【 これがほんとの「ししょうせつ」 】
◆O8W1moEW.I




29 :No.07 これがほんとの「ししょうせつ」 1/1 ◇O8W1moEW.I:07/08/11 22:22:32 ID:Hvkbkqxi
 俺の話を聞いてくれ。あれは確か、十二年前のことだ。
 阪神淡路大震災。兵庫県を中心に未曾有の大惨事を引き起こしたそれは、
遠く北関東の我が家にも混乱を招いた。
ちょうどその頃、母方の親戚のおじさんが、出張で兵庫に行っていたのだ。
地震発生からしばらく経っても、おじさんからの連絡が来ることはなかった。
口に出そうとはしなかったが、きっと俺も母も同じことを考えていたのだと思う。
もしかしたら、おじさんは怪我でもしたのではないか。いや、最悪の結果だってあり得るかもしれない、と。
 これがほんとの「死傷説」。

 俺の話を聞いてくれ。あれは確か、ちょうど一年前のことだったと思う。
 2ちゃんねるのニュー速VIPという掲示板のあるスレッドに出会ったことがきっかけで、
俺は小説というものに興味を持つようになった。
とりあえず、スレで話題になっている小説を読んでみよう、そう思った俺は、
はじめて市立図書館まで足を運んだ。
そこには運命の出会いが待っていた。司書の女性が、あまりに俺のタイプだったのだ。
彼女が本の整理をしているところにそっと近づいて、本を探すふりをしながら横目で様子を伺った。
だが、棚の整理はすぐに完了したと見えて、すぐに彼女は別のフロアに向かおうと右へ曲がっていった。
 これがほんとの「司書右折」。

 俺の話を聞いてくれ。もはや実体験でもなんでもないが、三百年ほど前のことだ。
 ある藩の殿様が、寝室の屏風に描かれている獅子が夜な夜なそこから飛び出してきて、
室内をのそのそ歩き回るので、怖くて眠れなくなったそうだ。
そこで、ある徳の高い僧侶に相談することにした。
僧侶は獅子を屏風に封じ込めることを約束し、寝室に張り込むことにした。
夜が来て、獅子が屏風から出てきたその瞬間、
両手に高温を発する鉄の棒を持ち、顔の前面を防護マスクで覆った僧侶が、獅子に駆け寄っていった。
バチバチッと火花が散った。
獅子は一瞬にして、屏風と同化してしまった。
 これがほんとの「獅子溶接」。
                            <完 親戚のおじさんは無事でした>



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