【 連続する夢の終わり方 】
◆dT4VPNA4o6




115 :No.26 連続する夢の終わり方 1/3 ◇dT4VPNA4o6:07/08/12 23:30:39 ID:JWAwekiB
 ろくでもない夢を見た。様な気がする。内容は覚えていない。まあ、夢と言うのはそんな物だ。時計に
眼をやる。午前六時、少し回ったところ、そろそろ起きなければ遅刻する。どうと言うことはない。いつも通りの
朝だ。無意味に気分が悪かったが。
 決して真面目とは自分でも思っていないが、実家住まいでは大っぴらにサボることも出来ない。眠い眼をこすりながら
身支度をして、バイクにまたがるとJRまで直行、大学までの一時間半余りを足りない睡眠時間に当てる。いつもと変わらない。 
 そして、私は又しても変な夢を見た。相変わらず内容は覚えていない。が、それが余計に気に障った。
 朝からついていない時は、元々集中しない授業が更に身が入らない。ぼさっと授業を聞いていると、一人の男が近寄ってきた。
 米内だ。学内でほぼ唯一と言っていい私の知り合いだ。幸か不幸か高校時代の仲間連中が殆ど自宅から通える大学に
進学したこともあって、私は学内で知人を意識して作らなかった。結果、中学時代の同窓である米内が唯一の話し相手となっていた。
 
 この米内という男、実に傍若無人である事を私は今までの四年間で思い知らされつつあった。
 確かに基本的には善人である。だが、米内は他人の都合に関して酷く無頓着、と言うより人間関係を構築するに致命的な程
自己中心的であった。私がこの事に気づくのに四年もかかった――中学時代も入れれば計七年だ――のは米内の言動に、
今から思えば奇跡的に、これと言った不満を持たなかったからに過ぎない。
 それが、昨年初旬から微妙に状況が変化し始めた。単位取得に四苦八苦(遊んでいたツケだが)する私と違い、米内は理想的に
単位を収め既に三年時にはかなり余裕のある時間割となっていた。
 暇を持て余した米内は、私が授業を受けいているのを知っているにもかかわらず、やれ「ゲーセンに行こう」だの「カラオケに行こう」
等と、こちらが断っても執拗に誘ってきた。私はそれを、ある時は諦めついて行き、またある時は直ぐへそを曲げる米内をなるべく
刺激せぬように丁重に断った。
 
 そして今日もまた米内は、例によって昼からボーリングに行こう、などと言ってきた。私が昼からも授業がある事をしった
上での発言である。もちろん、奴は授業はない。
 無論私は断ろうとしたが、今日の米内は随分としつこかった。仕方なく、やや強い口調で断りを入れると「あっそ」と残して
どこかに去っていった。

誰かに後をつけられている。振り返っても姿は見えない、悪意を持って追われているのかも分からない。ただ腹立たしさだけは
募り続けた。走ってみると、追跡者も走り出した。それがずっと続く。
 そんな夢を見た。今度は内容を覚えていた、相変わらず寝覚めが悪い。

116 :No.26 連続する夢の終わり方 2/3 ◇dT4VPNA4o6:07/08/12 23:31:17 ID:JWAwekiB
米内とはもう、学校では殆ど会わなくなっていた。だが、交流がなくなったのではない。残すところ卒論と数単位を残すのみの
暇を持て余した米内は、私のバイトがない日を見計らってはメールを寄越した。内容は、少なくとも急な事ではない。授業の時間は
もちろん世内も知っている。その日も『授業をサボって、内に遊びに来い』と言う内容のメールが送られてきた。
 黙殺しても送られてくるメールが増えるだけなので、苛立ちを抑えながら断りの返信を送るが奴は懲りずにメールを送り続けてきた。
 耐えかねた私は何度目かの返信で『くたばれ』とだけ返した。これでさすがに少しは静かになるだろう。そう思った。
 だが、私の考えは甘かった。数分とたたぬ内に又してもメール。内容は『死ね』のみだった。立て続けにもう一つ『てめーがくたばれ』。
私は携帯を叩きつようとする衝動を必死でこらえた。だがこれで当面奴と会う事はないだろう。だが、数時間後『週末はくるか?』と言う
メールが再びやってきた。私はため息しか出なかった。
 正直なところ、最早米内は私にとっては『鬱陶しい』存在に成りつつあった。これが米内と私のみで関係が完結するなら、私はもっと早く
この男と積極的に関係を絶つように努力するだろう。だが、私の人間関係のネットワークは大半が米内とも繋がりがあり、奴との関係をきる事は
このネットワークに欠陥が生じる可能性があった。


