【 真相の一例 】
◆YSK..EhvHc




5 :No.02 真相の一例 1/1 ◇YSK..EhvHc:07/08/25 19:49:53 ID:oCM7Fdnj
発展していく都市の裏、閑古鳥の鳴いている路地に邪念士をやっている男がいた。男はこの国の極秘機関であ
るアカデミーの落ちこぼれだったので、邪念士になるしかなかったのだ。邪念士というのは送受限定第二級魔術
師の通称である。この職業、字面からは物凄い職業のような気もするが、実際には軽い呪いの言葉を送り、相手
を嫌な気持ちにさせる非常に無意味で非生産的な職業である。なぜ国がこんな職業の存在を許しているのかは大
きな疑問であるが、時には国の長である大統領自ら助けを借りる事もあるらしい。

ある年の七月の終わりのことだった。灰色のビルの間を縫い一台の黒塗りの車が男のもとへやって来た。なん
と車には大統領が乗っていた。大統領は男に呪うべき男の名前を耳打ちし、八月の初めから送受を開始するよう
にと言い残し、車ごと灰色の都市に溶けていった。大統領曰く東の機械化国に囚われた英雄を救うのに邪念士の
助けが必要らしい。
八月に入り男は祖国のため寝る間も惜しみ呪いを送り続けた。しかし、東の機械化国もなかなかしぶとかった。
最初の訪問から三週間程たった頃、また大統領が男のもとへやって来た。大統領が外交的手段を用いたが失敗し
たらしい。大統領は憤慨した様子で、寂れた家が壊れてしまいそうな低い声で
「病気にしても構わんもっと邪念を送れ! 経済的な問題もあるんだ!」
と言い置き、そそくさと夜の闇に溶けていった。
その年の八月二十九日、邪念士の働きのおかげもあり無事に英雄が帰国した。大統領は嬉々として男のもとへ
やって来て、感謝の意を表した。男は自分が祖国の役にたったことをたいそう喜んだ。しかし、テレビも新聞も
無く外出もほとんどしない男は自分が送った邪念がいかに東の機械化国や祖国に影響を与えたかは知らなかった。

呪いを送った相手が東の機械化国、すなわち日本で朝青龍と呼ばれていたことも。



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