【 ものは言いよう 】
◆5FrGyCjERQ




10 :No.04 ものは言いよう 1/4 ◇5FrGyCjERQ:07/08/26 18:16:08 ID:FkikrFkY

 「山田さん?」
「山田、ここ空けて下さい」
「山田コラ、開けんか!!!」

俺はじっと息を潜めた。出ちゃいけない、出たら最後、ヤクザにボコボコにされて殺される。恐怖を紛らわせる為に必死に別の考えに思考を巡らせた。
声からしてヤクザは三人ってところか。みんな怖い顔してんだろうなぁ…、ここアパートだからあんまり騒がれたら追い出されんのになぁ…。

 「山田出てこんかああああああああ!!」

正直、はい私が山田ですと言って出て行く山田はこの世にいねぇよとツッコミたくなる。
しかしこのまま黙っている訳にも行かない。いつかはこんなボロいドアを突き破って部屋に入ってくるだろう。ヤクザから逃れるためには金を返せば良い。せめて利息だけでも。ポケットを探り小銭をかき集めると、全財産は52円だった。死にたい。
俺が借りた借金はもう人間が返せる額ではない。2億だぞ2億。もう笑うしかない。金目の物は質に入れたし、親も親戚も友もいない俺にどうしろと。

 「おんのは分かってねん……出てこんかったら、ここブチ破るぞ!」

辺りを見回す。俺大ピンチ。やべぇ。するとふと、ある物が目に入った。

11 :No.04 ものは言いよう 2/4 ◇5FrGyCjERQ:07/08/26 18:16:28 ID:FkikrFkY

 「山田ああああ!!」

べシャン、となんとも情けない音をたててドアは突き破られた。
アロハシャツを着たメタボリック予備軍のような男達が三人つかつかと土足で上がりこんで来る。

「やっぱりおったな……、堪忍せぇ!」
「ま……、待て、五分だけ時間をくれ」
「アホかああああ! さっさと来い!」
手を掴まれる。俺大ピンチ。マジで失神する五秒前。

「待て!! 話を聞いてくれっ!」
必死に喚く俺を見てヤクザも何を思ったのか手を離してくれた。
俺は続ける。
「もう覚悟は出来てる。だが、最後に一つ、賭けでもしないか?」

ヤクザもその場に座ってくれた。俺はさらに続けた。
「カードゲームをして俺が勝ったら、俺の借金をチャラにして欲しい」


12 :No.04 ものは言いよう 3/4 ◇5FrGyCjERQ:07/08/26 18:16:47 ID:FkikrFkY

 神妙な顔つきで俺が手に持つカードを睨むヤクザを見て俺は勝ち誇る。
俺が提案したゲームのルールは簡単、この四枚のトランプは全てエースである。そして、その中からハートのエースを引き当てたらヤクザの勝ち。それ以外なら俺の勝ち。

「よし、わしも男や」
そう言って快くカードゲームを承諾したヤクザを心の中であざ笑った。バーカ。ハートのエースは俺があらかじめ二枚持ってたスペードのエースにすりかえた。絶対俺が勝つようになってるんだよ。

「これやぁ!!」

そう言って勢いよく引き上げたカードを見て俺は邪に微笑む。それは絶対にハートのエースではない、したがってこの賭けは俺の勝ち!!



「……ハートや」



13 :No.04 ものは言いよう 4/4 ◇5FrGyCjERQ:07/08/26 18:17:03 ID:FkikrFkY

「え?」

そう言うが早いかヤクザはカードを放り投げ、俺の足を掴み投げ飛ばした。

「ハートのエースやったわ! わしの勝ちじゃあ!!」
「いってぇ……。そん、そんな訳……」

起き上がろうとした俺をヤクザは三人がかりで抱きかかえ、そのままアパートから出て行こうとした。

「何考えとったんか知らんが……これで終いやなぁ。その体ズタズタにして売り飛ばしたるわ!」
「やめてくれぇえええええ!!!」


一瞬にして静かになった部屋に夕日が差し込む。ヤクザの引いたスペードのエースも紅く夕日に染まった。





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