 私を追い立てているのは米内だった。別に害を成そうとしている訳ではないようだ。だが、奴の執拗な追跡は私の神経をすり減らした。私は
米内の追跡から逃げるようになった。米内はこれを追い詰めてくる。私は完全に逃亡者となった。
 夢が続いている。私の深層心理の表れとやらであろうか。最近、寝汗が酷い。

 私が鬱陶しいだけなら、別にどうでもいいのだ。だが、米内は最近私が紹介した何人かの知人にも同様の行為に及んでいるらしい。ある日
その事を共通の知人から洩らされた。たちの悪い事に金銭がらみでトラブルが発生したと聞いた。他にも、別の人が余りの言動に「もう、
アイツとは付き合いたくない」と洩らしている事も。世の中、私の様な卑屈な人間ばかりではない。その内、どこかで爆発が起こるだろう。
 数日後、米内にさり気無く一連の件を振ってみたが、米内は自らの非を認める事はなく相手の無意味な誹謗に終始した。
 別にこの事で私が何かした訳ではないし、私は米内の保護者ではない。だが、彼らに米内を紹介しなければ発生する事のなかっ事態だと
一度考えると思考をリセットする事は出来ず、自分でも良く分からない罪悪感を抱いた。
 最近の米内は自分勝手さに拍車にかかっており、先の様な相手の都合を考えない誘いだけでなく、直前になってのキャンセルや連絡を
寄越さず集合にも現れない――自分で集めておいてだ――など、かなり悪質になっていた。
 私はここに至って、米内に人間関係のネットワークから外す事を検討するようになった。だが、奴は奴で自分で関係図を構築しており、
しかもそれがまた別の知人と繋がりがあったりするのだった。情けない事だが、私はネットワークに歪ができる事が怖かった。

117 :No.26 連続する夢の終わり方 3/3 ◇dT4VPNA4o6:07/08/12 23:32:16 ID:JWAwekiB
米内が怪物になった。形こそ人間だったが、背丈が三m近くあり何ともいえない凶暴な顔つきになっていた。当然私は逃げた、だがあっさりと
追いつかれる。奴はいつも通り執拗に追いかけてくる。いつもと違うのはまだあった。私の知人が何人か出てきた、皆怪物となった米内に
何かしらの被害を受けている。
 怪物米内が私の前に先回りして仁王立ちになった。今まで走ってきた道はいつの間にか壁になっていた。「逃げられるものか」そういわれた
気がした。
 その時私は、傍らにあった自転車を片手で持ち上げた。そして車輪のスポークを持つと勢い良く頭上で回転させ始めた。
 米内が飛び掛ってくる。私はカウンター気味に自転車を米内の胴体に叩き付けた、米内は真っ二つになると一瞬で消えうせた。
 
 そんな夢を見た。寝起きはそれほど悪くなかった。寝汗もかいていない。だが、夢の内容を良く考えると複雑な気分になった。
 今までと違い、夢は第三者の視点だった。夢の超人的な私は私の願望なのであろう。あるいは止めを刺してしまえと本能が
命令しているのか。とにかく私の理性は止めを押しとどめている。
 携帯に眼をやると一通のメール。休日の朝から時間帯を考えずメールを送ってくる人間を私は一人だけ知っていた。
 私はため息ををついて返信の作業を始めた。 
 怪物は死んでなどいない。



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