に押すんじゃねえよ」
 ドアは頑丈に閉められ、押しても引いても開きそうにない。
「なんだよ。全く」
 辺りを見回すと薄暗くてよくは分からないが、壁に黒い点々の様な物
が一面についており、ところどころ壁本来の色である白色が覗いている。
 手探りで壁にあるスイッチを探し、灯りを付けた。
 周りが明るくなると、徐徐に視界が広がり、改めて壁を見るとそこには無数の蚊が止まっていた。
 扉の向こう側で、嘲りながら男が言う。
「汗もかいて蚊のメスもおお悦びじゃないっすか。血を吸われるだけで
時給五千円っすよ。せいぜい、貧血をおこさないように我慢して
下さいね、兄さん。せっかくの人体実験なんすから。いい記録が
出るのを期待しるっすよ」
 ああ、やっぱりな。楽な儲け話なんかあるはずがない。
俺は力なく床に座りこんだ。



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