【 お化けな一夜 】
◆InwGZIAUcs




112 :No.25 お化けな一夜1/3 ◇InwGZIAUcs:07/08/12 23:27:44 ID:JWAwekiB
 ひらひらと小さな雪が舞い落ちる冬の夜。
 時刻は既に零時を回っていた。
 この時間、いつもはその無駄に綺麗な鳴き声を絶え間なく響かせている
近所迷惑な俺の友達、セキセイインコのピヨコは、棒に掴まったまま器用に
微睡(まどろ)んでいる。
 もう一匹、同じく無駄に元気なホイール愛好者(ハムスターは皆そうか)のハムスター、
キナコも既に眠りの小屋に入っているのかとても静かであった。
 俺はといえば、長いこと積んであった小説を片っ端から読み始めること三時間。
そろそろ肩がこり始めた頃なのだが……ふと、思った。
 こんな静かな夜には何かが起こる。
 そんな気がしていた。


 そしてその時、何の根拠もない予感は現実になった。
 その現実は、慌しい足音として近づいてくる。
 俺の部屋の扉が思いっきり開け放たれた。
「お兄ちゃん!」
 そこには、綺麗に整った黒のロングヘアーを振り乱す涙目一杯の妹が立っていた。
「夕子か。どうした?」
「お、おっ!」
「お?」
「お化けが出たああああぁぁぁぁー!」
 せき止めていた瞳の堤防が決壊したようで、夕子はわんわん泣いている。
「お、お兄ちゃん……どうにかして……」
 どうにかって言ってもどうしろと?
 とりあえず事情を聞いてみる。
「まず何で幽霊だと思ったんだ?」
「声がしたり……勝手に、勝手に物が動いたりしたの……」
「ふむ。それで俺にどうしろっていうんだ? お払いでもしろってか?」
「だって、お兄ちゃん"見えたり"するんでしょ?」

113 :No.25 お化けな一夜2/3 ◇InwGZIAUcs:07/08/12 23:28:07 ID:JWAwekiB
 確かに俺は一般的に幽霊と言われているのが見えたりする。
というか話しさえできる(家族には気味悪がれるから言っていないが)。
 俺は手に持っていた小説を閉じると、部屋を見渡し、回転椅子を回して夕子の方を向いた。
「まあいいよ。謎は解けたから」
「へ?」
 夕子はきょとんとして俺を見る。
「いや、こっちの話。さあ夕子の部屋に行ってみようか」


 俺と夕子はそのお化けがいるという彼女の部屋にやってきた。
 寒がりな夕子の部屋は、暑がりな俺とって相変わらず最悪な環境だ。
 俺はふと斜め上の空中に目を向け呟いた。
「よお、ここで何やってるんだ? こんな所に居ても幸せになれないぞ?」
「お、お兄ちゃん? 誰と話してるの?」
 夕子が青ざめ苦い笑みを浮かべているが、俺は気にせず続けた。
「え? モテなかったから可愛い夕子と友達になりたいって? こんなんどこも可愛くねーよ」
 思わず逃げようとあとずさる夕子の腕をつかんだ。
 しょうがない、中学二年にもなって本当に怖がりな奴だ。
「冗談だよ。からかっただけ」
 とりあえず逃げるのはやめたようだ。
「もう、こんな時に冗談なんかやめてよぉ」 
 半泣きな妹をこれ以上怖がらせても仕方ない。
「それで……やっぱりいるの?」
「お化けが? いないよ」
「でも!」
 夕子は尚食い下がらない。
「うん。わかってるよ。お前が感じた違和感は幻覚でも何でもない。犯人がいるのさ」
「犯人?」
 夕子は小首を傾げると思い当たる人物でもいるのか、全く訳が分かっていないのか、
目線を上に泳がせた。

114 :No.25 お化けな一夜3/3 ◇InwGZIAUcs:07/08/12 23:29:22 ID:JWAwekiB
「この部屋で一番暖かい場所はどこだ?」
「え? 何の関係があるの?」
 さらに疑問符を頭の上に増やす夕子。
「いいから」
「多分、電気毛布使ってる私のベットかなぁ?」
「なるほど」
 俺は這いつくばると、そのベットの下へと手をやった。

 いた。

「ほれ、こいつが犯人だ」
「あー! キナコ!」
 犯人はそう、やたら静かだったハムスターのキナコだった。
 そのキナコは「ハナセハナセ」と、首の根元を掴まれながらもじたばた暴れている。
「もーキナコの馬鹿ぁ!」
「ハムスターは暖かいところがすきだからなあ……これで安心したか?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
 すっかり機嫌を取り戻した夕子。普段からこれくらい素直だったら可愛い奴なんだけどな。
「さあ、一緒に行くぞ」
 俺はキナコ達に声を掛けると、夕子の部屋を後にする。
「今度私特性のおにぎり作ってあげるからね!」
 後ろから聞こえてくる夕子の声。俺は適当に手を振ったのだった。

 終わり



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